もしショーンKがアドラー心理学の「嫌われる勇気」を読んだら

ショーンK(青年時代):先生はこう言われるのですね、人は変われると。

哲人:ええ、人は変われます。のみならず、幸福になることもできます。

青年:いかなる人も、例外なく?

哲人:ひとりの例外もなく、いまこの瞬間から。

青年:ははっ、大きく出ましたね!おもしろいじゃありませんか、先生。いますぐ論破してさしあげますよ!

哲人:わたしは逃げも隠れもしません。ゆっくりと語り合っていきましょう。あなたの立場は「人は変われない」なのですね?

青年:変われません。例えば私は高卒ですが、アメリカのテンプル大卒に変われますか?さあどうです、はっ!無理な話じゃないですか。

哲人:変われます。

青年:え?

哲人:あなたは「過去」に高卒で、社会人として長年過ごしてきたという「原因」の結果、いまさらテンプル大学に入学して卒業することはない、そうおっしゃりたいわけですね?

青年:え、ええ。もちろんですとも。結果の前には、原因がある。なんの不思議があります。

哲人:現在のわたし(結果)は、過去の出来事(原因)によって規定される、と。しかしおかしくないですか?例えば松下幸之助は高卒どころか小学校中退ですが、早稲田大学の名誉博士ですよ。

青年:例が特殊すぎる!
まさかあなたは、過去など関係ないと言いたいのですか?

哲人:ええ、それがアドラー心理学の立場です。

青年:しかし実際に日本人で、高卒で仕事を長年したあと、テンプル大学を卒業した…そんな人は聞いたことがないですよ!

哲人:テンプル大学ジャパンならどうです?

青年:ジャパン?

哲人:テンプル大学にはジャパンキャンパスがあります。それならどうですか?アドラー心理学では、過去の「原因」ではなく、いまの「目的」を考えます。

あなたは「高卒だからテンプル大卒ではない」のではありません。順番は逆で、「テンプル大を卒業したくないから、高卒なのだ」と考えるのです。

青年:はっ?

哲人:つまり、あなたは「自分にはできない」と思いたいという目的が先にあって、その目的を達成する手段として、高卒を言い訳にしているのです。アドラー心理学では、これを「目的論」と呼びます。

アドラーは、これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない、とまで言っています。

青年:ちょっと待ってください!つまり先生、あなたは経歴の重要さを否定されるのですか?

哲人:断固として否定します。 経歴というよりは、経歴によるトラウマを、ですが。アドラー心理学では、トラウマを明確に否定します。

心に負った傷(トラウマ)が、現在の不幸を引き起こしていると考えることは、物語としては面白いでしょう。しかしトラウマによって作られた人生を生きる必要はありません。人生は自ら選択するものであり、自分がどう生きるかを選ぶのは自分なのです。

青年:なるほど。それではこれはどうですか。私は純粋な日本人ですが、米国人の親から生まれたハーフになれますか?

哲人:はっ?

青年:ははっ、ついに尻尾を出しましたね!アドラー心理学は「誰でも好きなように変われる」はずですよね?過去に支配されない生き方ができると!

哲人:自分を変える勇気があれば、ですね。しかし、ハーフだと言い張るのは勇気がありあまる…。といいますか、それは嘘ですよね。

青年: 嘘ではなくて演出です。先生は以前こうもおっしゃっていました。「経験それ自体」ではなく、「経験に与える意味」を自ら決定せよと。私はこれを演出だと意味づけます。なんなら再びアドラーの言葉を引用してみせましょうか。

「大切なのはなにが与えられているかではなく、与えられたものをどう使うかである」

私はこの高い鼻を使って、ハーフだと演出し、人生を再選択します!
ありがとうございました!(外に向かって走り出す)

哲人:あ…


3年後、青年はまた哲人を訪ねてきた。怒りに打ち震えながら。

青年:どういうことですか!アドラーの言うとおりにしたら、みんなにホラッチョ川上と呼ばれましたよ!


哲人:あなたはアドラーの思想を誤解している。

あなたのそれは、アドラー心理学では優越コンプレックスと呼んでいます。アドラー心理学ほど、誤解が容易で、理解がむずかしい思想はないんです。これからゆっくりと話しましょう。

(おわり)

※ 前半は書籍「嫌われる勇気」、3年後はその続編の「幸せになる勇気」のパロディです。ショーンK氏の発言はフィクションです。アドラー心理学を好きかは知りません。


おまけ(あとがき)

ショーンKの事件は、アドラー心理学の可能性と危険性を同時に象徴するように思えた。可能性とは、人は過去に関係なく報道ステーションのコメンテーターになれるということだ。

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