思い出の日記より:岩井海岸の民宿

小学6年の夏に、臨海学校という海遊びの合宿の学校行事で千葉の岩井海岸の民宿に泊まった。昼は海で泳ぎ、夜は学芸会や近くのお寺で肝試し。最終日は6時間のハイキングなど楽しんだ。

イベントごとが大好きなので、テンション上がりすぎて準備から当日まで天然ボケをかましまくってた。その点では未だ胸が痛む、それは、とてもとても。でも小学校最後の夏の思い出がいっぱいで印象深い。窓側に雑魚寝した民宿の、緑に光る庭灯をときどき夢に見る。 

大学4年の夏休み。部活の夏合宿は岩井海岸。部活は引退してたので陣中見舞いで一泊だけ参加しに行った。自由に動ける事だし、前日ふと思いついて小学生当時に宿泊した民宿の場所を調べた。

その民宿へ一人、駅から向かう。見覚えのある懐かしい道並みに、胸がぎゅっとなる。

民宿を発見し、クラスメイトと雑魚寝した部屋、歯磨きした庭の流し台を見て、「ああ、ここだあ~」と嬉しい気持ちになる。だけれども、民宿の窓はしまっていて、営業していない様子。とりあえず記念に外観や庭の写真を撮っていると、玄関に人影がごそごそしている。「ヤバい、このままでは私、ただの不審者では!?」とはたと気がつく。 

玄関から人が出てくる。年配の女性だ。 

私に気がつく。 

明らかに怪しげな目で私を見る。 

えっと。。。 

意を決して「こんにちは」と話しかける。やや不思議そうではあるが、こちらがいたって地味な女の子なので、「こんにちは」と返してくれるものの、まだ不思議そうなので、事情を説明する。 

事情を聞いた所で、なんで? という気持ちも拭えてなさそうだが、「とても楽しい思い出で、近くに来る機会があったので」なんて話してるうちに、女性も3、4年前に民宿をたたんだ事や、臨海学校で私の学校を受け入れていた時の事など話してくれる。そして、わざわざ調べてやって来た私にだんだん感激してくれて(笑)、「どちらにお泊りですか? 今日夕食はいかがですか」って誘ってくれまでする。部活の合宿先に行く事になっているので、あり得ないくらいの親切な申し出に心揺れながらも、お断りすると、女性は残念そうにしてくれ、心が収まらないのか、いったん家の中に戻られて、マックスコーヒーと、何故かパンを渡してくれた。2、3のよもやま話をして、お礼をして別れた。 

これではマックスコーヒーとパンをもらいに来ただけの変人ではないか? 

そんな気持ちがよぎった。 

一体、夕食に呼ばれてたらどうなっていたのか? 思い切って呼ばれてみれば良かっただろうか?
そんな事を思う。かなり面白いチャンスを逃した気がする。
だが元民宿ファミリーと何を語らうというのだ。

マックスコーヒーは千葉・茨城限定の甘い水のようなコーヒーで、千葉県民として子どもの頃から親しんでいるけれど、こんなに有難いMaxコーヒーは後にも先にもないだろうな、と思った。 


後輩たちが海からもどってくるのを待つ宿泊先の庭のパラソルの下、夕暮れを見つめてマックスコーヒーをちびちびと飲んだ。

(2012年08月01日の日記より)