「共同親権」に離婚トラブル経験者が不安を抱く理由とは 法制審部会が制度導入を前提に議論へ2023年4月20日 06時00分.子連れで離婚したひとり親の8割が共同親権に否定的…「DVや虐待が過小評価されている」2022年8月27日 06時00分.「親権」が問う親子、夫婦、家族2021年5月7日 08時08分PDF魚拓



法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会は18日、離婚後も父母がともに子の親権を持つ「共同親権」の導入を前提に議論に入ることを確認した。共同親権には、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待から逃れにくくなるとの反対論が根強いことから、話し合いによる協議離婚で父母が「真摯(しんし)に合意」した場合を想定。対立時の対応は議論を続ける。父母が協力して子育てしやすくなるとの期待がある一方、離婚時に配偶者とのトラブルを経験した人らからは懸念の声も上がる。(大野暢子)

◆「離婚の条件として合意迫られるのでは」

 「共同親権を導入するというニュースを見て、がくぜんとした」。離婚後、2人の子を育てている40代女性は19日、動揺を隠せない様子で語った。

 元夫は、ささいなことで激高し、ギャンブルに1日で数百万円を使い込むこともあった。女性が別居を提案すると連日、深夜まで「おかしいのはおまえだ」「俺ぐらい稼いでから言え」と罵倒された。恐怖を覚え、元夫の外出中に脱出。裁判を経て数年前に離婚が成立した。「対等に話し合える関係ではなかった。離婚に応じる条件として、相手から共同親権への合意を迫られる人も出てくるのでは」と心配する。

 幼少期に父親の暴力を受けていたという関東在住の別の40代女性も不安視する。心身に危険を感じても、なかなか配偶者との関係を絶てない人が出るのではないかと思うからだ。「母が私や姉を連れて家を出る決断をしてくれたから、私は生きている。逃げるべき人が逃げられるようにしてほしい」と願う。

◆「多くは対等かつ公平な話し合い困難」…どう制度をつくる?



 離婚後の共同親権は2021年、当時の上川陽子法相が法制審に諮問し、有識者らによる家族法制部会が導入を巡る議論を始めた。意見は推進論と反対論に二分され、昨年11月にまとめた中間試案では、共同親権を導入する案と、現行の単独親権のみを維持する案を併記。12月〜今年2月に実施したパブリックコメント(意見公募)にも賛否両論が寄せられ、法務省が時期尚早として今国会への民法改正案提出を見送った経緯がある。

 法制審関係者によると、非公開で行われた18日の部会では、複数の委員が「父母が真摯に合意した場合にも単独親権しか認めないのは、合理的ではない」と主張し、導入に向けた議論に移行することが決まった。ただ「何をもって合意なのか」「暴力や虐待の問題が軽視されている」などの反対意見も複数あった。今後は制度設計が議題になる見通しだが、意見集約は難航する可能性もある。

 DV問題に詳しい斉藤秀樹弁護士は「関係が破綻した父母の多くは、対等かつ公平な話し合いが困難だ。双方の合意形成を前提とした今回の制度案は、より力の弱い親が不利になりやすい」と懸念する。導入する場合は、裁判所が父母の真意を慎重に確認したり、必要に応じて合意を取り消したりできる制度が必要だと指摘した。



 離婚後の親権 民法は「子の利益のため」を大前提に、父母が協議離婚する場合は「協議で、その一方を親権者と定めなければならない」と単独親権を規定。共同親権の導入について、反対派の懸念に対し、推進派は別居親が子どもに無関心になったり、父母の対立で疎遠になったりするのを防ぐ効果もあると主張する。

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/245078
「共同親権」に離婚トラブル経験者が不安を抱く理由とは 法制審部会が制度導入を前提に議論へ

2023年4月20日 06時00分




離婚後も父母双方が子どもへの親権を持ち続ける「共同親権」について、民間団体がひとり親を対象に行ったインターネット調査では、導入されても「選択しない」「どちらかというと選択しない」と答えた人が8割に上った。回答者の多くは離婚の背景にDV被害を挙げ、協力関係は難しいと考えていた。(出田阿生)

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 親権 進学先などの重要事項決定権や契約などの財産管理権、住まいを定めたり身の回りの世話をする監護権などからなる。日本では婚姻中は父母が共に親権を持つが、離婚に際して父母どちらかを親権者とする単独親権制を採る

 共同親権導入に慎重な立場をとるシングルマザーサポート団体全国協議会(加盟31団体)が6〜7月に調査。子連れで離婚した、ひとり親の会員2524人から回答を得た。

 同居当時、暴言などの精神的暴力、物を壊すなどの間接的暴力は7割、家計にお金を入れない経済的DVを受けた人は6割に上り、4割が子どもの虐待があったと回答した。全国の家裁で申し立てられた離婚のうち、女性(妻)側の理由の2〜4位が夫からの経済・精神・身体的DVとなっている司法統計(2020年)の現状を裏付けた。



 法制審議会(法制審)では、DVや虐待を家裁が認定すれば共同親権にはしないという案も出ているが、アンケートでは「DVを訴えたが面会交流を実施された」と回答した人が、調停経験者の2割以上いた。金澄道子弁護士は「家裁ではDVや虐待が過小評価されている。両親が協力できる関係なのかを判断する司法の基盤が不足している」と指摘する。

 法務省委託調査(11年)では、単独親権制の下でも当事者の7割が面会交流は「行われている」と回答。12年には面会交流を明記した改正民法が施行され、家裁が原則として実施させる流れは強まっている。

 大阪経済法科大の小川富之教授は「欧米諸国では共同養育を積極的に進める法改正をした結果、子どもが殺されるなどの事件が相次いだ反省から、別居親の権限を抑制する方向へ向かっている」と説明。全国協議会の代表で家族法制部会の委員でもある赤石千衣子さんは「養育費の支払いとの引き換えに共同親権を選ばされる恐れもある。もっと慎重な議論を」と訴えている。

◆法制審でも賛否割れる

 共同親権制度は、離婚後の子の養育を巡る家族法制の見直しの一つとして、2021年3月から法制審家族法制部会で議論されてきたが、委員の中でも賛否は割れている。7月19日に示された中間試案のたたき台では、共同親権を可能とする案と、現行の単独親権を維持する案を併記。部会は近く試案を公表し、パブリックコメントを募る。(小林由比)

 12年施行の改正民法で、離婚協議の際に面会交流や養育費の分担について取り決めることが明記されているが、「離婚後も父母双方に養育責任があることを明確にすれば、円滑な面会交流や養育費の支払い確保が期待できる」などとして共同親権を求める動きがある。

 一方、「適切な面会交流や養育費支払いの促進は親権制度が原因ではなく、家族内にDVがあった場合、被害を継続させる恐れがある」として反対する意見も強い。

▶次ページ 導入への危機感強めるDV被害者の思いは に続く
◆首を絞められ、鍋の中身を投げつけられた

 「共同親権になったら、本当に逃げられなくなる」。小学生の子を育てる30代のシングルマザーは、強い危機感でこう語る。夫のDVから子連れで逃れたが、別居4年の今も離婚が成立せず、面会交流を強いられている。今の住まいの近くには交番があり、「何かあったら駆け込もう」と、張り詰めた日々が続く。(出田阿生)



 夫は周囲にはいい人だと思われ、会社でも出世しているが、家では別だった。結婚後に暴言など精神的暴力が始まり、出産後は身体的暴力も加わった。髪をつかんで引きずられ、首を絞められ、煮えたぎった鍋の中身を投げつけられた。時には子どもの前で暴力をふるわれた。別居すると、夫は調停や裁判を9件起こし、中には妻に6000万円を請求する訴えまであった。

 面会交流の実施について、家裁の調停ではDV被害を伝え、「夫が子どもに物を投げて流血させたこともある」と訴えた。だが調停委員は、面会場所が公園やテーマパークなので「第三者の目があるから大丈夫」と取り合わなかった。

◆子どもの前で罵倒される面会交流

 面会交流に子どもを連れて行くと毎回、夫に罵倒される。その様子を子どもに見せるのがつらい。「調停委員はDVや虐待に詳しくない。調査官も、面会交流は実施するのが原則だと言うばかり。被害が軽視されている」と感じている。

 離婚が成立していないため、現在は「共同親権」の状態だが、弁護士を間に入れても話し合いができない。「共同親権になったら父母が協力して子育てできるようになるわけではない。嫌がらせを続ける道具として子どもが使われ、暴力から逃れられなくなるだけです」

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/198325
子連れで離婚したひとり親の8割が共同親権に否定的…「DVや虐待が過小評価されている」

2022年8月27日 06時00分



虐待の疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した十八歳未満の子どもが昨年十万人を超えた。五年間で約二倍増。民法で定める親権が、虐待から子どもを救い出す際の妨げになっているという指摘もある。親や社会は、子どもの権利とどう向き合うべきなのだろうか。 

<子どもの権利条約>  18歳未満の子どもに成人と同じように基本的人権を保障するため、成長の過程で必要な▽命を守られて生きる▽教育を受けて育ち友達と遊ぶ▽暴力から守られる▽自分に関係あることに自由に意見が言える−などの権利を定めた条約。1989年に国連で採択され、190を超える国や地域で締結。各国政府には子どもの権利を実現するための国内法の整備が求められる。日本は94年に批准。

◆子の権利保障 不十分 早稲田大法学学術院教授・棚村政行さん



 日本の法律や政策は、子どもを権利の主体ではなく、大人の保護の対象として位置づけていると感じます。例えば、児童手当や児童扶養手当は子どもに直接支払われるのではなく、親に支給されます。親にお金を配れば子どもにも届くだろうという発想です。子ども自身が権利を持ち、独立した人格として尊重されるというよりも、大人を通して守られる存在、大人の付属品のように考えられているのではないでしょうか。

 日本も批准している「子どもの権利条約」では、子どもの主体的な権利性や独立した人格を持つことが強調され、これに沿って先進国は法律も見直してきました。しかし、日本には「子どもの権利基本法」のような包括的な法律がなく、子どもの権利の保障は不十分です。個別の分野を見ても、体罰を禁止する規定が十分でないとか、民法に親の懲戒権が残っているなどの課題があります。

 子どもを従属的にとらえる考え方は、親子の一体感とも関係しています。日本は文化的に親子の結び付きが強い国です。子どもを道連れにした無理心中などは海外では考えられないことです。親子の仲が良いことは悪いことではありませんが、健全な緊張関係は子どもの自立のためにも必要です。

 最近では、新型コロナウイルスの感染拡大が子どもに与える影響を心配しています。在宅勤務の増加や失業といった親のストレスが児童虐待という形で子どもに向かっています。オンラインで学習する機会が増え、家庭の経済格差がパソコンを持てるかどうかといった教育格差につながっています。

 日本は自己責任論が強く、貧困は家庭の問題とみられがちです。しかし、必要であれば、国や社会が介入して弱い立場にある子どもを守る姿勢を示すことも重要です。

 子どもにとって親の離婚は人生の一大事です。日本は、離婚後は父母の一方が親権を持つ単独親権ですが、父母の双方が親権を持つ共同親権の是非を巡る議論が法務省で始まりました。離婚後に父母が子どもを巡って綱引きをする場面が多く見られます。大人の主張だけが前面に出て、子どもの声がかき消されているのです。子どもにとって何が最善かということを中心に置きながら議論する必要があると考えています。 (聞き手・木谷孝洋)

<たなむら・まさゆき> 1953年、新潟県生まれ。早稲田大大学院法学研究科博士課程修了。弁護士。日本家族<社会と法>学会理事長や法制審議会委員など歴任。著書に『子どもと法』など。

◆懲戒権 早急に廃止を 文京学院大教授・甲斐田万智子さん



 日本では、親権が子どもに対する親の指導・しつけの権利という誤解が広まったままになっています。そのような誤解が、虐待の正当化につながるリスクを生み出しています。この誤解を解消するためにも懲戒権は一刻も早くなくすべきです。

 親権とは本来、家庭における養育に対して、国家や社会は不合理に介入・干渉すべきではないとするものです。娘がある年齢に達したら結婚させねばならないと地域社会が圧力をかけたり、国家が難民や移民の子どもを親から引き離したりすることに対し、子どもを学校に通わせたい、一緒に暮らして育てたいという親の意思を守るものなのです。

 誤解が消えないのは、一九八九年に国連で採択された「子どもの権利条約」の考え方がほとんど浸透していないためです。この条約は「子ども観」を百八十度変えました。子どもは未熟で導かなければならないという考えから、子どもは権利の主体であり、一人の人間としてその人格が尊重されなければならないという考えに。

 では条約で親権はどう規定されているか。第五条で父母などに自分の子どもの権利が守られるよう、権利があることを子どもに伝え、その権利を使えるように手助けをする責任、権利、義務があるとしています。親権は何よりもまず責任であることを心にとどめておきたい。

 共同親権に関する議論についてですが、私は、離婚あるいは別居している親に希望する子どもが会えるようにすることは大事だと思います。また、これからは同性パートナーの家族や多国籍・多文化家庭などもますます増えていくので、個々のケースで子どもの最善の利益を最優先することが大切でしょう。

 日本が子どもの権利条約を批准してから二十七年になりますが、政府は条約の内容を広報する義務をきちんと果たしてきませんでした。教師が子どもの権利を教えるカリキュラムも存在せず、子どもは自らの権利を学ぶことができていません。

 子どもの権利を知ることで、親と子の関係も変わり、子どもの意思が尊重されるようになる。子どもと大人は、力関係において非対称ですが、人間的には対等。子どもを支配する存在としてではなく、よりよい社会を共につくり、地球的課題を共に解決する仲間と考えるべきでしょう。 (聞き手・大森雅弥)

<かいだ・まちこ> 1960年、長崎県生まれ。認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事。編著書に『世界中の子どもの権利をまもる30の方法』(合同出版)など。

◆幸せ祈り映画つくる 映画監督・成島出さん



 アイルランド系の米国人の映画編集者と仕事をした際に、イタリア系の奥さんと韓国人の養子という全く容姿の異なる三人がとても仲良さそうにしているのに感動しました。家族は血のつながりだけではないという思いが映画「草原の椅子」(二〇一三年公開)につながりました。

 子どもを誘拐する「八日目の蝉(せみ)」(一一年公開)とは逆に、赤の他人の子どもを押しつけられる話です。取材で、虐待やネグレクトを受けた子どもを預かる施設を訪れた際、けなげな子どもたちの姿に「この子たちと手をつないで生きたい」と強く思いました。

 どんな境遇に生まれても子どもには幸せになる権利があります。僕の作品には「子どもの魂が幸せに」という願いが必ず出ています。「現実が過酷だとしても、せめて映画の中ではハッピーエンドに向かってほしい」。映画をつくることは僕にとって祈りなのです。

 最新作の「いのちの停車場」では、姉の子どもを育てる女性を広瀬すずさんに演じてもらっています。彼女が、松坂桃李さんが演じる、診療所で知り合った青年に、大事な打ち明け話をする場面があるのですが、ラーメンを食べていた子どもの口をすずさんが拭くというカットを入れました。二人きりにしてもいい場面なのですが、僕の映画ではこうなります。「何年か先に、この三人が家族になればいいな」。そんな未来を願いながら撮っていました。

 「草原の椅子」で、パキスタンのフンザでロケをした際、近くに(ノーベル平和賞を受けた)マララ(・ユスフザイ)さんが育った村がありました。宗派対立による戦闘があり、焼かれたバスが残されていました。殺された人々の写真に「絶対相手を許さない」と書かれたポスターも見かけました。

 「教育を受けたい」と言っただけで命を狙われる環境から、マララさんのような女性が出たことは奇跡だと思います。そんな奇跡が二つ、三つと重なっていくことで世界が変わっていく。子どもたちの選択する自由を認めていくことが何より大事なことだと考えます。

 子どもたちの未来を考えることは、世界の平和につながり、食料不足、地球温暖化の解決にもつながる。それが僕の考えの根本です。 (聞き手・中山敬三)

<なるしま・いずる> 1961年、山梨県生まれ。「八日目の蝉」は日本アカデミー賞最優秀作品賞など10冠に輝く。吉永小百合さん主演の最新作「いのちの停車場」は5月21日公開。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/102709
「親権」が問う親子、夫婦、家族

2021年5月7日 08時08分