トイオシュ

結婚式の「朝プロフ」

前回お話しした結婚式のプロフの続きを。

結婚式のプロフ。
ウズベク語ではトイオシュto’y oshiと呼ぶ。
私の周りにいた日本人はみな「朝プロフ」と呼んでいた。

ウズベキスタンのタシケントでは、結婚式の朝、男たちは早朝から動き出す。そう、朝プロフに行くためだ。たいていは朝7時頃から始まるそうだが、夏期の日の出が早い時期だと、6時に始まることもあるらしい。とにかく朝早いのだ。朝プロフと呼ぶに納得の早さだ。車など持っていない自分にとっては会場に行くだけでもなかなか容易ではなかった。
朝プロフに参加できるのは男性だけ。とはいえ、ウズベク人の結婚式だ。集まる人数も尋常ではない。男性だけにも関わらず、軽く200人くらいはいた気がする。屈強なウズベク人男性がこれだけ集まるとそれだけで圧巻だ。伝統衣装チョポンに伝統帽ドッピをかぶっている人もいれば、その足で仕事に向かうためスーツ姿の人もいる。
記憶では子どもの姿もちょいちょい見たような気がするのだが、聞く話によると普通子どもは来ないらしい。しかし、親族の子どもなら話は別でその場合積極的に参加するそう。私が見た子ども達はみな親戚だということなのかな。

ウズベク男性は結婚式本番やチョイホナ(男性同士で行くカフェ、男子会?)ではお酒を飲む人もけっこう多いが、朝早いからだろうか、それとも何か理由があるのか、その後仕事に行くわけではない人でもこの朝プロフでは大好きなウォッカは飲んでいない。お茶や水の人がほとんどだ。
人々は来た順に席に着き、サラダや果物などを食べ始める。これはこれでもちろん美味しいのだが、プロフはまだ食べられない。メインにはそう簡単にありつけないのだ。
ここで、先にサラダや果物、お菓子がおいしいからと言って、ついつい食べ過ぎてしまっては一大事。プロフの前にお腹一杯になる、なんて事態は避けなければならない。

そうしているうちに、人も増え席が埋まってくる。会場にざわざわと動きがある。
やっとプロフの登場か!と初めて参加した時は勘違いしてしまう。
でも、違う。プロフはまだだ。スピーチが始まる。

この結婚式の朝のプロフは、新婦の親族により催される。このスピーチをするのも親族だ。ところがだ。これが長い。どの朝プロフでもとにかく長かった。
はじめの「まぁまぁ、お祝いなのだから、意味はよく分からずとも聞きましょう」が、「…にしてもちょっと長すぎないかい!?」に変わらない日本人はいるのだろうか、というくらいには長い。

そんなこんなでスピーチが終わるころ、ようやくプロフの登場となる。
スピーチに対してなのか、プロフに対してなのか会場は拍手に包まれる。(たぶん、スピーチに対して。失礼!)

この結婚式のプロフ、おいしいと評判なのは前回申し上げた通り。実際わたしもすごくおいしいと思うのだが、しかし、普通のプロフと比べ、材料に特別なものを使ってるというわけでない。カズ(馬肉のソーセージ)やマイズ(干しブドウ)など、そこらにあるちょっといいお店に行けば、大抵入りそうなものばかりだ。

なぜ、結婚式のプロフはそんなにも皆がおいしいというのだろうか。そして実際おいしい。
自ずと色々と想像してしまう。

① 何百人前も用意する、当然、その鍋はとにかく大きい。少ない量でちまちま作ってもおいしい料理はできない理論、の逆。
② 実は、結婚式のプロフを作るシェフはみな超一流!選ばれし、腕のあるシェフだけが作れるものなのだ!
③ 結婚式の日しか食べられない特別感、というスパイスがこの上ない高みにプロフを押し上げている。
④ みんなで食べるとおいしいよね理論。200人…下手したら300人? 人数が多けりゃ多いほどそりゃおいしくなるでしょ。。。??

答えが確信めかない、ふざけている、そんな声が聞こえてきそうなので
最後に、あるウズベク人と話した時のこの答えを。

「プロフを心待ちにしながら、スピーチを聞く。(中略)…この時間があるからプロフはもっとおいしくなるんだよ!」


プロフを食べるために(そして、お祝いするために!)、早起きして、時に遠くからきて、サラダや果物も食べ過ぎないようにお腹も調整して、そしてスピーチを聞く。
さまざまな困難、苦労を乗り越えてありつける一皿なのだ。

「確かに!!」
彼の答えに、妙に納得してしまった。
(スピーチを聞きながら、お祝いを、祈りをささげることがプロフをおいしくするという意味かもしれないが)


結婚式のプロフは確かに美味しい。

もし、あなたがウズベキスタンを訪れて、結婚式があると耳にしたら、思い切って朝プロフに行ってみたいと伝えてみてほしい。
おもてなしの心とプロフへの自負を持つ彼らはきっと喜んで外国からのお客様であるあなたを招待してくれるのではないかと思う。

そして…
男性しか食べられないんかい!と思いながらも最後まで読んでくれた女性のあなた。
大丈夫。結婚式がある時、同じように「結婚式の朝プロフ食べてみたい。」と丁寧に伝えてみて。
ウズベク人の女性たちが朝プロフを口にできないわけではない。実際、結婚式のプロフが一番好きと答えた女性も多くいた。
結婚式のプロフは持ち帰りもできるのが普通。奥様のために、母のために、娘、祖母、姉、妹のために持ち帰る男性も多くいるとのこと。
やさしいウズベク人男性が、あなたのために朝プロフを届けてくれる…はず!


沢井孝介

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