夏目漱石「こころ」がテーマの美人写真集

私はその人を常に先生と呼んでいた。
始めて先生の宅を訪ねた時、先生は留守であった。
すると奥さんらしい人が代って出て来た。美しい奥さんであった。

いつの間にか先生の食卓で飯を食うようになった。自然の結果、奥さんとも口を利かなければならないようになった。

私はそのうち先生の留守に行って、奥さんと二人差向いで話をする機会に出合った。

私は奥さんの顔を見るたびに気になった。先生は奥さんに対しても始終冷淡な態度に出るのだろうか。もしそうだとすれば、奥さんはそれで満足なのだろうか。

そうこうしているうちに、私はまた奥さんと差し向いで話をしなければならない時機が来た。先生がある晩家を空けなければならない事情ができてきた。

茶の間には綺麗な長火鉢に鉄瓶が鳴っていた。私はそこで茶と菓子のご馳走になった。

「もう一杯上げましょうか」と奥さんが聞いた。
私はすぐ茶碗を奥さんの手に渡した。

「いくつ? 一つ? 二ッつ?」

妙なもので角砂糖をつまみ上げた奥さんは、私の顔を見て、茶碗の中へ入れる砂糖の数を聞いた。奥さんの態度は私に媚びるというほどではなかったけれども愛嬌に充ちていた。

私はまっすぐに奥さんを見た。「正直に答えてください。奥さんは先生をどのくらい愛していらっしゃるんですか」

「私は嫌われてるとは思いません。しかし先生は人間が嫌いになんでしょう。だからその人間の一人として、私も好かれるはずがないじゃありませんか」奥さんは眼の中に涙をいっぱい溜めた。

私は奥さんを慰めようとした。奥さんもまたできるだけ私によって慰められたそうに見えた。

始め私は理解のある女性として奥さんに対していた。私がその気で話しているうちに、奥さんの様子が次第に変って来た。奥さんは私の頭脳に訴える代りに、私のハートを動かし始めた。

ある日、先生が奥さんにこう言った。

「静、お前はおれより先へ死ぬだろうかね。
しかしもしおれの方が先へ行くとするね。そうしたらお前どうする」

「どうするって……」
奥さんはそこで口籠った。

「どうするって、仕方がないわ、ねえあなた」
奥さんはことさらに私の方を見て冗談らしくこういった。

奥さん…

先生、早く死なないかなあ。

(おわり)


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※参考:夏目漱石「こころ」。文章は原作からほぼ引用しています。


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