20190529_村上龍_希望の国のエクソダス_取材ノート

”疑う”ことと、”引き寄せる”こと。村上龍「希望の国のエクソダス」取材ノートを読んで。

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」

村上龍の小説「希望の国のエクソダス」中の言葉です。

「2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた。経済の大停滞が続くなか彼らはネットビジネスを開始、情報戦略を駆使して日本の政界、経済界に衝撃を与える一大勢力に成長していく。その後、全世界の注目する中で、彼らのエクソダス(脱出)が始まった。」文春文庫の紹介文です。

この小説は「不登校の中学生」「インターネット」「金融危機」といった政治・社会・経済的なテーマに真っ向から向き合った物語です。ひしひしとした閉塞感と危機感を感じると共に、冒頭の台詞とは対称的に希望を感じさせる(もしくは自分が希望を生み出していかなければ、という責任感をもたらす)物語です。

今回、村上龍さんが本小説を書くにあたって各テーマの当事者に取材したインタビュー本を読んでみました。文部官僚やエコノミスト、さらには現役中学生にも取材してます。そんな本から2点、特に刺さった台詞をご紹介したいと思います。お付き合いくだされば、、、!

① たとえば数年前、大学の先生や知識人たちが「ユーロができれば近い将来ドルの基軸通貨体制は崩壊するだろう」なんて言ってたけど、現実には今なおビクともしていない(笑)。彼らは現実をいかにももっともらしく解説してみせるんですが、それらがことごとく間違っている。僕がストラトジストとして自らに課しているのは、「王様は裸だ」と言える子供の洞察力を持つことなんです。不安とか期待とかで現実をねじ曲げて解釈している人に水を差すことができればいいな、と。

これは、当時三菱証券のストラトジストの北野一さんの言葉です。ストラトジストとは、金融分野なんかで戦略立案を担う専門家のことらしいです。

安易に社会に流されない。社会は人がつくり営んでいくものだから間違うこともあります。それを疑う視点を持つこと。本質を見定めようとする姿勢を持つこと。そして、それを発信する勇気と行動力を持つこと。水を差す、てなかなかできることではないけれど、”いい大人”はそれをやっていかなければいけない。そういう大人が少ないから、ポンちゃんに冒頭の台詞を言われちゃうんだろうな。

② 僕が思う「いい子」というのは、他人の不幸とか、たとえば第三世界には難民が三千万人いて、俺たちこんなしゃぶしゃぶ食ってるけど、ソマリアでは飢えてるとか、そういった想像力を働かせられる子がいい子だと思うよ。

この台詞は現役中学生たちとしゃぶしゃぶ食べ放題を食べながら村上龍が発した台詞です。

自分も、人として大切なことのひとつに、簡単にスルーしてしまうような出来事、つまり”他人事”を自分自身に関連付ける、つまり”自分ごと”にする姿勢があると考えています。自分の視野や役割をなるべく狭くとってその範囲の中でしか物事を考えられない人、多いですよね。そういう人が増えていくと、世の中に余白が増えていく気がしています。誰も関与していない物事や人が増えていく。当然、そんな社会は寂しい。結局人は、人に肯定的に認知されることで上手く生きていける生き物だと思っています(自己肯定感も含めて)。その範囲を広げる。自分の想像力の限り。

「本質を見極める姿勢を持つ=疑う視点を持つ」

「自分ごとに、引き寄せる想像力を持つ」

そして、そこから行動する勇気と行動力を備える。小説の中の中学生たちのように。

そんな、当事者たちの生の声と世知辛い世の中でサバイブするヒントが詰まった本でした。小説を読んでない人もぜひ!!!

蛇足です。先日久しぶりに野球を現地観戦しました。よく野球選手が「夢を与えたい」とかプレーみた子供が「元気をもらいました」とか言ってるのを「いや年俸上げたいだけやぞ」みたいな冷めた目で見てましたが、本当に元気もらいましたすみませんでした。ドラフト上位で鳴り物入りで入団→若いうちから活躍する選手なんてのはほんの一握りで、ほとんどの選手が2軍でも出番が無くても腐らずに自分を信じて努力した結果、1つのアウト、1つのヒットを生み出しているんだなー、と感慨深かったです。しかし今年は、HR多いですね、、、怪我をなおして、がんばれ柳田!!!


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