福島県からの避難者を追い出さないで


柳原敏夫弁護士
 第2準備書面について主張を述べた。
 「被告・県は、この裁判で適用される法律は『災害救助法第4条』及び『災害救助法施行令第3条』だと言うが事実に反する。国は2011年3月13日、福島原発事故を含む東日本大震災に対し、著しく異常で激甚な非常災害である『特別非常災害』に指定し、翌年4月17日に『特定非常災害特別措置法第8条』に基づき、本件を含む東日本大震災の被災者が入居する応急仮設住宅の供与期間を1年間延長の発令をしているからだ。
 しかし、この裁判で適用されるべき法律は、この『特定非常災害特別措置法8条』でもない。国自身が2013年以降の応急仮設住宅供与期間の延長について、自ら同条の適用を引っ込めたからだ。では、何がこの裁判で適用されるべき法律か。
 結論を言えば、この裁判には適用されるべき法律はない。2011年3月以前にわが国は、原発事故という大災害を想定していなかった。原発事故直後の救助のみでなく、その後の低線量、内部被曝を想定した長期にわたる救助において、災害救助法をはじめとしてその他の法体系も、原発事故に対応した救助法は何も想定していなかった。その結果、原発事故避難者の救済に適用する法令が無い。“法の欠缺”状態であった。
 法の欠缺状態であるなら、欠缺の補充をする必要がある。その際に大事なことは法体系の序列論だ。①上位規範である『国際人権法』、その中でも居住地から避難を余儀なくされた『難民』『国内避難民』の人権保障に関する規定に適合するように“法の欠缺”を補充すること。②我が国の最高法規である憲法の『生存権』規定に適合するように“法の欠缺”を補充するべきである。
 この裁判における補充の方法は憲法の『生存権』及び国際人権法の『難民』『国内避難民』も人権保障の規定に適合するように“法の欠缺”が補充されるべきである。
 国家公務員宿舎の一時使用許可の期間及びその延長期間の決定行政主体に関する補充については、国が決定主体であり各自治体の長ではない。もともと災害救助法も特定非常災害特別措置法も、全国の都道府県を跨ぐほどの全国規模の広域にわたる過酷事故である原子力災害の発生を想定しておらず、全国規模の広域に及ぶ災害・避難が発生した福島原発事故に対して各自治体レベルで適切な対応を取るのは極めて困難である。国家公務員宿舎の無償提供期間の決定についても全国規模の広域に及ぶ状況を把握している国をおいて、他に適切な行政主体は見出し難い」
林治弁護士
 第3準備書面の要旨を陳述した。
 「原告・避難者が『緊急連絡先』として福島県に提出した連絡先以外の親族の名前や住所を、被告・県は違法な方法で調べた。そして親族宛に、原告らは国家公務員宿舎の賃料や損害金を滞納していること、退去できていないのは原告らが怠慢であるからのように伝え、原告らが早期に立ち退き賃料を支払うようにと圧力をかけた。
 このことによって原告らは『親族との関係に多大な悪影響を与えた』『親族の住所を調べた方法は、個人情報の取得について法の趣旨を逸脱したものだった』『県による親族訪問は貸金業法で混じられている行為に類する行為である』と主張し、被告は原告らのプライバシー権を侵害した」
井戸健一弁護士
 第4準備書面について陳述した。
 「東電は2022年5月、水中ロボットによる1号機格納用機内の調査の結果、原子炉圧力容器を支える鉄筋コンクリート構造物『ペデスタル』のうち、厚さ1.2mのコンクリート部分が溶けて失われていることを発表した。
 ペデスタルは原子炉圧力容器を支える部材だから、これが欠損すれば原子炉圧力容器の耐震性は大きく損なわれ、さほど強い地震動でなくても圧力容器が落下、転倒し、再び大事故が発生する恐れがある。この問題について三菱重工で原発設計などに従事していた森重晴雄氏は、400ガルの地震動が福島第一原発1号機を襲えば、原子炉圧力容器が倒壊し、原子炉格納容器を突き破り、格納容器内の大量の放射性物質が環境に放出される恐れがあると予想し、警告を発している。
 二度と放射能から逃げ惑うような経験をしたく無いと思い、避難元に帰還できない原告らの判断には十分な合理性があり、その判断は尊重されなければならない」
 井戸弁護士はまた、2022年秋に来日した国連の国内避難民人権特別報告者のセシリア・ヒメネス・ダマリー氏のステートメント(声明文)について述べた。
 「ステートメントにおいて、ダマリー氏は次のように指摘した。
〈国内避難民への支援が災害救助法で行われたが、自主避難者と呼ばれた人々に対しては相当程度の差別が存在し続けていた。
 国内避難民を支援するのではなく、説得して帰還させるか、またはいかなる支援も失う事態に直面させる方向に向かっている。
 福島原子力災害においては『強制避難者』と呼ばれる人々も、『自主避難者』と呼ばれる人々も国際法のもとで国内避難民である。災害を契機とする避難の権利は、移動の自由に基づく人権である。リスクからの安全を求める権利は、移動の自由と関連する権利である。
 住宅支援の打ち切りは、貧困な状態にある人々、生活手段のない人々、高齢者、障がいのある人たちに特に深刻な影響を与えてきた。国家公務員宿舎に居住している国内避難民は、彼らを相手取って提訴された立ち退き訴訟に直面している。政府は、特に脆弱な立場にある国内避難民に対して、住宅支援の提供を再開すべきである。
 国内避難民には、帰還・その地域での生活・他の地域での定住という3つの選択肢がある。決定をする権利は持続可能性に関する完全な情報に基づいて、自由にかつ自主的に実施されるべきである。
 予備的結論として、国内避難民は、強制避難指示を受けたか否かに関わらず、全員が国内避難民であり、日本国の市民と同じ権利と権限を有する。援助や支援を受けるという点での『強制避難者』と『自主避難者』という分類は、やめるべきである。人道的な保護と支援は権利とニーズに基づくべきであり、国際人権法に根拠のない地位に基づく分類に基づいて行われるべきではない。
 避難生活を続ける国内避難民に関しては、避難中には受け入れ先の地域社会への社会的統合という観点を含む、特に脆弱な人々のための住宅と生活手段の状況に関する基本的な支援が継続されるべきである〉
 このステートメントが現在の国際人権のレベルである。避難指示を受けていようと受けていまいと避難者には同様の人権が保障されなければならず、住居の決定は『持続可能』をキーワードに自由かつ自主的になされなければならず、避難者に住居を与える決定には、避難者自身が参加する権利が与えられなければならないのである。避難を続ける必要がある避難者から強制的に住居を奪うことは許されてはならない」
私は一支援者として、また「原発事故避難者住まいの権利裁判を支援する会」代表世話人の一人として、この裁判も傍聴を続けていこうと思っている。次回の裁判期日は3月22日午後4時、東京地裁103号法廷で開かれる。多くの方の支援、傍聴をお願いしたい。
推薦図書
この二つの裁判で避難者側の主張の大きな支えになっている国際人権法についてもっと知りたいと思っていたら、格好の本に出会ったので紹介します。
『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』(藤田早苗著/集英社新書/1000円+税/2022年12月21日)
「私たちは、生活のあらゆる場面において人権を『行使』している。しかし、国際的な人権基準と照らし合わせてみると、日本では人権が守られていない。
 コロナによって拡大した貧困問題、損なわれ続ける報道の自由、なくならない女性の差別や入管の問題…そうした問題の根幹には、政府が人権を保障する義務を守っていないことがある。その状況を変えるためにはどうすればいいのか。国際人権機関を使って日本の問題に取り組む第一人者が実例を挙げながらひもとく」(カバー袖の文章より)
『災害からの命の守り方 ―私が避難できたわけー』(森松明希子著/文芸社/1700円+税/2021年4月20日初版第2刷)
もう1冊は原発事故後に郡山市から大阪に避難した、国内避難民の森松明希子さんの本です。
森松さんは「日本というこの国で、ごく普通に暮らす一般市民の私が、原発事故の被災者として、避難者として、一人の人間として伝えたいこと」として、この大部(473ページ)の本を書いたそうです。天災列島ともいえる日本で、また心憂うるニュースが新聞やテレビを賑わす日々に、平易な言葉で大切なことを伝えてくれる本です。多くの人に読まれて欲しい本です。

https://maga9.jp/230208-4/