川口あい

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川口あい

株式会社ブランドジャーナリズムCCO/NewsPicks Studios Senior Editor/NewsPicks for WE編集長/メディアビジネスからカズオ・イシグロ研究まで。映画や書評、日常。「サクッと読める」を目指します

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  • メディアビジネス雑記

    メディアビジネスに関する記事をまとめ。複雑化するインターネットの世界でメディアが「正しく」マネタイズするには?サステナブルなメディア運営とは?

  • カズオ・イシグロと音楽

    カズオ・イシグロ作品に登場する音楽について、修士課程にて研究したものをエッセイにしました。

最近の記事

ChatGPTの通用しない世界〜産後1ヶ月振り返り

快晴の5月某日。広島にゼレンスキーが到着するより少し前、我が子は爆誕した。 私と夫もそれまでの生活から一変、育児という異世界に無防備なまま突入。妊娠中から情報収集をし、心構えをしていたつもりだったが、事件は現場で起こるもの。 初めての育児は、未知の宇宙空間に緊急ワープしたような衝撃とともに始まった。 当たり前だが、子の意思表示はすべて「泣き」。何があっても、泣くのだ。 今は冷静に「当然だろ赤ちゃんなんだから」とツッコめるが、最初はそれすら驚きだった。 授乳してオムツを

    • 事実婚の出産で考えた、家族のあり方と「異次元」の意味

      事実婚で再婚して約2年。ありがたく子を授かりまして、そろそろ出産予定です。 これを機に法律婚をするのか、それとも事実婚のままか、その場合は子の名字や籍はどうなるのか……いろいろ考え相談した結果、我が家は引き続き事実婚で子を迎え、育てることにしました。 まだ手続きも最中なので不確定要素も多いのですが、備忘の意味を込めて、経緯や情報をまとめてみました。「こういう家族もいるんだ」と、ひとつの選択肢として見てもらえればと思います。 産まれる前に「認知」する まずは何より「胎児認

      • 「自分の人生がなかった期間」に、意味はあるのか?

        「僕には、自分の人生がない期間がありました」 とあるドラマのセリフを聞いて、ふと「自分にもそんな期間があったな」と思った。 「自分の名前」がなかった私の場合は、離婚に向けて別居中だった頃のこと。その状況では相手の姓を名乗らなければならなくて、これが本当に辛かった。 「自分の名前が自分のものじゃない」状態。仕事でもプライベートでも生まれたときの戸籍の姓(=川口)を名乗っていたし、自分もその姓名を自認していたけど、例えばポイントカードをつくるとき、ネットで何か登録をするとき

        • 【2020年】メディアビジネス仕事3つ、さくっとまとめ

          こんにちは、川口です(@kawaguchiai) いわずもがなですが、2020年は新型コロナウイルスの影響で仕事も生活も激変し、メディアビジネスに関わる人間としても非常に衝撃的な1年でした。業界も打撃を受け、再編や撤退などの大きなニュースが相次ぎましたしね。 そんな2020年、メディアビジネスに従事する人間として、たいっへんに学びのあった「現場の仕事」を3つ、ポイントとともにまとめます! スポンサードで雑誌をつくる1社スポンサードで制作するワンテーママガジン『NewsP

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          『月と六ペンス』とコロナとわたし

          新型コロナウイルスは表面的な生活様式だけでなく、内面的な感情や人生観にまで影響を与えた。 私たちは自由には限りがあると知り、負わなくてもいいほどの責任感にも苛まれた。たぶん世界中の誰もが、人生や社会、未来のことを、前よりずっと深く考えていると思う。 自分が大切にしたいものは何か、不確実な未来に向けてどう生きるのか。「自分らしさとは何か」の問いは100回くらいは聞いた。自然体でいよう。ストレスを減らそう。自分らしくいるために。そしてみんな「ていねい」に暮らし始め、『VERY

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          「ネタバレ」で終わらない世界

          意味のわからないものを見たときほど興奮するし、その世界に没頭する。 ストーリーのなかに表象されるものの意味を考えることが、エンタテインメントの醍醐味だと思うからだ。「自分なりに考えること」には、とてつもない可能性がある。 私はこうして、3回見た。クリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET』を、3回見た。公開初日と翌日、立て続けに2回。その翌週には池袋の巨大スクリーンIMAXで。 初回は、予告編を見たくらいの前情報で鑑賞した。 案の定とても複雑で、時間軸とか物理と

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          信頼はお金になるのか?メディアのモラルとマネタイズを考える

          こんにちは。川口(@kawaguchiai)です。 前回のnoteでは、メディアの指標とスポンサードコンテンツの役割について書きました。 今回はウェブメディアの収益化に紐づく問題点や、それにまつわる各ステークホルダーの取り組み等について、改めてまとめてみます。 ウェブメディアの運営にはもちろん収入源が必要で、そのほとんどが広告収入から成り立っているというのは、多くの人が周知の通り。 一方で、こうした「ビジネスモデル側の話」は、メディア全体の信頼性やモラルに関わる大きな

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          メディアには新しい指標が必要だ。「コメントの感情分析」をはじめる理由

          こんにちは、川口です。(@kawaguchiai) NewsPicks のBrand Designチームでスポンサードコンテンツを制作している編集者です。 今回NewsPicks Brand Designとして、スポンサードコンテンツの反響や効果を示す「レポート」に、「コメントの感情分析」という新しい指標を追加しました。その経緯や、スポンサードコンテンツにまつわる個人的な考えなどを記します。 リリース読んだよ!という方は、後半部分の「そして「信じられる、広告を」だけでも

          メディアには新しい指標が必要だ。「コメントの感情分析」をはじめる理由

          “死”に対抗する手段としての音楽、そして記憶。カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

          「記憶」は、ものを見るためのレンズであり、不確かな自己肯定であり、「死」に対する部分的な勝利である。 イシグロ文学の根源とされる「記憶」のテーマは、読み込むほどに多様な解釈を生む。 長編第6作「わたしを離さないで」は、カズオ・イシグロの名をさらに世界へ広める作品となった。2010年にはイギリスで映画化され、ハリウッドでも活躍する若手俳優らが起用された。日本でも2014年に蜷川幸雄演出により舞台化され、2016年には綾瀬はるか主演でドラマ化もされた。 『わたしを離さないで

          “死”に対抗する手段としての音楽、そして記憶。カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

          旅する音楽家は“壁”を超えるーーカズオ・イシグロ『充たされざる者』

          ブッカー賞受賞後の意欲作『充たされざる者』 「日の名残り」でブッカー賞を受賞したイシグロが次作で挑戦したのは、混沌とした夢の世界を言語化することだった。 長編第4作「充たされざる者」は、主人公ライダーの視点で物語られるまま、時間が錯綜し、空間が歪み、悪夢のように展開されていく。 ピアニストのライダーは、リサイタル出演のため、東欧を思わせる小さな街を訪れる。“芸術的危機”に瀕(ひん)しているというこの街は、音楽が、施政や人権のバロメーターとなっており、住人らは、芸術を支配

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          カズオ・イシグロが初の短編集に仕掛けた「カラクリ」とは

          2017年のノーベル賞は、例年になく盛り上がったと言えるだろう。日本人としては特に、記憶に残る年となった。 長崎県出身の英国人作家カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞し、核兵器廃絶国際キャンペーン『ICAN(アイキャン)』がノーベル平和賞を受賞した。 特に文学賞の場合は、毎年最有力者として名前の挙がる村上春樹を抑え、日本出身のカズオ・イシグロが受賞したのは、我々日本人にとっても、世界中の文学好きにとっても、予想外の喜びであった。 これまで発売されたカズオ・イシグロの作

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          カズオ・イシグロと、ボブ・ディラン――ノーベル文学賞を受賞した二人の“ミュージシャン”という共通点

          カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞した速報は、一瞬で世界中を駆け巡り、日本の片隅でひっそり息をする私にとっても、特別なニュースとなった。 日本でも、受賞以前からイシグロ作品は人気を博していた。なかでも『わたしを離さないで』は知名度が高く、TBSでドラマ化されたり、蜷川幸雄によって舞台化されたりもしたので、馴染みのある人も多いだろう。 私自身は20代後半の頃、社会人として働きながら大学院へ通い、イシグロ文学の研究に没頭した。2年間の修士課程では、イシグロ文学と密接に関わ

          カズオ・イシグロと、ボブ・ディラン――ノーベル文学賞を受賞した二人の“ミュージシャン”という共通点