見出し画像

番外編その4 ノイバラを求めて自称プラントハンターは今日も行く

凄まじい台風でしたね。こちらでもニュースは放送されていて、被害の大きさに心が痛みます。一日も早く復旧が進み、平穏な日々が戻りますように。

NYもお天気が今ひとつで秋バラも今ひとつ。花が咲き揃うっていうのは難しいかも……と思って少しずつ写真を撮りためているところなので、今日は番外編をお送りします。

些細な日常の報告ですが、見てくださる方にとって、束の間の休息になってくれれば嬉しいです。

*****

きっかけは些細なことでした。物語のイメージを膨らませていて、ふと、真っ赤なノイバラが見てみたくなったのです。真っ赤なノイバラ!

原種は北半球に200種はあると言われています。けれど私の勝手なイメージでは、その大半の花色が白かピンクでした。もちろん、赤バラの祖と言われるロサ・ガリカがあることは百も承知ですが、それらは私の中では赤というよりは濃いピンクに近かったため、「赤」に妄想が炸裂したわけです。

しべが鮮やかに見える一重のバラはどこかエキゾチックで、遥か遠い時代の世界地図が目の前に広げられるようなロマンを感じさせ、恐ろしく心くすぐられてしまいます。その赤ともなるとより一層。

ああ、見てみたい。そう思ったらいてもたってもいられなくなり検索開始。そんな花、あるのだろうか。その時点では赤いノイバラは、私にとってファンタジーの産物でした。けれど、目の前に咲き誇るこれは何?

「……赤、結構あるのね。」
どうやら北半球は思った以上に広かったようです。(笑)。

中でも目を引いたのはロサ・モエシーでした。中国原産の真っ赤な一重で黄色のしべが美しい。なんというか、想像以上に官能的なというか。それでいて3cm程度とか、花の大きさも理想的です。もうこれは……私のローズガーデンにお迎えするしかない!

そう、ノイバラから始まった私のローズガーデン、ここに原種を含めたオールドローズを加えていくことが夢だったりします。イギリスのオースチンに苗があることを知った私は、ウキウキとアメリカのサイトにアクセスしました。「……」なぜ!なぜなの!

日本のサイトにもあったのにアメリカにはなかったのです。その後、あれこれ調べてみたのですが、なぜかオールドローズを扱うアメリカのナーサリーのサイトを見つけられず、結局行き着いたのは種でした。バラを種から育てるなんて経験も自信はありませんでしたが、うちのノイバラはみんな零れ種。その強さを信じてやってみることにしました。

同時に黄色いノイバラのロサ・ユーゴニスの種も入手。ターシャ・チューダーが育てていたバラですから知っている方も多いかもしれませんね。解説を読めば、ユーゴニスはそのままで大丈夫でしたが、モエシーは一手間必要でした。十分に保湿したのち冷蔵庫に入れて冬を疑似体験させるのです。これが発芽を促します。

画像1

モエシーの準備が整うのを待っていよいよユゴーニスと一緒にスターターキットへ。数があったからこれがいいだろうと思ったのですが、甘かった。とにかく小さいから、保湿のための蓋をしているものの、水遣りのタイミングもやる量も難しいのです。

悪戦苦闘しつつの1カ月半、もう発芽してもいいはずなのに全く動きがありません。夏も近づき、このままでは発芽途中で干からびてしまうかも。焦った私はスターターキットごと鉢植えすることに決めました。(下の写真は水をやる前のキットです)

画像2

そしてこのタイミングでもう1種類、思いがけず植えることになりました。それはロサ・ルゴサ。日本でいうなら園芸用のハマナスでしょうか。いわゆる原種系・ハイブリッド・スピーシーズですが、原種の特徴である大きなローズヒップは健在です。そして猛烈な棘も。

友人のアート作品がイーストリバーを望む公園に設置されたお披露目会の時、作品脇の遊歩道にびっしりと植えられていたルゴサ。見頃を調整してあったのか、まだ6月だというのにもうすでに大きなローズヒップが付いていました。花の色は白とピンクの2種類でした。

画像3

画像4

ふと足元にローズヒップが落ちているのに気づきました。なっているものをちぎるような真似はしたくないけれど落ちているのなら拾ってみようか?ここでダメになってしまうなら持ち帰ってもいいよね?そう思ってしまったのが運の尽き?いや運命?(笑)

帰って見ればすでに十分成長していたらしく種がこぼれでました。捨てるとか、もう無理ですよね。こうなったらまとめて実験だ!と、種の数が少なかったユーゴニスの鉢に一緒に植えることにしました。

が、待て。やっぱり植える前に手が止まります。いいのか、こんな無計画なことをして、本当にいいのか?庭にルゴサなんて考えていなかったよね?

そうよ、拾った種だから白かピンクか色もわからないし、それ猛烈にトゲトゲですよ~と、脳内で優しい誰かが忠告してくれました。けれどそれを押しのけて現れたもう一人が声高に「思いがけず種を手に入れるとか、なんかプラントハンターちっくじゃない?こういうのってわくわくするよね」なんて煽るものですから、結局私は乗せられ、舞い上がってしまいました。はい、ええ、もうこれは、ロザリアンの宿命でしょう(笑)。

画像5

ルゴサ、ネットで見れば半年ほどで発芽とのこと。じゃあ、もしかしたら未だ発芽の兆しのない他の2種も?と淡い希望を持ってみました。しかし半年後、秋の終わりになっても3つともに変化なし。さらにはユーゴニスのキットのヘリにコケまで生えて……ああ、悩ましい、どうしたものか。

やがて凍てつく真冬に突入するにあたり、鉢の中に落ち葉を重ね、簡易アーチのようになっているノイバラの下へ移動させました。成長も止まるでしょうから観察は春までお預けだし、これで越冬できなければもうその時だと、そう思ったのです。

やがて春になり、私も庭に出てあれこれ点検&準備など。けれどうちのノイバラが芽吹き活動を始めても、やはり2つの鉢は沈黙したまま。もはやこれまでかと思ったのですが、ここまでくるとさすがに開き直ります。こうなったらとことん見守ろうと決めました。陰になっていては出るものも出ないだろう、とノイバラの下からアーチ足元に移動させて観察続行です。

初夏になりノイバラが開花。それでも何も変化はありません。と言って捨てる理由もない。私は日々、何もない鉢に水やりし続けました。そしてノイバラの花も終わり迎えた夏、何がどうした、何がおきた?2鉢ともに一斉に発芽したのです。

しかし、ここで問題が持ち上がります。よくよく周りを見渡せば、同じように小さなノイバラが芽吹いています。明らかにそれらはうちのノイバラの零れ種。ということは……長らくノイバラの下に放置してあったこの2鉢の中にその種が紛れ込んでいる可能性は限りなく……高い。

モエシーもユーゴニスも実際には見たことがありませんからその葉っぱなどからは判断できず、開花時期も終わっているから花色で確認もできない。とにかく大事に育てて来春を待つしかありません。ただユーゴニスに関しては芽が出ている場所がキット脇ですからノイバラの可能性が濃厚です。それでもまだ決定打ではないと思いたい私。

画像6

そうこうしているうちに1本はルゴサであることが判明しました。特徴ある棘びっしりの茎と肉厚で丸っこい葉っぱ。間違いないでしょう。これは秋の終わりまでにはノイバラの新しいアーチの隣に移植しようと決めました。

モエシーの鉢を見やれば、最初に伸びた細くひょろひょろした先の方の葉っぱは虫に食われたり病気になっていたりしますが、根元から新たに立ち上がっているものは思いの外しっかりとしていて葉色も濃い。その葉の育ち方が、うちのノイバラとは少し違うような気がする……その茎の色もなんとなく赤みが強く、頭上で揺れるノイバラとは違うような気がする……。

気がするばっかりですから期待しすぎない方がいいのはわかっていますが、モエシーの苗が買えるナーサリーを見つけた今、ここはダメ元で期待度を上げてみます。

とにかく怪しい2鉢は凍結しないように、ベジーガーデン隅に穴を掘って植木鉢ごと埋める予定です。経験から言ってノイバラはかなり強いですから、小さな植木鉢で地上に出しっぱなしでも問題はないのですが、念に念を入れ、ですね。

来春にはモスローズのウィリアム・ロブをオースチンで購入予定です。さあ、オールドローズたちの早春の祭典なるでしょうか。私は念願の赤い花と黄色い花を見ることはできるのでしょうか。続きはまた半年後に。


ローズガーデンのあれこれはこちら



サポートありがとうございます。重病に苦しむ子供たちの英国の慈善団体Roald Dahl’s Marvellous Children’s Charityに売り上げが寄付されるバラ、ロアルド・ダールを買わせていただきたいと思います。