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細胞培養「接着細胞の細胞数計測」

細胞数計測はなぜ大事?

接着細胞の培養において、細胞分散後の細胞浮遊液の細胞数を素早く正確に計測することは大変重要です。

素早くする理由は、
接着細胞が浮遊する時間が長いと、細胞が弱ってしまうからです。

細胞を分散させてから播種する時間が30分以内であれば、通常の継代とさほど接着率は変わりません。ですが、30分を過ぎると、播種後の接着率がぐっと下がります。そのため、正確なアッセイはできないと思われます。

論文にしてないのですが、確認実験しました。
ヒトES細胞を分散させて遠心、再浮遊させた後、5本に分けて、
すぐに播種
15分後に播種
30分後に播種
45分後に播種
1時間後に播種
2日間静置して、3日目に接着を確認しました。

なーんだ、ヒトES細胞みたいな細胞か、って思うかもしれません。
ヒトES細胞は、形質の変化が分かり易いだけです。HeLa細胞も形質が変化しやすく、ラボの数だけクローンがあるとも言われてます。癌細胞など一見安定な細胞株であっても、形質は変化する可能性は多いにあります。

播種後の結果は、
すぐに播種 →いつもの継代よりしっかり接着していて、コロニーの状態もすこぶるよく未分化状態を維持していた。
15分後に播種→いつもののんびり継代している時と同様で、コロニーの状態は、未分化状態を維持していた。
30分後に播種→いつもの継代よりややコロニー数は少ないものの、コロニーは9割は未分化状態を維持していた。
45分後に播種→すぐに播種した条件の1/10程度のコロニーが見られたが、コロニーはやや分化傾向だった。
1時間後に播種→接着しているコロニーは数個だけで完全に分化しているコロニーもあった。

つまり分散後、30分以内に播種しないといけないことがこれでわかりました。
ROCKインヒビターを使えばいいかもしれません。
でも無理やりシグナル経路を変化させることになりますよね。
この実験をやって以降、アッセイするときは、どんな細胞でも30分以内に播種するようにしています。つまり、30分以内に播種できないような実験は組まないようにしています。

正確に計測する理由は、
再現性ある結果を得るための作業を行うためです。

播種密度により、その細胞集団の応答性は変わることが多いのです。
ですから、毎回、同じ播種密度になるように播種する必要があります。

細胞数計測法

細胞数はどう計測するのでしょう?

一般的に用いられる方法としては、大きく3つあります。
①    血球計算盤などを用いて顕微鏡を使ってマニュアルで細胞数を数える方法
②    画像解析を使った自動で計測する方法
③    電気抵抗法を利用したコールター原理を用いた計測法

それぞれ簡単に説明していきます。

①    血球計算盤などを用いて顕微鏡を使ってマニュアルで細胞数を数える方法

血球計算盤に細胞浮遊液を入れて、顕微鏡下に細胞数を目で見て計測します。
血球計算盤には、ガラス製とプラスチック製とあります。古くからガラス製が使用されていましたが、近年、バイオハザードの観点から、使い捨てできるプラスチック製も広く使用されるようになりました。
再現性よく計測するためには、トレーニングが必要ですが、特別な機器を使用せず、簡易に計測できることから、今でも広く使用されています。

②    画像解析を使った自動で計測する方法

細胞の画像を取得し、細胞カウント専用ソフトウェアで解析し、細胞数を計測します。蛍光染色したものを測定する方法と、非染色で計測する方法があります。

③     電気抵抗法を利用したコールター原理を用いた計測法

ウォレス・H・コールター氏と弟のジョセフ・R・コールター・ジュニアが開発したコールター原理により細胞数を計測する方法です。コールター社がこの特許を持ち、血球などを計測するコールターカウンターが広く使われていました。現在は、ベックマン社と合併したベックマン・コールター社が、この技術を利用した計測器を主に販売していますが、他社でも製品がでています。

コールター原理は、粒子が穴を通過する際に生じる電流パルスを抵抗変化として測定することにより計測する手法です。ご興味のある方は下記を参考にしてください。

Graham MDon. The Coulter Principle: Foundation of an Industry. JALA: Journal of the Association for Laboratory Automation. 2003;8(6):72-81. doi:10.1016/S1535-5535-03-00023-6

ベックマン・コールター社のウェブサイト:コールター原理 基礎講座

なぜマニュアルで数えるのか?

自動で計測できる機械があるなら、その方が正確じゃないか?と思われるかもしれません。
でも、そうでもないのです。

接着細胞を分散する時、必ずしもシングルセルにはならないですよね。複数個がくっ付いた状態で浮遊していることは多くあります。その場合、機械やソフトは往往にして1つと数えてしまうのです。また、機器は、定期的にメインテナンスしないと正確に測定してくれないこともあります。

機械で自動で測定する方法と、画像で自動で測定する方法と、マニュアルで顕微鏡下に測定する方法とそれぞれメリット、デメリットがあります。

マニュアルで顕微鏡下に測定する手法は、高額な機器が不要で、安価に測定できますので、基本として理解しておくと良いと思います。