統一地方選でおきた変化。



 タイの民意は明確に軍の退場を求め、政権交代に道を開いた。今度こそ真の民政復帰を実現せねばならない。  14日に行われたタイ下院の総選挙で、王室改革を訴える革新系野党「前進党」とタクシン元首相派の野党「タイ貢献党」が上位2党となり、合わせて293議席と過半数を獲得した。  2014年のクーデターで実権を握ったプラユット首相らの親軍与党は大敗した。国民の強い不満が示された結果である。  ただ、次期政権の枠組みを決める連立協議の見通しはつかない。野党2党には王室を巡る立場の違いが障害となっている。  首相選出では軍の影響下にある上院の意向が鍵を握っており、交渉は長期化する恐れもある。  民意に向き合い、軍の介入を許さない政権の樹立が求められる。武力を背景に強権が行使されるようなことはあってはならない。  かつて「民主化の優等生」とも呼ばれたタイは、貧困層とエリート層の対立で混乱し、「安定最優先」を掲げる軍のクーデターが繰り返されてきた。  19年に民政移管の総選挙が行われたが、政治への軍の影響力は憲法に盛り込まれ、首相には元陸軍トップのプラユット氏が就いた。「見せかけの民主主義」と政権打倒を目指すデモが拡大した。  広く国民から敬愛され、対立する勢力の仲裁役も担ったプミポン前国王は16年に死去した。跡を継いだワチラロンコン国王は、1年の大半を海外の別荘で過ごすなどし、王室予算も倍増され、コロナ禍であえぐ国民の反発を招いた。  こうした中、前進党は王室への侮辱を罰する不敬罪の条文改正や徴兵制の廃止など、これまでにない政策を掲げ、都市部の若者に支持を伸ばした。  若者らは地方農村の低所得層を中心とするタクシン派と、都市部のエリート層で軍を支持する反タクシン派の長年の対立にへきえきしていたという。政治の変化への渇望が新しい扉を開いたのは間違いない。  タイで民主主義が機能し、平和的な政権交代が実現するならば、アジア全体にとっても大きな意義がある。軍事政権が市民を弾圧する隣国のミャンマーでは、民政復帰を求める市民が抵抗を続けている。  多くの企業が進出し、観光も盛んな日本とタイの関係は緊密だ。強く関心を持ち、国際社会とともに民主政治の実現へ働きかけを強めたい。

社説:タイ総選挙 「真の民政」実現せねば
5/18(木) 16:01配信京都新聞


韓国の進歩勢力は、理想とするエコロジカルな福祉国家のモデルを中国に見出すことができない。中国の党・国家権威主義は韓国人に1970~80年代の韓国を連想させ、ロシアのウクライナ侵攻にいたっては日帝の大陸侵略など恐るべき歴史の記憶を想起させる。「米国にいくら問題が多くても、それでも中国・ロシアに比べればましだ」というのが、多くの韓国人が共有する情緒だ。

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イラスト:キム・デジュン

 新自由主義時代の韓国につく「世界最高」ないし「世界最低」、「世界最悪」がいくつかある。代表的には、富裕国の中で非正規職労働者(賃金労働者全体の約37%)が最も多い国が韓国であり、高齢者貧困率(37.6%)が最も高い国も韓国だ。合計特殊出生率(0.78)は世界最低で、自殺率(10万人当たり23.6人)は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最悪だ。  韓国が持つ「世界最高」のうちの一つに、市民の「外国に対する見方」に関する統計もある。米国に対する好感度だ。「米国に好感を持っている」と答えた韓国の回答者は89%で、アジアでは断然最高、世界ではポーランド(91%)の次に高い(米国の世論調査機関ピューリサーチセンター「2022グローバル・アティテュード・サーベイ」)。米国の長年の同盟国であるイスラエルや日本も、米国への好感度はそれぞれ83%と70%と高い方だが、韓国の爆発的な「アイ・ラブ・アメリカ」には及ばない。  こうした「絶対的な米国好感」は、歴史的にきわめて新しい現象だ。米国との関係はあまりに近しくそれでいて非対称的だったために、しばしば「反米」にまで広がるくらいだったからこそ、関係設定が負担になるほうが「正常」に近かった。李明博(イ・ミョンバク)政権の屈従的で拙速な対米外交に対する拒否感がろうそく抗争に広がったのは、わずか15年前のことだ。現政権では対米・対日盲従と拙速が日常茶飯事になったが、これに対する国民の抵抗は当時ほど熱いとは言えない。過去のような「反米」は久しく見られず、親米一辺倒の外交に対する合理的な批判すらも大きな反響がないのが最近の世相だ。一体、韓国人を世界最高の「模範的な親米主義者」にしたのは何なのか。その要因として3つを挙げてみる。  第一に、世界で「豊かな国」となった韓国人の新しい集団自意識がある。韓国が世界的に高所得社会になったという統計が出たところで、高物価・原油高・高金利の「新3高」現象による庶民の苦しみは減りはしない。ところが、いくら個人の暮らしが苦しくなっても、苦しんでいる庶民でさえ、世界的食物連鎖において韓国が占めるようになった決して低くない地位を随所で感じられる。欧米圏の高学歴者を含む外国人人口も増え続け、新型コロナウイルス感染症以前の1年間の国外への旅行客数は3千万人に近づいた。欧州の先進国のように、韓国も庶民を含め半分以上の国民が国外旅行をする国になった。「貧しい国」から世界史的にも珍しく「富裕な国」になっただけに、その地位を保障する従来の世界秩序を肯定し、守ろうとする集団意識が自ずと育つことになる。米国の覇権こそが従来の秩序を象徴するため、米国の覇権に対する韓国人の態度も過去と同じとはいかないのかもしれない。  北朝鮮や統一に対する意識が大きく変わった点も、やはり同じく「富裕な者の論理」で説明できる。北朝鮮がいまの世界秩序において当分は「富裕な国」に並ぶことができないというのは、多くの韓国人にとって自明なことであるため、20~30代の61%は統一が「必要ない」と答えている。彼らにとって米国は富と地位を守ってくれる警察であり、一方で北朝鮮は富と地位を脅かし、そのうち金を乞うであろう面倒で負担の大きな「貧しい親戚」に見えるだろう。北朝鮮メディアは「血は水より濃い」という言葉で同胞意識に訴えようとするが、新自由主義の韓国で「血」以上に重要なのは「金」だろう。  第二に、米国と地政学的対立を繰り広げるグローバル「挑戦勢力」に対し、韓国人が特に魅力を感じていないという点だ。韓国の保守勢力はいうまでもなく歴史的に親米だが、一方で韓国の進歩勢力も、理想とするエコロジカルな福祉国家というモデルを中国に見出せない。中国の国内総生産(GDP)に占める福祉支出(約10%)は、韓国よりももっと低い。中国の党・国家権威主義は韓国人に1970~80年代の韓国を連想させ、ロシアのウクライナ侵攻にいたっては、日帝の大陸侵略など恐るべき歴史の記憶を想起させる。「米国にいくら問題が多くても、それでも中国・ロシアに比べればましだ」というのが、多くの韓国人が共有する情緒だ。  第三に、韓国メディアが経済大国である中国に対する競争意識を煽っているという点だ。韓国と中国は地域的な分業構造を形成しながらも、多くの完成品品目においては世界市場で競争している。韓国企業が相対的に技術の優位性を持つ主要品目は、半導体以外はほとんど残っていない状況で、韓国メディアは「分業」よりも「競争」を偏ったかたちでドラマチックに強調する。その結果、80%にのぼる中国への非好感度もまた「世界最高」に近く、それに伴い、中国と銃声なき戦争を繰り広げている米国に対する好感度が上がっていく。  このような要因が複合的に作用した結果としての韓国の前例のない親米化は、ある意味では簡単には覆しえない長期的な傾向だ。韓国ほどではないが、従来の世界秩序の恩恵を受けていると考える人が多い欧州諸国でも、米国に対する好感度は60%程度にはなる。中国モデルに対する拒否感や、中国に対する競争意識も、当分は変数ではなく定数として作用するだろう。加えて、韓国の保守メディアは露骨で一方的な偏向報道で嫌中・反北・親米の「バブル」を膨らませている。  問題は、こうした長期的な親米化・保守化が、親米一辺倒の対外政策や、統一政策を事実上放棄することにつながり、米中対立の状況で徴兵制の永久維持など軍事主義が進み、ひいては米中の武力対立時に米国からの介入要求の圧迫などにつながる危険性が大きい点だ。メディアならば当然、地政学的対立の一方に無条件で忠誠を捧げ「全賭け」する態度を警戒し、問題提起しなければならないが、韓国にはそのようなメディアは少数に過ぎない。  米国の隣国であり、友好国中の友好国であるカナダは、2003年の米国のイラク侵攻に加担しなかった。ドイツとフランスも米国の友好国・同盟国だが、米中対立が激しくなっているにもかかわらず果敢に北京を訪問し、首脳外交を行うなど、米国とは全く違う中国への態度を見せた。韓国も究極的には「盲従」ではなく、朝鮮半島の平和と国益に基づいた対米外交を展開すべきではないだろうか。そのためには、保守メディアが作り出した行き過ぎた親米バブルをまず取り除かねばならない。 朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)オスロ国立大教授・韓国学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

[朴露子の韓国、内と外] 韓国人の前例のない親米化をどう見るか
5/18(木) 7:19配信ハンギョレ新聞


旧統一教会の被害救済にあたる弁護士の団体が、きょう都内で記者会見を開き、教団に解散命令が請求された場合、その後、解散命令が出るまでに本部がある韓国などに資金が送金され、日本の被害者を救済できなくなるおそれがあるとして、法整備を求める声明を発表しました。 全国霊感商法対策弁護士連絡会がきょう発表した声明では、「宗教法人の解散命令が請求された場合に、裁判所が対象の宗教法人の財産を管理し、保全することを可能とする特別措置法案を提出、成立させることを求める」としています。 こうした法整備を求める理由について連絡会は、「解散命令請求がなされた場合に旧統一教会は解散命令が出るまでの間、ほぼ自由にその資産を隠匿散逸させることが可能である」「膨大な金額の献金が韓国等に送金されてしまい、被害者が賠償を受けることができなくなる」としています。

「膨大な献金が韓国等に送金される」旧統一教会の被害救済弁護団が解散命令請求の場合 海外送金を制限する法整備求める声明

5/16(火) 13:26配信TBS



「選挙に立候補した皆さんは、既に一つ、社会を変えたんです」(荻上チキさん) 5月13日、政治のジェンダーギャップの解消を目指し、女性の選挙立候補を支援する「FIFTYS PROJECT」が、支援した候補者とともに4月の統一地方選を振り返るイベントを東京都内で開催した。 【画像】模造紙を埋め尽くす数のポストイットに書かれた「選挙のリアル」とは… 今回の統一地方選でFIFTYS PROJECTが支援した候補者29人のうち、当選を果たしたのは24人。この日は落選者も含め全国から21人が集まった。 イベントでは一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」の荻上チキさんがファシリテーターとなり、候補者たちが統一地方選を振り返るワークショップを実施。 荻上さんは「当選しなくても、女性が候補者になることが多くの若者、とりわけ女性の有権者の行動を促すという先行研究があります」と語りかけた。 「皆さんの顔が選挙の掲示板にある社会とない社会は全然違います。ここからさらにもう一つ社会を変えるために、皆さんの協力が必要です」 20~30代の女性たちが、選挙に立候補するとはどういうことだったのか。「次」にバトンを渡すため、現場のリアルを語り合った。

女性の政治参加を阻む壁が浮かび上がる一方で、希望も

ワークショップは3~4人のグループに分かれ、テーマについて思い浮かんだことを次々とメモして貼り出し、そのことについて話し合ったりグループ化して考えをまとめていく「KJ法」を用いて行われた。 テーマは、選挙に立候補すると決める前から選挙が終わるまでの「ポジティブ・ネガティブな体験や内面」と「助けられたサポート・サポートの不足や不満」について。参加者たちはポストイットに思いつくままに書きながら、模造紙に貼っていった。 「選挙を経て、自分のことをもっと好きになれた」 「初めて応援したいと思える候補者に出会えたって言ってもらえた」 「結婚しているのか、子どもはいるのかしつこく聞かれて嫌だった」 「母子家庭支援や女性の地位向上を政策のメインにしたら、『票の幅が縮まるぞ』と言われた」 模造紙はあっという間にポストイットで埋め尽くされた。 それぞれのグループの発表では、男性が偉そうに女性を見下しながら何かを解説・助言する「マンスプレイニング」や「つきまとい」、たまたま車の中で男性の選挙関係者と二人きりになった時に「パパって呼んでもいいんだよ」と言われるなどのハラスメントの問題や、個人情報の悪用や金銭的な不安など構造的な課題が浮き彫りになった。 一方で、ポジティブなポストイットの数の方が多いグループも目立った。「政治をもっと身近なものにしたい」「自分たちが誇りを持てる社会にしたい」という思いや「手伝いたい」と言ってくれた友人や家族の存在、「あなたのような人を待ってた」と声をかけてくれる人たちや、挑戦しなければ出会えなかった人たちに出会えたことなどがポジティブな経験として挙げられた。 また、「FIFTYSが自分の居場所の一つ。これからも戦い続けなければならない中で支えになると思います」など、「FIFTYS PROJECT」のコミュニティに言及する声も多く、同プロジェクトが候補者たちを支えになっていたことが伺えた。 「FIFTYS PROJECT」代表の能條桃子さんは、「個人ではなく、制度として社会側が変わらなければならないことも多い。今回の声を受けて、FIFTYSのアドボカシー活動などに繋げていきたい」と話した。
「絶対人は優しいです」未来の「選挙候補者」に伝えたいこと

女性比率50%を達成した東京都武蔵野市で当選を果たしたさこうもみさんは、「日に日に選挙ボランティアに来てくれる人が増えていったのが嬉しかった」と話す。 「ほとんどの人が選挙のボランティアは初めてでした。投票よりさらに政治に一歩踏み出してみるきっかけになれたのかなと思うので、本当に立候補して良かったです」 さこうさんは、これから先選挙に挑戦するかもしれない人たちに向けて、「自分の想像の中だけで考えて諦めないで。気になったら現職の人たちの話を聞いてみてください」とメッセージを送った。 「私も立候補前に、『将来子どもを持つ可能性があるかもしれないけど、いつ選挙に出たらいいんだろう』と悩みましたが、現職の人で任期中に産んでいる人もいて決心できました」 長野県諏訪郡下諏訪町から立候補し当選を果たした竹元かんなさんは、下諏訪町史上初の20代で、女性で、移住者の立候補者だったという。 「長野県は、立候補者が定数以下で無投票だった市区町村議会の割合が4割もあり、下諏訪町も2期連続で無投票になってしまいました。民主主義の危機だと思っています」 諦めムードが漂い、移住者に厳しい視線がある中でも、竹元さんは辻立ち(交差点など人の多い場所で挨拶や演説を行うこと)をするなど選挙活動を行った。「おじいちゃん、おばあちゃんたちも、若者世代の諦めた人たちも希望に思ってくれて、車の中から『頑張れ』って叫んで応援してくれました。次の4年で、この状況を変えていける希望を感じました」 元々はダンサーになる夢を追いかけ、ずっと非正規雇用で働いていたという竹元さん。「政治家ってお金がないとなれないものだと思っていましたが、ワーキングプアでお金がない私でも、意外と政治家になれちゃいました。一歩踏み出せば、意外と道は開けると思います」とエールを送った。 また、広島県尾道市から立候補したたなかふみえさんは、残念ながら落選したものの、「女性議員が1人だけのこの街で、ましてや移住者には絶対無理だよ」と言われながらも1136票を獲得した。 「絶対人は優しいです。大丈夫、冷たくない。自分の意見を言ったら絶対面白がってくれる人がいるし、多分それは町に必要な声だと思うから、挑戦した方がいいと伝えたいです」(たなかふみえさん) 能條さんは今回のイベントを受けて、「みんな前向きでポジティブなオーラを放っていて、この熱が、次の候補者を増やすことや、2期目続けたいと思えることに繋がればいいなと思います」とコメント。 ワークショップで挙がった声や候補者のアンケート結果は、荻上チキさんらチキラボとFIFTYS PROJECTが共同で調査レポートとしてまとめる予定だという。 FIFTYS PROJECTは、次の立候補者の育成やアドボカシー活動などを行うためにクラウドファンディングで支援を募っている。目標金額は1000万円、5月末まで。

また一つ、社会は変わった。統一地方選に挑んだ20・30代の女性たちが渡す「次のバトン」とは

2023/5/15(月) 12:01配信HUFFPOST






「杉並区大改革」で女性議員比率が半数以上に…地方統一選挙で「杉並区」に何が起こっていたのか 2023/5/18(木) 14:00配信FRIDAY


「杉並区大改革」で女性議員比率が半数以上に…地方統一選挙で「杉並区」に何が起こっていたのか 2023/5/18(木) 14:00配信FRIDAY


「杉並区大改革」で女性議員比率が半数以上に…地方統一選挙で「杉並区」に何が起こっていたのか 2023/5/18(木) 14:00配信FRIDAY


「杉並区大改革」で女性議員比率が半数以上に…地方統一選挙で「杉並区」に何が起こっていたのか 2023/5/18(木) 14:00配信FRIDAY

快進撃の始まりは、石原伸晃氏が「落選」した2021年衆院選東京8区



’21年の衆院選、10期連続で議席を守ってきた「石原王国」東京8区で敗北した自民党の石原伸晃元幹事長。快進撃は、ここから始まった(PHOTO:共同通信)

「日本に絶望しかけたけど、杉並区は最後の希望」「杉並区が羨ましい」「杉並区に住みたい」 【画像】すごい…! 187票差での当選で当選した岸本聡子区長の「一人街宣」! ――そんな声がSNSで駆け巡ったのは、4月23日に行われた統一地方選挙’23の結果から。 朝日新聞デジタルや東京新聞の報道によると、今回の統一地方選挙で女性議員比率が半数以上(パリテ)を実現した都市は全国で9つ。千葉県白井市 55.6%(18人中10人)、兵庫県宝塚市 53.8%(26人中14人)、埼玉県三芳町 53.3%(15人中8人)に次ぐ第4位となる地域のひとつが、この杉並区だった。 なかでも杉並区は、直前の帰国まで長年欧州に住み、国際政策シンクタンク研究員として活動してきた岸本聡子氏が、昨年6月の区長選で、4選を目指した現職を187票差で制したことで全国的に注目を浴びた区でもある。 一見すると欧州帰りの革新的リーダーの誕生によって、区政が一気に変わったように見えるかもしれない。しかし、岸本区長の誕生は杉並区の快進撃の過程の一つだった。遡れば大きな第一歩は、立憲民主党・吉田晴美氏が自民党の石原伸晃氏を破った’21年の衆院選東京8区に始まっていた。そして、その選挙を支えていたのが、杉並区の市民たちだったのだ。 こうした活動を担った杉並区の数々の市民グループの一つ、「杉並の問題をみんなで考える会」の漆原淳俊氏に話を聞いた。 ◆数々の社会問題に対する市民運動が行われてきた杉並区 「杉並区内にはたくさんの問題がありました。一つは、JR西荻窪駅前を走る道路の拡張計画が進んでいたこと。実は戦後すぐの焼け野原の1947年に計画ができた都市計画道路が、70年以上も着手されないまま’18年ごろになって突然動き始めたんです。 きっかけは、田中良・前区長が沿線住民の反対を押し切って東京都に工事の事業認可申請をし、認可も受けてしまったこと。 西荻には個性的な小さなお店がたくさんあるのに、道路を拡張するとそれらが壊されることになってしまう。魅力的な街並みも消えてしまう。 そもそも田中前区長が都市計画道路を進めようとしたのは、西荻窪駅南口の再開発をしたかったからだとも言われています。再開発でタワマン建設を進めるためには、まずは道幅を広げないと高い建物が作れませんから。この再開発を見越した地上げもすでに始まっています。背後には政治家や業者が絡む様々な利権がうごめいているのではないか、との指摘もあります」(漆原氏・以下同
実は杉並区は、第五福竜丸の被災を契機に始まった組織的な原水爆禁止署名運動の発祥の地で、教科書問題などをはじめ、数々の社会問題に対する市民運動が行われてきた地域でもある。 そうした歴史に加え、田中前区長時代に「財政再建」名目で学校の統廃合や保育園の民営化、公園の廃止、児童館・高齢者施設の廃止などが進められる中、「これでは生活が成り立たない」「子供たちの遊び場や居場所をどうするのか」と地域の住民も声をあげ始めたのが、住民たちによる杉並区大改革の土台だった。 「’17年の総選挙のときも杉並の市民グループは各野党に野党共闘の実現を求めてきましたが、うまくいきませんでした。そこで’21年の衆議院議員総選挙では、事前に杉並市民グループで具体的な政策も作り各野党に提案。今度こそ野党共闘の実現をと呼びかけたんです」 しかし、杉並区のある東京8区では、吉田晴美氏を野党統一候補とする流れが進む中、れいわ代表の山本太郎氏が突然出馬を表明、それに吉田氏の支持者らが猛反発するというハプニングも起きた。そんな中、最終的に山本太郎氏も出馬を撤回、共産党も立候補を取り下げ、野党候補の一本化が「奇跡的にまとまった」という。 ◆これまでと明らかに違う「風」が吹き始めた… これまでと明らかに違う風が吹いてきたのは、選挙期間中に開催された集会や街頭宣伝の場に女性作家やライター、著名人が多数駆け付けるなど、女性の姿が一段と目立つようになったこと。 そして山本太郎氏の騒動も受け、「与党対野党共闘」のシンボルとして全国的な注目候補となった吉田氏は石原伸晃氏を破り、約30年間続いてきた「石原王国」に風穴を開けた。投票率も東京8区は61.03%で、都内25の選挙区中トップとなり、前回比も5.61ポイント上昇に。 次の挑戦は、’22年の杉並区長選だ。ただし、相手は区長を3期務めてきて、4期目を狙う現職区長の田中良氏だ。そこで市民グループも、各野党と市民が一緒になって選挙戦に取り組む市民組織を作ったという。 「昨年1月30日に『住民思いの杉並区長をつくる会』を立ち上げました。 リアルの参加者とオンライン参加者約200人による発足集会では、都市計画道路建設や児童館廃止などに反対してきた住民たちからの報告がありましたが、そのほとんどは人前で話すのも、選挙活動に参加するのも初めての女性たちでした。会場の運営や司会役も女性が中心。この女性たちがその後の選挙戦の中心メンバーとなりました。 会の名称も、初めて集会に来た女性の堤案だったんですよ。我々もいくつか案を準備していましたが、民主的に決めようと会場のみんなの挙手で決まりました。 『~~市民の会』などの『市民という言葉は偉そうで怖い』とか、『わかりやすい言葉が良い』という意見は、我々の世代では思いつかないことでした」
ただし、問題は、肝心の候補者がまだ見つかっていなかったこと。 「新しい区長はぜひ女性にという方針で、何人かの女性に打診しましたが、3月末のタイムリミットが迫る中、候補者が見つからず……たまたま我々の仲間の1人が私の友達にも声をかけてみようかと挙げてくれたのが、当時ベルギーに住んでいた岸本聡子さんでした。 岸本さんは、欧州のミュニシパリズム(地域の主権を大切にする新しい政治運動)を見て来た人で、自治体から政治を変え、国の政治を変えて、民主主義を自治体から取り戻していこうという市民運動をよく知っていて、私たちが求める候補者に最適の方でした」 ◆一人街宣、対話集会…187票差での当選 ただし、一番の問題は知名度がまったくないこと。そこで、ボランティアによる「一人街宣」も始まった。 「対立候補は顔も名前も売れていて、区の広報誌も使って宣伝するわけですから、候補者が一人であちこち回っても知れていますよね。 そこで、ある女性が、『この日に区長が〇〇駅に立つなら、私は地元の駅で岸本聡子さんのポスターを持ちます』と言い、そのうち、ポスターを自分の体に張り付けて駅に立つスタンディングがだんだん進化していき、ビラやポスターのバリエーションも増えていった。 ある集会で『杉並区内の全19駅でやりませんか』という提案が出ると、集会に来ていた人の中ですぐ全駅分の担当が埋まったんです。さらに、毎日やるのは大変だから、地元の人にも声掛けてといった具合に広がっていきました。 参加者が増えたのは、吉田晴美選挙の経験や結果で、自分たちが声をあげたら政治は変えられるんだという思いがあったからだと思います。しかも、今度の区長選は、あまりにもひどい区長だからなんとか変えなきゃいけない。自然発生的に一人街宣が広がったんです」 ただし、岸本氏自身の街宣も最初の頃は聞いてくれる人が少なかったそうだ。 そのうち、「マイクはこう持った方が良いよ」とアドバイスされたり、自民党の女性区議から「黒や紺色の服装はダメ。明るい爽やかな色に変えなさい」と言われて明るい色のスーツに変えたり、様々な意見を取り入れるうち、候補者が一方的に喋るスタイルから、一般の方に意見や質問を言ってもらう「対話集会」に変わっていったのだという。ときには岸本氏が地面に座って、住民たちの意見にじっくり耳を傾ける場面も。 「岸本さんの対話集会がSNSなどで拡散されるようになり、注目度が高まりました。立憲では枝野幸男さんや蓮舫さん、共産党は小池晃さん、れいわも山本太郎さんが応援に駆けつけるなど、区長選とは思えない盛り上がりになりました。 岸本さんの公約も、我々市民グループが作った原案を岸本さんに見せて調整し、さらに対話集会でいろんな人の意見を聴いて取り入れ、ブラッシュアップしていった形です。3回ぐらい変えて最終形になりました」 結果、187票差で岸本氏が当選。1票の大きさを感じると共に「女性の力」を感じる選挙となった。
区長だけ変わっても変わらない…女性たちが名乗りをあげた区議選



政党や政策の垣根を越えて団結した統一地方選挙2023(PHOTO:漆原淳俊氏提供)

ただし、岸本区長誕生以降も、議会の質疑では前区長派議員から個人攻撃されたり、嘘の内容を質問されたりする状況が続いたと漆原氏は振り返る。 「そもそも前区長時代に既に決まっていた児童館の廃止は、予算も計上されていて撤回できない事例もあった。都市計画道路もようやく見直しする方針を決めたばかりで、廃止はまだ先の話。それなのに前区長派議員からは『廃止しなければ区長の公約違反じゃないか』と攻撃されるわけです。 区長を代えてもこのように足を引っ張られるなら、議会を変えなきゃダメだという思いが有権者の中に広がっていき、区長選を一緒に戦った女性たちが名乗りをあげたのが区議選でした」 そこから住民たちによる様々な挑戦が始まった。「投票率を上げよう」「そして議会を変えよう」これがみんなの共通目標だった。 「投票率を上げる呼びかけと、裏にどの議員がどの条例に賛成したかが分かる一覧をつけたチラシを7000枚分印刷していろんな場所で配った二人の女性がいました。ある男性は『杉並ドラフト会議』と名付けたサイトを作りました。候補者69人の経歴や各候補者へのアンケート結果などをもとに、有権者がジェンダー問題や環境問題など自分の考えに合う項目をクリックしていくと、投票したい候補者が自動的に絞られていく画期的なシステムです。 岸本区長も、3月19日に行った区議会報告の街頭宣伝の場で、議員選に向けて一人街宣をすると宣言したんですね。自分が当選したときに応援してくれた人たちを、今度は自分が応援する番だ、と。希望者を募ったところ、新人候補を中心に19人から要請がありました。 立憲も共産もれいわも社民も緑の党も生活者ネットも無所属も、それぞれ党派を超えて候補者みんなが一緒に集まり、駅前で共同街宣を繰り返したのも今度の区議選が初めてです。吉田晴美選挙以来の市民と野党の共闘の蓄積があったからこそ実現できたのですが、これまで誰も見たことがない光景だったのでマスコミからも注目されました」 「政治の新しい風景。杉並では政治はもう変わり始めていることを私たちは実感しました」 結果、投票率は4.19%アップ。先述の通りパリテが実現し、「投票率を上げれば政治が変わる」をさらに実感できる結果となった。今後どこに向かうのかと聞くと、漆原氏はこう語った。 「住民との対話を生かした政治がどう進んでいくのか、行政側が一方的に進めてきた都市計画道路や再開発を具体的にどう見直すことができるのか。見直しが実現できるよう我々も見守らなきゃいけない。 政治を変えるのは簡単なことじゃない。でも、少なくとも区長が変われば、区政が変わるということは、すでにパートナーシップ制度が実現し、いまは給食費無償化、気候区民会議、区民参加型予算などの実施に向けて一歩ずつ進んでいることからもわかります。今回、議会の構成メンバーも変わったので、岸本区政はさらに前に進むことができるのではないでしょうか。 政治は遠いものじゃなくて、自分たちが動けば、1人が声を上げれば必ず変わるもの。足元から地域へ、さらに国へと広がっていくものだと思っています」 取材・文:田幸和歌子

「杉並区大改革」で女性議員比率が半数以上に…地方統一選挙で「杉並区」に何が起こっていたのか 2023/5/18(木) 14:00配信FRIDAY



どうすれば、わたしの声は政治に届くのだろう。 政治とわたしの距離は、少しでも近くなっただろうか? 今春行われた統一地方選挙で、政治のジェンダーギャップ解消に向け、いくつかの前進があった。 東京都武蔵野市など9自治体の議会で、女性議員の比率が50%を超えた。 東京都北、豊島、江東区で新たに3人の女性区長が誕生。足立、杉並、品川区と合わせて東京23区で史上最多となる6人の女性が区長の座についた。 政治のジェンダーギャップの解消を目指す「FIFTYS PROJECT」の代表を務める能條桃子さんは、今回の選挙を受けて「大きな変化を感じた選挙でしたが、2023年の今、必要なことはまだまだある」と話す。 「約70年以上男性区長ばかりだった時代から、2022年に岸本聡子さんが杉並区長になってドミノ倒しのように変化が起きています」 「一方で『分厚い壁』も見えてきました」

「移住者、女性、子持ち」には特に厳しい政治への道

今回の統一地方選で「FIFTYS PROJECT」が支援した29人の立候補者のうち、当選したのは24人。前半戦(4月9日投票)は2人が都道府県議選に挑み、当選はゼロ。政令指定都市の市議選では2人中1人が当選した。 能條さんは、「都道府県や政令指定都市など大きい規模の選挙では、やはり政党の支援や大きな組織の票なしで勝つことはとても難しいんだなと痛感しました」と振り返る。 一方、後半戦(4月23日)の市区町村議選では、25人中23人が当選した。 当選率は高かったものの、落選した人をみると、「立候補した自治体に女性議員が1人しかいないような保守的な地域だった」と、能條さんは分析する。 「ある候補者に話を聞くと、『その地域で移住者として選挙に出たのは、自分が初めて』だったそうです。地方で、移住者で、女性で子持ちの人は特に厳しいという現実が見えてきました」 統一地方選実施前の朝日新聞の調査では、女性議員がゼロまたは1人しかいない自治体は4割もあった。こういった地域で女性議員を増やすこともまた、大きな課題の一つだという。 「政治家という仕事は、4年ごとに選挙があって不安定ですし、選挙活動をするために一度仕事を辞めざるを得ないケースも多い。特に女性はハラスメント対策もしなければならないなど、立候補までの壁はまだまだ分厚い。都市型の選挙ではもっと女性政治家を増やせる希望が見えたので、変えられるところからどんどん変えていきたいです」 今回の統一地方選で見えてきた壁を乗り越え、次の統一地方選に繋いでいきたい。そんな思いを胸に、「FIFTYS PROJECT」はクラウドファウンディングを実施中だ。目標金額は1000万円、5月30日まで支援を募っている。
投票先に「代弁者がいない」現状、そろそろ変えないと

能條さんが「若者と政治ともっと近づけたい」と活動を始めたきっかけは、2019年にデンマークに行った時のこと。同世代の20代前半の人たちが国会議員だったことに衝撃を受けた。 「日本もこんな風に同世代の政治家がいれば、もっと変わるのに」 その思いは今も変わらないと話す。 「NO YOUTH NO JAPANで政治のことを分かりやすく伝えたり、FIFTYS PROJECTで若い世代の女性候補者を支援したりしてきましたが、若者と政治の距離の大きなボトルネックは、やっぱり投票先に同世代の、自分たちの代弁者になってくれる人がいないことだと思います」 成人年齢も、投票できる権利「選挙権」も、既に18歳に引き下げられた。しかし、選挙に立候補する権利「被選挙権」は、公職選挙法が制定された73年前から変わっていない。 被選挙権年齢の引き下げの議論は今に始まったことではない。例えば2016年の自民党の公約に被選挙権年齢の引き下げがあったように、これまでにも議論が浮かび上がっては消えていった。 能條さんをはじめ若い世代の仲間たちもこれまで、アドボカシー活動を続けてきた。超党派の若者政策推進議員連盟で各政党の代表が集まる中で被選挙権の引き下げを要求したり、衆院選や参院選時に候補者らの意向を問うアンケートを実施したり、様々な角度からアプローチをしたが、政治家の反応はいつも同じだったという。 「国会議員たちに会いに行っても、『大反対じゃないけれど、世論が盛り上がってないから』と言われてしまうんです」 若い世代にとって切実な権利獲得のための訴えは、後回しにされてしまっている。

立候補年齢の引き下げを求めて、公共訴訟へ



「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」の声明

そんな活動を続ける中で2022年の秋、能條さんが弁護士たちとイベントをした時、「世論を作っていくためには、『公共訴訟』が方法の一つなんじゃないか」という話が出てきたという。 2023年2月頃には「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」として本格的に動き出した。能條さんは裁判に向けて、3月23日に神奈川県知事選挙の立候補届出を提出。年齢を理由に不受理となった。 「『なぜ不受理になると分かっているのに届け出たのか』という声が多いのですが、日本の裁判は、具体的に権利が侵害された事柄がないと裁判が起こせない仕組み(付随的違憲審査制)だからで、公共訴訟の手続きの一環です。私を含め8人の原告と、5人の弁護団で公共訴訟に挑む予定です」 被選挙権の年齢引き下げについては、2023年4月に思いもよらぬ形で話題になった。岸田文雄首相の応援演説中に爆発物を投げ込み威力業務妨害容疑で逮捕された木村隆二容疑者(24)が、2022年7月の参院選で年齢を理由に出馬できなかったのは憲法違反だとして国に損害賠償を求め提訴していたことが明らかになったからだった。 同プロジェクトは、容疑者との関係は一切ないとした上で、「どのような主張であれ、実現のために暴力的な手段が用いられることには断固として反対します」と声明を出した。 能條さんは、「テロがあったからといって公共訴訟を止めてしまったら、テロに屈してしまうことにもなる。容疑者とは全く関係なく進めてきたプロジェクトですし、淡々と進めていきたい」と話す。 「若い人たちほどデジタルネイティブですし、若者政策を考える上でも、若者の専門家はやっぱり当事者の若者たちです。これからの未来を生きていく長期的な視点を持つ若者は、サステナブルな未来のために絶対に必要になると思います」 若くて経験もない人に政治家が務まるのか、という声もあるかもしれない。そんな声に対して「私たちが求めているのは、あくまで選挙に出る権利です」と能條さん。 「選挙に出て、結果的に選ばれないのは、その候補者に対する有権者の判断というだけ。成人年齢も18歳になった今、選挙に出る権利を与えない合理的な理由にはならないのではないでしょうか」 同プロジェクトは、立候補年齢の引き下げを目的に、国を相手取った公共訴訟を6月に起こす予定だ。

「若者の投票先に“代弁者”がいない現状を、そろそろ変えないといけない」能條桃子さんが統一地方選を経て打ち出す「次の一手」
2023/5/13(土) 7:02配信HUFFPOST