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裂けるの切符


「裂けるの切符」



裂けるくんは日毎
自分を裂いたり裂かれたりしながら暮らしていて
怒りの導火線に火をつけられた最後の日
とうとう自らの全てを裂き切って消えた


裂けるくんには
女の日と男の日があって
女の日に産んだ赤ん坊は
穢れた子だと連れ去られた

裂けるくんの切符は
いつも弾かれて乗り遅れた
弾かれた切符はドボドボと
ファンタオレンジで水浸しにされた

満員でもない列車で
裂けるくんの場所はないと太ったおばさんに言われた謎と心の中

裂けるくんがとうの昔に裂いた自らの唇は
訓読みにしか興味を示さず
ガムを噛んでクチャクチャと体操をしなければ
柔らかく開かない音読みであった

和式の汲み取りトイレの底には
裂けるくんがポトポト落とし重ねた
裂けるくんの悔しさや恥じらいがあった


裂けるくんの切符は
他の人が家族を持ち
幸福で温かな旅を続けているあいだ中ずっと
それは本当にずっと
最後まで弾かれ続けた


怒りの導火線に火をつけられた日
裂けるくんは自らの全てを裂いた
裂かれる前に裂き切って
自分だけの切符で
何処かへ消えたのだ
探したってもう
何処にもいない





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