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中国景気は今後どうなるのか?


こんにちは、中国情報メディア・チャイトピ記者の余叶です。

私は、上海で5年間、中国企業や中国ビジネス関連の取材を行い、これまでIT業界のイノベーションによる新しいものが目まぐるしく出現するところを目撃してきた。しかし、ここ1年で中国IT業界の空気は一変し、ITの牽引によって高い成長を維持してきた中国経済も転換点を迎えたように感じる。

現に大手IT企業のリストラが相次いでいる他、コロナ禍で経営破綻に追い込まれる中小企業が増加。さらには、若者が空前の就職難に直面するなど、社会問題とまでなっている。

最近の日本メディアを覗いてみると、中国経済の「減退」「悪化」「減速」などと題した報道を目にすることが多く、世界第2位の経済大国の行方に注目が集まっているようだ。

本記事のテーマは「中国景気は今後どうなるのか」であるが、アナリストのようにデータをたくさん詰め込んで(多少のデータ引用はあるが)将来を予測する記事ではなく、筆者が実際に中国で生活し、経験したことを基に中国の景気について述べたい

まず初めに、日本やアメリカなど、資本主義の国家と比べると、社会主義である中国では、国家から様々な制限をかけられ、不自由に感じることが多い。しかし、それでもこの国では、創業力が盛んでアリババやテンセント、バイトダンスなど、世界的に有名な企業を生み出してきた。過去10年間は、まさに中国のIT業界にとって「黄金の十年」だと言えるだろう

特に中国に携わる日本人ビジネスマンは、新しいことをやる前に様々な不安要素を先に考える日本に対し、中国の「まずはやる」という特徴を鮮明に感じ取った人が多いのではないだろうか。

次に2019年前後には、シェア自転車、無人サービスなど、新しいビジネスが中国で相次いで台頭し、世界へ拡大。また、中国企業は世界の先端技術をすぐに模倣することで「中国版」を打ち出してきた。特にIT業界では、海外企業が中国政府に警戒・制限されたことで、現地の中国企業がこれを追い風に急成長を遂げた。

▲2020年の世界ユニコーン企業トップ10(出典:HURUN)

今から2年前、当時の世界ユニコーン企業は、アメリカが233社、中国が227社と、1位、2位に肩を並べていた。

さらに、ユニコーン企業トップ10のうち、中国企業であるアントグループ、バイトダンス、DiDiはトップ3であった。

しかし、2年後の今この3社は投資家の期待を外す結果となった。バイトダンスは未だ上場できておらず、アントグループは上場直前に中国当局によりストップ。DiDiは米市場への上場に成功したが、1年間に渡る当局のサイバーセキュリティ審査を受け、上場廃止に追い込まれた。

このように中国IT業界は、一体いつから異変が生じるようになったのだろうか。

アリババ批判が全ての始まり?

振り返ってみると、これら一連の出来事の発端は、アリババ叩きだと思える。2020年10月、上海市で開催された金融サミットでカリスマ経営者のジャック・マーの「技術革新を阻んでいる」と金融監督当局を批判する発言が問題となった。その後、史上最大規模のIPOだと注目されたアント・グループの上場が突如延期となったのである。

▲中国ネット業界の出来事(筆者より作成)  

加えてアリババは独禁法違反を犯したとして、前代未聞の巨額罰金を科され、上場して以来、初めての四半期赤字となった。

続いて、中国当局は教育とゲーム業界の規制を実施。これを受け、教育大手の新東方は生き延びるため6万人の社員を解雇。ゲーム業界では、2021年7月から2022年の4月までの8ヶ月間、政府による新作ゲームの承認が停止され、数万社のゲーム会社が倒産に至った。

その後、2021年8月から当局は中間層を増やして貧富の格差を縮小する「共同富裕」を提唱し、アリババやテンセントらがそれに追従。こぞって被災地への寄付を行い、より多くの利益を環境や社会的責任に投入する姿勢をみせた。

さらに2021年11月から、当局はライブコマース業界にも介入。トップライバーの雪梨、viya(薇娅)が脱税で巨額罰金を課され、ネットから姿を消した。これを機に荒稼ぎと言われたライバー間で納税の追加申告ブームが発生したのである。

このような一連の規制を受け、テンセントとアリババは1年強で時価総額計1兆ドルあまりが消失した。あれだけ盛り上がりを見せていたライブコマース業界の空気も一変し、トップ級ライバーのほとんどが姿を消す結果となった。


「ゼロコロナ」が失速した中国経済に追い打ち

2022年に入り、継続したIT規制に加え、新型コロナウイルスの感染拡大が中国経済に追い打ちをかけた。深セン、上海、広州、北京といった大都会は中央政府が掲げる「ゼロコロナ」の方針が執行され、この厳しい行動制限が経済活動の大きな支障となった。

特に上海では2ヶ月ほどロックダウン(都市封鎖)を実施。市民が毎日野菜の取り合いに追われ、企業はキャッシュフローが寸断するなど、上海という国際大都市で想像できなかったことがたくさん起きた。

これは中国企業だけでなく、上海にある1万1,000社の日本企業もこの苦境を経験。日本大使である赤松秀一は上海に拠点を置く日系企業に関し、「広範にわたって深刻な影響を受けている」「製品の生産や納入ができないため、他地域の同業他社に販路を奪われ始めた」と、ロックダウンの長期化により日系企業が直面している窮状を訴えるレターを上海政府に提出した。

このロックダウンは上海でビジネスを展開する外国人に、中国の政治リスクを痛感させただろう。封鎖解除されてすぐに外資の中国離れが起きただけでなく、筆者の知り合いの外国人の中にも航空チケットを取り、速攻母国に戻った人もいた。

また、対外貿易が経済を支えていた広東省では、コロナの影響や、グローバル企業のベトナム、タイへの生産移転により、1〜5月の対外貿易の伸び率は1.9%。全国の平均伸び率を下回る結果となった。

▲中国社会消費財の小売総額の伸び率推移(出典:中国国家統計局)

各地で実施された厳しい規制により、全国の消費指標が低下。

全国の社会消費財小売総額は、コロナ感染が拡大して以降、3月、4月、5月ともにマイナス成長となった。これは2020年コロナ第1波の時よりも厳しい数字である。

さらに1~3月中国GDPの伸び率は4.8%で、コロナ感染拡大の第二四半期の伸び率は0.4%に急落下した。


中国景気はこの先どうなるのか?

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