偉大な音楽家は許されても、現代のミュージシャンには許されない『月の光』

歴史に名を刻む偉大な作曲家の中には、ドロドロの恋愛劇がつきものだった。
許されない不倫関係、密かに燃やす熱い想いとやらが、ロマン溢れる曲を生み出していたのかもしれない。肯定的に考えることは出来る。
しかし、巻き添えを喰らった被害女性からしてみれば「この野郎!」と腹立たしくなるのも共感出来る。奈落に突き落として自害に走らせた音楽家はトンデモ系男子だ。

私が手掛けるnote限定の連載小説【ストロベリー狂詩曲】は、今のところドビュッシー作曲『月の光』に触れていて、当初はそこまで深堀りする気はなかったが、調べていくと、これがなかなか面白い。
彼が18歳から20歳の時に既婚者のヴァニエ夫人と愛を紡いだ際に、この名曲は生まれた。不倫が音という形になったわけだ。

こんなことを現代のミュージシャンがやってしまったら、ファンは減って世間からは冷たい視線を注がれ、業界には干されて歴史に刻まれることはなくなる。人の記憶には残るだろう、不倫した人だよね、って。茶の間のネタ扱いだ。

とは言っても、世間的に知られている『月の光』は、ヴェルレーヌの詩に感銘を受けたドビュッシーが、同じタイトルの曲を作ったに過ぎない。今風に言うと「インスパイア」だ。

ヴェルレーヌ自身は結婚したり、同性愛に走ったりと、奔放な人だった。奔放が過ぎて妻にDV、母を絞殺、牢獄入りをするなど、wikiでは『その人生は破滅的であった』と書かれていた。こちらもトンデモ系男子である。トンデモは同じトンデモ系を引き寄せるのだろうか。

さて、そのドビュッシーも不倫三昧という、常に新たな恋を求めるロマンチストなのか、一人の女性では物足りない好色さんだったのかよくわからないのだが、それでも最後は娘を愛する馬鹿親になったことは事実だ。

娘の愛称はシュシュ、訳すと「キャベツちゃん」。数々の名曲を生んだ音楽家は愛称の発想がすごい。それ以上にすごいのは、妻の寛容さだ。
日本のミュージシャンが愛娘にキャベツちゃんと名付けたら、妻が嫁ブロックを発動するかもしれない。

ところがどっこいの話、ヴェルレーヌ『月の光』を先に作曲したのは、
これは【ストロベリー狂詩曲】08・前篇でも触れている通り、フランスの作曲家、ガブリエル・フォーレだ。

話が逸れると思うだろう。

なんと、ドビュッシーの妻エンマ・バルダックは、結婚前、フォーレの愛人だった。
エンマはフォーレとドビュッシーにプロポーズされ、何故かドビュッシーを受け入れた。最後まで愛を貫き、墓まで一緒だったのである。
フォーレはフォーレで良きパートナーが見つかったので、両者共にハッピーエンドだと思いたい。

偉大な音楽家は美化されても、現代のミュージシャンは美化されないことがほとんどだ。
個人的に、ミュージシャンは人間だと私は思っている。わざわざ報道でスキャンダルにしなくてもと、たまにニュースサイトを通して労わりたくなる。
行き詰った時、暗い夜を照らす月がそこにあったら……。

ただし、月の光を浴びて狼になるのは、本物の愛を育んでからにすべきだろう。

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