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C03お金と心の値段の天秤掛け

たしかに、私の手元にはわずか6000円ほどしかありませんでしたが、貧乏旅行者という弱みにつけ込んで、身体を売れと言うなんて、どうかしています!本当に「卑怯者!」と叫んでやるべきだったのですが、驚くべきことに私は思わず「How much?」と返してしまいました。ええ!本当に私は大切な自分をお金で売るのでしょうか?と内心混乱していると、彼は「600ポンドでどう?」と答えました。えっと、1ポンド500円(1979年当時の為替ルート)から考えると、3万円になりますね…。「うーん、どうしようかな?」と考える私、「いやいや、君はお金で身体を売るのか!」と断固として拒否を主張するもう一人の自分がいます。彼の手が私の下半身に迫ってきました。まるで金縛りにあったように身体が動かなくなりました。時間が止まったような感覚の中で、彼の手が動き始めた瞬間に、時が動き出したようでした。私は「だめです!」と声を大にして拒否し、ベッドから飛び降りました。そして、慌てて荷物を持ち、静かな漆黒の海の上を進む船の甲板へと戻りました。彼が追ってくるのではないかと心配もしましたが、幸いそんな気配はありませんでした。風の中でシェラフを引き直し、風が顔に当たらないようにして、丸くなりました。

渡欧前には、ヨーロッパには同性愛者が多いという不確かな情報を耳にしていました。そのため、当初は優しそうに声をかけてくる男性に対して必要以上に警戒していました。しかし、それは杞憂に終わり、私の心配は無責任な風評にすぎなかったと最近では感じていました。それが今回の出来事です。ロンドンは同性愛者が特に多いという噂を思い出しました。油断大敵ですね。しっかりと気をつけなければならないと、改めて感じました。そして、3万円…。少々の苦痛を我慢することになるかもしれませんが、それで一か月分の食費がまかなえるかもしれないという思いも、正直に言えばありました。お金というものは、今の時代では大切なものですが、使い方によっては卑怯です。お金を持っている人が、お金を持たない人のプライドを買うという現実に直面しました。世の中のことがまだわかっていない二十歳そこそこの若造にとっては、これも一つの社会勉強だったのでしょう。様々な感情が交錯する中で、気がつけば眠ってしまいました。船の穏やかな上下動が、まるで揺りかごのように私を包み込み、夜霧の中で星も見えない空の下で、船首が切る波の音を子守唄に、その日の疲れと共に夢の中へと消えていきました。

【本音と建て前】についての一考

本音

  • 利点: 本音を表現することで、自己の真実の感情や意見が伝わり、より深い信頼関係や理解を築くことができることがあります。また、自分自身を偽らない生き方は精神的な満足感や幸福感につながります。

  • 欠点: 本音が率直すぎたり、配慮に欠けると、相手を傷つけたり、無用な衝突を引き起こす原因になることがあります。特に、個人の感情や意見がグループの和を乱す場合、問題が生じることがあります。

建て前

  • 利点: 社会的な規範や礼儀を重んじることで、衝突を避け、表面的ながらも円滑な人間関係を保つことができます。特に公の場やフォーマルな状況で有効です。

  • 欠点: 常に建て前を優先すると、自分の本当の感情や意見を抑えることになり、ストレスや不満が蓄積する可能性があります。また、人間関係が表面的なものにとどまり、本当の意味での信頼関係が築けないこともあります。

簡単に言えば「本音と建前のバランスが大事」ということでしょうが、その瞬間に判断する必要がある場合は、バランスが大事なんてことは吹っ飛んでしまいます。私に限って言えば、相当の判断ミスをしてしまったと思います。ただ、その失敗達は次の場面の刹那的な場面での貴重な決断材料になります。本当に幸いですが、まだ致命的な判断ミスをしていないことはラッキーとしかいえません。

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