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診察室でお医者様からの診察結果にボクは思わず天を仰いだ。そこに見えたのはバラ色の天国ではなく、バラ色のケツ液だった。

「そ、それだけは納得いかない!」

社歴20年。こんなに人事部に抵抗することはかつてあったであろうか。

いや、ない。絶対ない。
従順な社畜として20年間放牧されてきたボクは、人事部に対して完全なYESマンだった。

しかし、今回は違う。
ボクが正しいんだ。譲るわけにはいかない。
そんな強い思いで、積極果敢せっきょくかかんに抵抗をしてみせた。

「しかしね、ゆずおさん。納得いかないと言われても、これは規則ですから…」

む、むっ、な、何を言ってるんだ!

ボクが強く反論しようとするも、思いだけでは世の中は変えられない。それがボクたちの生きるこの世界のリアル。

決壊する堤防から溢れ出る激流を、紙コップでんでは戻すような、僕のささやかな抵抗は、大勢たいせいくつがえすに至らず、ついには劣勢になる。

若い女性社員が何ごとかと、聞き耳を立ててジロジロとみている。

「もういっそうのこと、それなら言うが、じ、じ、じ、、」

納得いかないことをやれと言われる状況下で、束縛そくばくからの逃避、この支配からの解放を考えてしまうのは、尾崎豊世代でなくても当然のことだ。

しかし、そこまで言いかけてグッと思いとどまる。
言葉を勢いで発すると、あとで後悔することはわかっているからだ。

4月に受けた会社の健康診断で引っかかった

ゴールデンウィークが明けて、
健康診断の結果が届いた。封筒を手にすると、なんだか厚みがある。
思わずゾッとした。

この感覚、会社員ならわかるはずだ。
健康診断の結果が良好であれば、通常はぺらぺらの紙一枚で済む。しかし、厚みがあるということは、精密検査先の医療機関に向けた封筒が中に入っていて、何か問題のある可能性が高いことを示唆している。

不安な気持ちを抱えながら封筒を開けてみると、案の定、「要精密検査」という項目があった。胃がキリッと痛んだ。

なんだ、なんだ。
ジッーーーーっと見ていく。

あっ。

血便だ。
2回中1回引っかかったようだ。

いやいやいや。

ボクは昨年の10月初旬に内視鏡検査を受けたばかりで、それはこの場でもしっかりとレポをした。

あの時、アナル童貞だったボクは、なんとなくオカンに似た女医からアナルにカメラをぶち込まれ、初めての経験を味わった。
でも羞恥心しゅうちしんを感じながらも、結果は良好で、ポリープを含む異常はなかったので安心していたところだった。

しかし、今回の検査では、
便に血液が混じっていたという。
いや。まさか、そんなはずはない。
誰だってそう思うだろう。

少なくとも大腸ポリープであろうはずがない。半年前に“とてもキレイな腸ですね”と、褒められたばかりであったのだから。

そこで、ボクは人事部に掛け合うことにした。さすがに初体験を済ませたあと、2回目の挿入までのスパンが短すぎる。
これじゃあ、社内で“ヤリマンケツ”と噂されるリスクすらある。
それが一番、ダメ。ぜったい。

とにかく今は、ケツ穴を再びブッコまれる必要はない。半年前に女医からブッコミされたばかりなんだから人事部だってそれはきっと理解してくれるはずだ。

そう思い、
とても軽いタッチでボクは人事の担当課長のもとへと向かった。

それが冒頭のやり取りだ。

書き記した通り、
人事部はかたくなに譲らなかった。
全社の健康診断で“要精密検査”と出た場合は、一様に、医療検査機関から診断結果をもらうのが会社の方針、
我が社の掲げる“健康経営の一環”である、というのだ。

特例は認められない、そういうことだった。

“内臓に何らかの異常がなければ、便に血液が混じることはないらしいので”
“仮に異常が見つかれば超初期でラッキーですよ”

そんな言葉でうまいこと説得したつもりであったのだろうが、
2回目をやろうとも、結果が分かりきっているボクにとっては、その言葉が特に響くことはなかった。


ボクの知る限り大腸の検査には、
肛門から内視鏡を入れる大腸内視鏡検査と、
水と一緒にカプセル小型カメラを飲みこんで腸管内部を進みながら内蔵を撮影する検査の二種がある。

とにかく今回ばかりはケツ穴を死守したかったボクは、費用が倍以上にはなるが、
カプセル内視鏡検査を採用するつもりだった。

会社から帰宅するなりボクは妻に相談し、そしてどちらにするかを決めた。

結論。

ボクは、再び内視鏡を肛門に入れる。
妻と決めた。
いや、妻が決めたのだ。
「肛門に、黒くて硬いカメラを入れるべき。それがいい。それしかない」

ボクのケツ穴死守の希望は、
妻によって即時そくじ、却下された。

こうなればくつがえらない。

そうと決まれば、
ボクに選択権があるのは、どこで検査をするのかのみ。実は、前回はあまりにも女医にカメラを挿入されたい“低俗かつ不順”な理由があったせいで
病院の選択肢をせばめてしまったふしがある。それで病院選びを失敗したとまでは言わないが、結果として、麻酔が効いてはいたものの、かなりの痛みを伴った。

今回は、あの苦痛だけは勘弁かんべんだ。
とにかく痛みのないところにこだわろうと、口コミサイトをハシゴしまくって、びっくりするほど痛みがないとの評判の病院に決定した。

検査当日

検査前。
美女ナースからの説明を受け、1リットルの下剤を1時間かけて飲むようにと指示された。

ボクはその指示を“ふんふん”とうなづいて聞いたものの、ナースが個室から出ていくと同時に、時間なんて気にせずにグビグビと下剤を飲み始めた。
そして、あっというまに1リットルを飲み干した。

その後、鬼のようにやってくる激流を
“あぁ、あのときのあれで、これね”
とベテランのかぜを吹かせ、驚くべきことに、これもあっという間に便を透明にしてみせた。

便の色を確認しにやってくる美女ナースから、

すごいね、仕事が早いオトコね、

そう思われたかった。


その後は、用意された穴あきパンツに着替え、美人ナースに誘導されるがままに診察台へと移動した。
そしておっさん先生に、ケツ穴を突き出し、まるでたいがまな板の上に乗っているかのような身動きがとれない状態となると

ナースの
「チクっとしますよ、いきますよー」
の合図とともに麻酔注射を打たれた。

あ。

前と違う。明確に違う。
なんだか意識朦朧いしきもうろう、ふわふわしてきた。

先生が、
「ハイ。肛門から管をグサッといきますからねー」
と言うと、手慣れた手つきでボクの肛門を瞬時に探り当てていきなりグニュグニュっと管を挿入してきた。
こうして二度目のアナル喪失はおっさんによって、あっけなく終わったのだが、

ん?いや??
あれ??やっぱり前となんか違う。

想定外の快感が、ボクに訪れたのだ。

え?

戸惑いの爆走、真っ只中であったボクに、

先生は軽い口調で
「お腹の中をクネクネと進むので、少し痛いかもしれませんよ〜」
と予測不能な事態の到来を予告。

すると直後に、引いては寄せる“便意”と“快楽”のなか、肛門の奥底でナニかが開発されているのを感じた。
これが初体験を済ませたあとの、2回目のアレというものか。

ああぅぅ。

新たな快感に声が出そうになる。

「我慢してねー」
次第に先生の声がどんどん遠ざかっていく。それは快楽からなのか、麻酔によるものなのか。その時点からボクは夢と現実の狭間はざまに線引きができなくなり、たまらずそっと目を閉じた。

そして祈った。

“決して快楽のあえぎ声がこの口から漏れませんように”
“汚物が下の口から漏れませんように”
そしておっさん先生と、ナースに身を預けた。

気がつくと30分後。
目が覚めると、
ボクはリラクゼーションルームに移動していた。記憶がほとんどない。

どこまでが現実で、
どこからが夢かはわからないけども、
一連の工程において、
超気持ちよかった、ことを正直にここに告白しておく。

結果は即日出た

ポリープなんてありやしない。

「年齢からしてとてもキレイですよ」
ケツ穴童貞を奪った女医に続いて、二度目を奪ったオッサン先生からも大絶賛された。

「で、今回の血便ですが、痔に起因すると結論付けます。肛門の右側部の一部にぱっくりとキレているところがありました」
先生は気まずそうに、そう言った。

うん、そりゃあね…。
まあ知ってたよ。自分のことだからさ。だけどもね。ボクはね、
検査をしないといけなかったんだ。

あのとき人事部に
「もういっそうのこと、それなら言うが、じ、じ、じ、、痔なんですよ」
なんて言えなかったんだ。

若い女性社員が近くにいた。

言葉を勢いで発すると、あとで後悔することはわかっているから。

図太い神経のボクであろうとも、
これ以上引き裂かれたらプライドも、そして尻ももたないからだ。

て、朝っぱらからなんの報告や…、

いやでも、みなさまも、どうかどうか、
お体をご自愛くださいネ。

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