3つの『どろろ』〜アニメ終了に寄せて〜

2019年版TVアニメ『どろろ』が最終回を迎えました。この記事では、2019年版で『どろろ』を知った人たちへ向けて、この作品の変遷についてご紹介するものです。Wikipediaにも書いてありますが、主観を交えてご紹介します。これを知っていると『どろろ』がもっと楽しくなる!

▼3つの『どろろ』
『どろろ』は2つの雑誌に2度連載されました。『少年サンデー』と『冒険王』です。それを1つのストーリーにまとめたのが、現在書店で購入できる単行本の『どろろ』です。つまり『どろろ』という作品には3つのバージョンがあるのです。まるで手塚治虫が親しんだシェイクスピアの『ハムレット』のようです(『ハムレット』にも異なるバージョンがあります)。

手塚治虫は雑誌掲載の原稿を単行本化するにあたり、切り貼りを含めて膨大な加筆修正をしています。たとえば『リボンの騎士』や『鉄腕アトム』はこれが顕著です。中でも『どろろ』は2つの雑誌連載を1つにしなければならないこともあり、特に切り貼り・加筆の多い作品です。単行本そのものがまるで百鬼丸のような構成になっており、この辺が非常にオタク心をくすぐります。全ての物語を見てみたいと思いませんか?思いますよね?(圧)それでは、どうすれば読めるのかをご紹介します。

▼2つの『どろろ』を読む方法
単行本は本屋に行けば良いので省略します。判型や扉絵などが若干違うだけで、世に出ている単行本は同じものです。個人的には講談社の手塚治虫漫画全集が好きですが。ここでは『少年サンデー』『冒険王』バージョンを読む方法を紹介します。
ひとつは国会図書館に行って、『少年サンデー』『冒険王』を閲覧してください。ただし、私の記憶(10年ほど前)によると、欠落している巻があるので残念ながらすべては見られません。
もうひとつは、2013年に刊行された『手塚治虫トレジャーボックス』を購入してください。これは雑誌そのものを原稿にしてそれを丹念にスキャニング・補正をして雑誌掲載時の状態をそのまま復刻しているというマニア垂涎のアイテムです。オタクにとっては2万円の価値は十分にあります。ただ残念ながらこちらも2013年の刊行ということもあり、『どろろ』については購入できる場がほとんどありません(『W3』や『バンパイヤ』は比較的在庫があるようです)。現状の入手は困難です。
みっつめの選択肢は、「国会図書館に行って『手塚治虫トレジャーボックス』を閲覧する」です。これなら交通費だけで無料で閲覧できますので、閲覧だけなら難易度は低めです。本というより大きな箱が出てくるので驚くかと思います。(あとは、PS2のSEGA版『どろろ』の予約特典で小冊子が配布されたことがありました。単行本版と異なる設定だけでも見たい、という方はこちらをネットオークション等で買うというのもアリでしょう。前述の"欠落した巻"は確かこの小冊子だったような気もします。)

▼テンションが上がる差分
私はオタクなのでちょっとした線の違いでもテンションが爆上がりなのですが、たとえば「48の魔物がこねくり回して作ったのがどろろなので、どろろを殺すか48の魔物を倒すかすれば百鬼丸の体は戻る」という、単行本で削除された設定の違いなどは(オタクの間では)有名です。個人的には、特にプロットに関わる差分として『無情岬の巻』を挙げます。単行本版では代官・真久和忠兵衛が唐突に出てきて百鬼丸がそれを返り討ちにしますが、雑誌版では真久和は醍醐景光の部下と明示されており、百鬼丸が返り討ちにする「理由」がより強く示されています。この点は雑誌版のほうが説得力がある流れだなと感じました。

「おまえさんはむすこをなくしたけど」というのは、多宝丸のことです。ここで「もうひとり息子をなくしている」のではなくて「もっとだいじなものをなくしている」とするあたりが非常に手塚治虫らしいセリフ回しだと思います。この岬に兵士が攻めてくるという辺りを2019のアニメでどうするかなと思っていたら、多宝丸が百鬼丸を討ちにくるという形で上手に理由付けがされており、なるほどと思いました。

ほかにも、雑誌版の『地獄変の巻』では、マイマイオンバが自分の子どもをどろろに化けさせて百鬼丸にけしかけたりするところが見どころです。アニメで興味をもった方も、雑誌版もぜひ見比べてみてくださいね!

最後になりますが、2019年版のアニメは、原作ファン歴25年の私もとても楽しませてもらいました。ご関係者の皆さん大変お疲れ様でした。私が生まれたときにはすでに公式からの供給がストップして数十年が経っておりましたので、2019年になってTVアニメで『どろろ』が観られるとは思ってもいませんでした。だって50年も前の作品ですよ?その時点ですでに100億点あげちゃいます。続きを観たいみんな!公式からの供給はあと50年くらい待とうな!!

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2019.6.27 たくさんのアクセスをありがとうございます。一部誤字などの指摘をいただきましたので修正しました!

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