会社は誰のものか?映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」が深すぎる

通常は成功者として語られるマクドナルドの創業者「レイ・クロック」を別の角度から描いた映画。めっちゃ面白かった。

元々マクドナルドは、マクドナルド兄弟が始めたハンバーガーショップで、レイ・クロックはミルクシェイクの機械を店に納めている営業マンだった。

店のフランチャイズをかって出たレイ・クロックは徐々に支配力を増し、とうとうマクドナルド兄弟から「マクドナルド」の権利を奪う(買い取る)。

物語論としては、典型的な「意識派と感性派の対立劇」だ。

意識が高い主人公の前に感覚的な人が現れ、最初は対立するが互いに影響を与え合うというパターンで、映画や物語で無数に使われている。

例えば映画「そして父になる」は、エリートな家庭と貧乏だがアットホームな家族と交流し、エリート男性が父性(感性)に目覚める話だ。

恋愛ゲームのメーカー、ボルテージのノウハウを記した書籍「胸キュンで100億円」でもこのパターンは紹介されている。

異なる価値観をもつAとBを設定し、2人の出会い、喧嘩、調和で話を作る。
最も典型的なのは、意識派と感覚派の対立になる。「ああこういう人いるよねー」って共感しやすいからだ。私が思う意識と感覚の違いは次だ。

■意識とは?
意識は価値。異なるものを同じ物とみなす能力。客観的にグループ化し、数値化、ランク付けることで、あらゆるものを交換可能にし経済価値を生む。
※ダークサイド:人間まで意味付けしだすと、自分を無価値に感じて自殺したり、他人を無価値だとみなして虐殺するようになる。
典型的な人物:レイ・クロック、アドルフ・ヒトラー

■感覚とは?
感覚は喜び。一見同じものの違いが分かる力。代替不可能な物を見い出し、そこから主観的な喜びを感じる力。同じ子でも自分の子は違う。
※ダークサイド:自分の感覚だけを推し進めれば交換不可能になって孤立し、貧困に陥る。
典型的な人物:マクドナルド兄弟、草間彌生


映画「ファウンダー」の中での典型的な対立エピソードは、ミルクシェイク用のアイスクリームを保管しておく冷凍庫の電気代についてだ。

電気代を削減するため、レイ・クロックはアイスの味がする粉末を混ぜてミルクシェイクを作ることを提案。しかしマクドナルド兄弟から「アイスの入っていないミルクシェイクはミルクシェイクではない!」と拒絶される。

意識派から見れば、「アイスで作ったミルクシェイク」と「粉末で作ったミルクシェイク」は同じようなものであり、同じであれば、アイスを粉末に交換したほうが儲かる。

同じ話が、岩井克人氏の本「会社はだれのものか」で紹介されている。

会社の株価に一番リンクしているのはROE(株主資本利益率)、要するに、株主の持分であるエクイティのリターンを最大化することです。
例えばこれを外食産業で徹底したとします。あらゆる「ムダ」を省いた後、最後に手をつけるのは商品である食べ物の品質です。食べ物の品質を落としても、よりリターンを上げた方が、株価が上がるからです。
こうした株価の追求が、いい企業の「淘汰」を招きかねないのです。

結局ミルクシェイクはアイス入りになるのだけど、感覚派から見れば、アイス抜きのミルクシェイクは断じて同じではなく、交換はできない。意識派と感覚派の根本的な違いは「それは交換可能か?」という事に対する態度だ。

前述の映画「そして父になる」でも、出産時に子どもをとりちがえた両家族が、あとで「子どもを交換する」というエピソードを通じ、「それは交換可能か?」という事を意識派に問う話になっている。

ただレイ・クロックから見れば、激しい外食産業の世界でまず勝ち抜かなければすべてはムダになる。感覚派の言い分は敗者の言い訳に他ならない。

レイ・クロックの自伝「成功はゴミ箱の中に」では、マクドナルドのフランチャイズ化を推し進めた凄まじい努力が描かれている。本のタイトルの「ゴミ箱」とは、ライバル店のゴミ箱をレイ・クロック自身があさって調査し、競争に打ち勝ってきたという話だ。

フランチャイズの提案をするレイに、マクドナルド兄弟はこう反論する。

「大きな白い家を持っているんだ。広いフロントポーチ付きのね。すごく気に入っている。ふたりでポーチに腰掛けて、夕日を眺めたり、この店を見たりしながら、幸せを実感しているんだよ。これ以上、何を望むというのかね? 私たちは、いま十分に満足しているし、これ以上、何も欲しくはないのだよ」

価値観の対立は、出会った時からはじまっていたのである。

通常の映画では両者の価値観は融合し、ハッピーエンドとなるのだけど、この映画は違う。レイ・クロックが勝ち進んでいく。そしてそれは本当に勝利だったのか?という視点で物語は進んでいく。

会社は誰のものか?そして何のためなのか?

非常に現代的なテーマだ。まじ卍でオススメ!

映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」公式サイト

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