もし世界中のお金がラーメンになったら

ZOZOTOWN、WEARなどを運営する株式会社スタートトゥデイの社長、前澤友作氏がtwitterで「誰か映画作ってもらえませんか?テーマは『地球上からある日突然お金が消えたら』です」と呼びかけている。

実際そうあってほしいが、突然お金が消えるというとファンタジーになってしまうので、現実的にお金がラーメンになるストーリーを考えてみた。


「もし世界中のお金がラーメンになったら」

今の若い人には信じられないだろうが、昔はお金をもっている人が偉かった。もちろん現代は違う。ラーメンをもっている人が偉い。正確に言うなら、ラーメンをうまく使える人が偉い。

お金がラーメンに変わったきっかけは、2016年に発表された「アメリカの刑務所ではラーメンが主要通貨になっている」という社会学の論文だ。

米アリゾナ大学博士課程の研究生マイケル・ギブソン・ライト氏によると、かつてはタバコが主要通貨だったが、刑務所の予算カットで食事は年々まずくなり、「ラーメンは安いしおいしいし高カロリーなので、どんどん価値が上昇。あまりに貴重なため、他の物との交換に使われている」という。

この現象はたちまち刑務所を運営している民間企業の間で話題になった。というのは、通貨がタバコからラーメンに変わったことで、刑務所内の満足度が向上していることが、囚人アンケート調査によって分かったからだ。

アメリカでは予算削減のため、民間企業に刑務所の運営を委託している。そして企業は、いかに予算をカットしながら服役者を増やして売り上げを伸ばすかにいそしんできた。どうすれば犯罪者が増えるかを考え抜いたのだ。

といっても犯罪を助長するわけにはいかないので、彼らはロビー活動によって軽い犯罪でも刑務所に送り込むよう刑法を変えてきた。しまいには「アメリカ人そのものに原罪がある」という広報活動まではじめるしまつだ。

その結果、服役者の人数は年々増加している。一方で米刑務所局によると、各州が2010年に服役囚に使った予算は約485億ドル(約4兆8500億円)で、2009年の5.6%減だった。

しかし問題も生じた。従来の「いかに犯罪者を減らすか」という考えから「いかに増やすか」と考えを転換することによって刑務所の経営状況は良くなったが、囚人がぎゅうぎゅう詰めになったのである。

当然囚人のストレスは増える。さらに予算をカットしてできるだけまずい食事を提供しているわけだから、さらに不満は増える。そうしたなかで、どうしたら囚人の満足度を上げられるかは大きな課題だったのだ。

だからラーメンが通貨になったことによって、囚人の満足度があがったということに、刑務所運営会社はとても注目したのだ。そこで企業は、なぜラーメンで満足度が上がるのか詳しく調査した。

2016年は「囚人グルメ」がアメリカでブームになった年でもある。最低の食事を与えられた囚人達は、最高の創造性を発揮する必要にせまられたのだ。どんどんとレシピを開発し、囚人グルメ本はSNSで大きな話題となった。

・「塀の中から家の中へ――刑務所クッキング」は女囚のお手軽レシピ。
・「監獄クックブック――囚人のレシピ・バイブル」は、犯罪調理師による上級レシピ集。そして「刑務所ラーメン――檻の向こうのレシピやエピソード」での革命的なラーメン調理法は大きな話題となる。

この本はインスタント・ラーメンをベースに、マヨネーズや粉末ジュースといった、手当たり次第の具材を入れて混ぜ合わせていく。調理に利用するのもゴミ用のビニール袋やトイレットペーパーを使うなど創意の塊だ。

そしてここに、ラーメンが囚人の満足度をあげた大きな原因があったのだ。かつての通貨だったタバコと違い、ラーメンは工夫次第で美味しくできる。仲間と情報を交換しながらラーメンを作るなかで連体感が広がったのだ。

「ラーメンは味もありますが、本質はコミュニケーションなんです」と語る囚人もいる。重要なのは、ラーメンは日持ちがよいものの賞味期限は半年で日々劣化していくので、ずっと溜め込んでおくことはできないことだ。

これにより、貯めるよりいかに創造的に使うのか?という考えが生まれた。

このように時間とともに価値が減っていく「減価貨幣」というアイデアは古くからある。お金を貯めこむのは価値が減らないからで、もし減るのであれば、貯めるよりも使うことを優先するのではないか?というアイデアだ。

これまでそのアイデアを活かした地域貨幣はいくつか存在したが、大きく普及することはなかった。手間がかかるし、たいして楽しくなかったからだ。

しかし偶然にもこの「減価貨幣」のコンセプトを刑務所のラーメンが体現したことで、コミュニティを活性化する鍵が見つかった。

この結果に注目したのがIT企業だった。ネットのサービスは基本、ユーザが参加できるプラットフォームをいかに盛り上げるかが勝負になる。

そこでやるのが独自のポイントを発行し、そのポイントを仮想通貨としてユーザー間のコミュニケーションにも使ってもらうことだ。しかし他社もやっているので差別化しにくいし、もう一つ課題がある。

もらったポイントを使わないユーザーもいるわけで、そういったポイント残高がどんどん増えていくと、資金決済法により多額の金額を法務局に供託金として預ける必要がでてくる。

この2つの課題と、ラーメンの効果に注目したのがベンチャー企業のハイパータウン社だ。自社のコミュニティに使う1ポイントを1ラーメンと表現して賞味期限を半年と決め、それ以降は価値が減っていくようにした。

そしてその1ラーメンは実際に1つのインスタントラーメンとも交換できるという、金に裏付けられた金本位制ならぬラーメン本位制をとり、これはSNSで非常に話題になった。

結果、新規ユーザーの増加と、ラーメンを消化しようとする既存ユーザーの活性化につながり、自信を深めた同社はさらに仮想通貨ビットコインの技術であるブロックチェーンにラーメンを適用し、「ラーメンチェーン」を開発した。

ブロックチェーンとは、誰がどれだけのコインを持っているか、という台帳を分散型ネットワークで共有する技術だが、ラーメンチェーンはさらに、そのコインならぬラーメンの賞味期限まで記録する。

つまり減価貨幣型のビットコインなのだが、前回のPR施策に味をしめたのか、ハイパータウン社はその1ラーメンを1インスタントラーメンと交換できる交換所を実際の店舗としてつくり、また大きな話題をさらった。

このラーメンチェーンを愛するファンたちは仲が良いのが特徴だ。既存料理の単なるラーメン好きと区別するために「シンラーメン」と呼ばれる彼らは、普段の生活に使うお金をどんどんとラーメンに置き換えていった。

もともと1ラーメンは1インスタントラーメンと交換できるだけだが、シンラーメン族は互いに交流することで、実際にはなんでも彼ら同士で交換する。それはまさしく、米国刑務所内を包んだ暖かい空気と同じだった。

囚人の満足度があがったように、シンラーメン族は彼ら独自の幸福の価値観を築いていった。ラーメンをどれだけ貯めようがやがて腐る。貯めるよりも、どうラーメンを使うか、という遊び方が彼らにとって大切なのだ。

お金の世界では「お金使い」よりも「お金持ち」が偉かったが、「ラーメン持ち」よりも「ラーメン使い」の方が偉いということだ。その結果、ラーメンを楽しく使う達人にラーメンは集まっていく。

どれだけ楽しく使えるかという達人になるには、根本的にはその遊ぶ内容をどれだけ好きかによる。だから「やるべきか」どうかよりも「好きか嫌いか」ということを彼らが優先するのは、その考え方の方がラーメンを得られるからでもある。

彼らにとって仕事も義務的にやるのではなく、気がむいたときに好きでやるものだ。結局好きでやらないと、技術もなにも向上しないということを、ラーメンを通じて彼らはよく知っているからだ。(希望あれば続く)


以下余談なので興味ある方だけ。

お金については、『モモ』『はてしない物語』などで知られるファンタジー作家ミハエル・エンデが最後まで問い続けていた問題だ。「エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと」という本では、人間の豊かさをよくよく考えるのであれば、お金はないほうが良いということをさまざまに述べている。

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