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世界中で2人きり|囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather

3/22 鑑賞
※上映中の作品ですのでネタバレにご注意ください。

見てきました。
見るつもりはなかったのに、トレーラー見たらいてもたってもいられなくて、とりあえず見て色々考えようと思いました。思い立って見にいったのでまさか日曜日の早朝からR18を見るとは思ってなかったよ。
原作は3巻くらいまで読んでます。たぶん。
お家に帰って読み返そうと思ったら本棚になくてとても動揺しています。おかしいな…。

重くて切なくて苦しい。
話は決して綺麗事ではすまない話なので倫理的にも社会的もよくないのですが、だからこそ矢代と百目鬼の一途さが際立つ。
曲とモノローグの間合いが凄まじく良くて、軽快な音楽であるのにどこか仄暗い。
モノローグとアニメ特有の眼の動きと表現が、間をうまく支配することで情感の読ませ方にこれでもかという深みを出してくる。
こういう間合いの話は大好きですというか、ずっと待ってましたという感じです。
感情の機微の描き方はどんな作品でも、どんな媒体でも「間」で決まると思っているので、今作のようなヤクザをテーマにした血なまぐさい、そして性欲ドロドロのような動きが激しい分、静かに、いっそ淡々と描く主人公ズのモノローグが染み渡るようにこちらに押し寄せてくる感覚がとてもよかったです。

矢代さんの目線の動きがとてもよかったな。何かを考えているようで、耐えてるようで、訴えかけるようで、諦めている目線の動き。
この人、誰よりもうまく立ち回れるし、誰よりも人と関わることに対して上手なのに、誰よりも生きるのが下手クソですね。
孤独であることに安心してしまってる。自分には自分しかいない、愛する人も、愛してくれる人もいない。「そういう人」と自分を決めることで息をしている。
生きづらさを肯定して、受け入れることで、それが自分だと主張して自分の中の感情に自覚的に一歩引こうとしている。
頭のいい人というか、周りがよく見えてしまうというか、気を回す能力がとんでもなく高いんでしょうね。
百目鬼の妹ちゃんとの接し方がもろそうですね。やさしすぎる。
影山先生への一途さがいっそ痛々しいほどの人なので、こっちも見ていて苦しいのですが、本当にやさしすぎる。人の幸せを願うことができる人なのに、無意識にそう動ける人なのに、その幸せに「自分」は含まれないのが本当に苦しい。しかもそれを意識的にやってるのが本当にたち悪い。

矢代さん見てて思うのは今この瞬間死んでも、あー死んだな〜くらいで受け入れちゃいそうだなって。
自分が生きることも死ぬことも興味がない、誰かの一番になれない自分は、いなくてもいいとすら思ってそうだなぁって。
だからこそ百目鬼くんの焼き切れるような情熱が、見逃してきた矢代さん自身の感情に対して揺さぶりをかけるんでしょうね。

矢代さんが影山先生に向ける感情の強さと、同等の強さを百目鬼くんは矢代さんに向けていると思っているのですが、矢代さんにとっては思ってもいないところからそんな感情ぶつけてきて、自分と同じという嬉しさと、自己嫌悪がいろいろ入り混じってるんだろうなって勝手に思ってます。
でも、優しい人だから、優しすぎてしまう人だからその思いを切り捨てられないんでしょうね。
そして今まで自分が欲しくてたまらなくて、ずっと諦めてきたものが目の前に降ってきた。でもそんなこと初めてで、自分はそんな感情を向けられるような人間じゃないと自分を肯定して息をしているから、その思いに応えてしまったら息ができなくなってしまう、自分を肯定することができなくなってしまうから、拒絶と接近が絡み合っているんじゃないかなと思います。

どっちにしろ苦しい人だなぁ。
感情に広さとか深さの概念があるのなら、きっと矢代さんは底なしに深い人ですね。

そして百目鬼くん。初めて原作を読んだときは年上だったのに、いつの間にか年下になってて日々の流れというのは恐ろしいですね…。
びっくりするくらいわちゃ(羽多野渉さん)の声が低くてびっくりしました。どっからだしてるんだ…。

彼、わりととんでもない経験してる波乱の人生ですね。
まず施設から子供を引き取って妹になるのが中々ないし、初体験は保険医だし、刑務所入るし、ヤクザになるし、運命の人に出会うし。

口下手で何考えているのかわかりにくいかつ、言葉をそのまま素直にしか受け取れない人なので、不器用さんながらそのブレない素直さに信用を勝ち取っていけるある意味でチート能力を持ってる人ですね。でもちょっとだけ個人的に思うのは百目鬼くん無自覚に人間嫌いだろうなって。
割と波乱の人生を送っていくなかで、多分本人気づいてないけど、どこか人間嫌いというか諦めている気がする。
個人的に、ここが矢代さんと百目鬼くんが正反対だなって思うところですね。矢代さん根本的には人間好きな人だと思うけど、百目鬼くんは無意識に人間嫌いそうなので…。

だからこそ、百目鬼くんは矢代さんに出会えてよかったねって思うんですよ。
一途に思いを持ち続ける、自分というものに対してどこか諦めているという、ぱっと見自分と同じ人間嫌いそうな人だけど、根本が違う。
矢代さんに対する評価は「綺麗」ですが、一般的な綺麗な人という(見た目とか心根とか)ことと、百目鬼くんのいう「綺麗」は違う気がするんですよ。
おそらくこんだけ、人間に対して、周りに対して絶望して嫌になったっておかしくないのに、矢代さんはたった一人に対しての「思い」をずっと抱え込んでる。単純な好きとか嫌いとかじゃなくて、もっとぐちゃぐちゃでどろどろして苦しい思いも全部、たった一人に向いて、何年も年々も大切に抱え込んでる。
百目鬼くんは、自分は一度手放してしまった、好きも嫌いもいろんなものがごちゃごちゃになって絡まってしまった、お世辞にも純粋とは言えない感情を「綺麗だ」と思って、そんな抱えるのも一苦労なものを大層大事に抱え込んでる矢代さんを「尊敬」したからこそ、惹かれたんでしょうね。
惹かれるからこそ、自分が一度手放してしまった矢代さんが抱える「思い」と同じような、ぐちゃぐちゃな「思い」を自分も抱え込もうと決意したんだろうなって思いました。

すごい概念ですみません。わたしの感想はすぐ概念になってしまう・・・。

懲りずに概念で話すんですけど、自分が向けていた思いが、百目鬼くんによって自分に向いたので、矢代さんは初めて人に愛される、誰かの一番になる経験をするんだろうけど、優しすぎる人なのでそれをどうにか自分じゃない「誰か」に向けてやりすごして、向けられた思いごと抱え込もうとするんじゃないかなって思う。けれど百目鬼くんはそんな思いを抱え込んでいる矢代さんに惹かれているので、ふり払えなさそうだなって。
もちろん商業BLなのでくっつくんだろうなってぼんやり思ってますが、愛することばっかりで愛されなれていない2人が互いを愛したら、窒息するんじゃないかってくらい2人になってしまう気がする。
わたしはそれが見たい。一途に愛されることを、愛することを突き詰めて欲しいなって思う。幸せと言えなくてもいいから。と考えてしまう程度に2人の抱えている「思い」が強いなと思いました。

今後2人がどこに向かうかわかんないけど、どうなるかわからないけど、行き着く先はきっと2人しかいないんだろうな。世界中でたった2人。一途な思いを抱えている2人がどんなものを見ていくのかな。

最後に主人公ズには全く関係ない個人的な好みの話をすると、囀る〜は久我くんと七原さんが好きです。
久我くんはもうそのまま突き進んで欲しい。矢代の思いも気づけそうな勘の鋭さは持ってますが、気づかないで延々とバカップルでいて欲しい。というかいてくれ。
過激ながらも気持ちが良い子なので、久我の存在が影山先生が裏社会に行き過ぎない抑止力になるし、その逆で久我が裏社会に染まらないように影山先生が抑止力になるんだろうなと思います。

あと七原さん。苦労の絶えない七原さん。元気でいて欲しい。
個人的バリバリのギャルみたいなキャバ嬢と結婚して子沢山の子煩悩のパパになって欲しい人NO1に輝きました。おめでとうございます。
どうしても主人公ズだけだと苦しくなるので、久我とか七原さんとかの陽の力が持っている人がいるの安心してしまいますね。元気に幸せになって欲しい。

思ったことをつらつら書いたのでとっちらかっていますが(読んでくれた方ありがとうございます)、次回作も早く見たいです。原作もどうなるんだろうね。
1作目のこの間の取り方と音のセンスで次回作への期待を否応無くあげてしまうので間髪入れずにみたいです。

原作者のヨネダコウ先生といえば、「どうしても触れたくない」ですね。
この原作も映画も私好きです。しまちゃんかわいい。
商業BL結構好きだけど、周りが読んでいる人いないので寂しなと感じつつ、SNSでいろんな感想が見れる良い時代になりましたね。
近々テンカウントとかイエスノーもアニメ化なので楽しみです。