KANさんの思い出と「葬送のフリーレン」における勇者との旅について
2023年、今年は多くの素晴らしいミュージシャンがこの世を去った。
去っていったミュージシャンについて1人1人書いていきたいところだが、なかなかそのための時間も余白もないので、ここではKANさんについて書きたいと思う。
KANさんの訃報を聞いたとき、私は自分でも驚くくらいのショックを受けた。
本当に自分でも驚くくらいだった。
何故なら、私は決してKANさんの音楽の熱心なリスナーというわけではなかったからである。
流石に「愛は勝つ」しか知らないというわけではない。
だが、好きな曲といえば「まゆみ」とか「よければ一緒に」とか「Songwriter」とかの定番曲ばかりだし、アルバムも1枚しか持ってない。
それなのに、もっと熱心に聴いていた他のミュージシャンの訃報と比べてもここ数年で一番のショックを受けたし、その日は何度も涙ぐんでしまった。
何故か。
思いあたる理由は、ラジオだ。
私は中高生のころ、KANさんがFM802でDJをやっていたラジオを聞くのが大好きだった。
(私は当時関西在住だった。当時、関西の音楽好きな中高生は皆FM802を聞いて育ったのである ※諸説あります)
KANさんのラジオは面白かった。
KANさんの温厚で優しい人柄や、サービス精神や、駄洒落・モノマネを中心としたユーモアが全開で伝わってきた。
とは言っても、今思い出せることといえば、長嶋茂雄のモノマネ(う〜ん、どうでしょ〜)とか、C・W・ニコルのモノマネ(森は〜生きている〜)とか、まあそういったすごくどうでもいいことばかりである。
でもそんなどうでもいいことが、今となってはすごく懐かしいのである。
ところで一旦、話は変わるが、私は最近「葬送のフリーレン」(今のところ原作は未読なので、アニメの方)にハマっている。
Twitter(X)でやたらと流行っていて、いくつかのセリフや場面がネットミーム化していて気になったので、我慢できず放送開始からはかなり遅れて配信で一気に追いかけたという具合だ。
(散々こすられていた「アウラ、〇〇しろ」を見れたときは思わず笑顔になった)
完全に今期の覇権アニメ状態なので今さら説明は不要かもしれないがざっくりとだけ説明すると、魔王を倒した勇者ヒンメルの死後、勇者パーティーの魔法使いだったエルフの主人公フリーレン(エルフなので超長寿。割とこういった「ファンタジー基礎知識」みたいなのを前提としている感はある)が、生前の勇者を思い出しながら、若い冒険者と共に新たな旅をする物語である。
勇者が魔王を倒したのは作中では80年ほど前なのだが、今でも各地に勇者の銅像が残されており、人々は魔物から自分たちの町を救ってくれた勇者の功績を「毎年のお祭り」などの形で語り継いでいる。
しかしそれとは全然別に、フリーレンの中には、一緒に旅をした勇者ヒンメルの思い出が、その人柄、ちょっとした言動、優しさ、かっこよさ、かっこ悪さ、と共に今でも鮮明に残されているのである。
勇者の銅像は、ミュージシャンで言えば音楽だ。
ミュージシャンが死んでも音楽はいつまでも残り続け、再生ボタンを押すだけで我々はその音楽の素晴らしさと、ミュージシャンが残した功績に触れることができる。
でもそれとは別に、フリーレンの思い出に残る勇者ヒンメルが一人の人間であったのと同じように、ミュージシャンも人間であり、それぞれの人柄がある。
もちろん、「音楽と人柄は関係ない」という考え方もある。
そして多くの場合、それは正しい事実かもしれない。
訃報に際し、その音楽がいかに素晴らしかったか、そして、人柄がいかにひどかったかを皆が口々に語ったルー・リードのようなミュージシャンもいる。
(一応補足しておくと、私個人はルー・リードの音楽が大好きだし、皆がその人柄のひどさについて一言つけ加えずにはいられないのを内心楽しんでいた)
一方、KANさんのように、皆が口々にその音楽の素晴らしさとともに、人柄の素晴らしさを語らずにはいられないミュージシャンもいる。
そして私はその人柄を、ラジオを通して知っている。
私が知っているのは、KANさんの人柄のほんの一端に過ぎないかもしれない。
だが、ラジオというある意味では不便で時代遅れで、それでいてすごく親密でパーソナルなメディアを通してそれは確実に伝わっていたし、だからこそ、私はその訃報を聞いて、かつて親しかった人を亡くしたときのように涙ぐんでしまったのだろう。
フリーレンがかつて勇者ヒンメルと一緒に旅をして、銅像だけでは伝わらない人柄を覚えているように、中高生の私もKANさんのラジオを聞くことで、狭い部屋の中で膝を抱えて耳をすましながら、KANさんと一緒に旅をしていたのである。
では最後に、私が大好きなKANさんの歌詞の一節を引用させていただき、本稿を締めたいと思う。
「よければ一緒に そのほうが楽しい」
KANさん、今まで本当にありがとうございました。
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