小説のセルフ・パブリッシングという狭いループを押し広げたい

私が参加型小説プロジェクトを思いつくに至った理由

先日noteで公開した「無名のド素人が小説を5000冊売る」プロジェクト。そもそも私はなぜこんな企画をやろうと思ったのかについて、語ろうと思う。


今はKindleで誰でも自分の書いた作品を世に出せる時代です。しかし小説というものは基本、ひとり孤独の中でコツコツと書くものです。そして書き上がったら、ひっそりとkindleで出版し、それから「kindle出したよ」と友人・知人に伝えて買ってもらう。しばらくして、売れ行きはどうかと尋ねると、ほとんどの人が口を揃えて「驚くほど売れてないよ(笑)」と答えるのです。

私はこの「驚くほど売れない」という現実をなんとかしたいなと、長いこと思っていました。

ネットが発展して本まで出せるような時代なのに、友人の間でしか事実上流通しないのはモッタイナイ。「小説なんてどうせ自己満足でしょう」と思う方もいるかもしれませんが、実際に多くの小説を読むのも書くのも好きな人間を知っている私からすると、自己満足で書かれた作品は意外と少ないのです。なぜなら、小説とは基本、他人の物語を書くもの。つまり書いている間は、他人の人生を生きるので、そこに自分の願望を無理やり入れ込むと、作品自体が歪むのです。

kindleを始めとして、サイバー空間には面白い小説コンテンツが浮遊しているだけなのかなと思うと、もどかしくなります。それらは素人ならではの味わいやユニークな視点もあったりして、本当に面白い。有名作家の小説以外にも、面白いコンテンツはたくさんあります。

燃え殻さんのような大ヒットはまさに奇跡

それならkindleではなく、ネットに投稿して、「燃え殻」さんのように大ヒットする手段もあるかもしれません。つまり毎分・毎秒、ネットの空に放たれる星屑のような投稿の中から、自分の小説投稿だけが多くの人から見出される。つまり、奇跡を待ち望みましょうということですね。人生の奇跡を待つ人生。それも浪漫だと思いますが、私はもっと効率の良い方法はないものか、と思っていました。

編集者をしている友達に頼んで本にしてもらったらどうか?

これもよく訊かれることです。「知り合いに編集者の人とかいないの?」と。

今回のプロジェクトのことを周囲に話したところ、私が真っ先にみんなから訊かれたのもこれです。人はまるで編集者という職業が、どこにでもある仕事のような口調で言いますが、実際に編集者を知人に持つ人は、世の中じつに少ないのです。現実、周囲を見渡してみて、あなたの友人にいますか?

—編集者の知り合い、という幻想—

これには理由があって、編集者という職業の人は出版社に属しています。出版社ではたいてい副業が禁止されていて、たとえば、「私の書いた小説をちょっと読んでほしい」と頼まれて添削すれば、それは副業と同じ扱いになります。なので編集者は基本、友達や知り合いの小説は読まない。つまり、友達だからという理由で、自分の書いた小説をちょっと読んで本にしてくれる編集者は、世の中、まず、いないと思った方がいいです。

つまり、人口にすれば編集者という立場の人はそれなりに多く存在しますが、実際にあなたに協力してくれる編集者はほとんどいない、ということです。

フリーの編集者という立場の人もいますが、そういう人はたいていノンフィクションやビジネス書など、小説以外の分野を専門にしている方が多いので、小説という分野はなかなか浮かばれない分野です。

今は、元作家という人さえもセルフ・パブリッシングに頼る時代です。新人賞を取ってデビューしたけれど、本にしてもらえなかったり、何冊か出してもらったけれど売れなくて、出版社と疎遠になってしまった。出版社と疎遠になると編集者とも疎遠になり、そうなると前述したように「ちょっと僕の読んでみて」と頼める関係性もなくなってしまいます。その打開策として、セルフ・パブリッシングで新作を発表し、知る人ぞ知る彼(彼女)のファンが買う、という状況が元作家たちの励みになっているそうです。セルフ・パブリッシングがある限り、元作家ではなく、永遠に現役作家ですからね。

セルフ・パブリッシングの素晴らしさは、ここにあると思います。

編集者に頼んで本にしてもらいたい。出版社に何とかしてもらいたい。こうした、誰かにどこかに何とかしてもらいたいという受け身の発想ではなく、自分で出版しようと、書き手が能動的な気持ちになれるところが、これの魅力であり強みだと思います。新人賞頼みでも、奇跡待ちでもなく、自分から動くこと。小説の分野こそ、それが必要とされていると思うのです。

受け身の生き方をやめよう。おとなしくしないで、騒ごう

そこで、私が思いついたのがこのプロジェクトです。

小説のセルフ・パブリッシングを祭りにする

書きあげたエンタメ小説「おもてなし2051」の推敲→編集&校正→印刷&製本→出版→販促までをすべて素人の私たちでやってみよう。ネットで仲間を募り、クラウドファンディングで出版資金を集めて、この小説が販売されるまでのプロセスをネットを通じて多くの人とシェアしていきたいと思っています。そこからどんなことが起こるのか、私にもまだ分かりません。人知れず静かにセルフ・パブリッシングするのではなく、小説ができるまでのすべてのプロセスをネットで可視化することで、どんな化学反応が生まれるのか。それを考えると、とても楽しみです。

小説ボランティア募集中

私と一緒にこのお祭りを盛り上げてくれる仲間を募集しています。編集スキルがなくても、私の小説を読んで感想をくれる方、ここをもっとこう書き直した方がいいよ、などと意見を言える方、ただ小説が好きで、文学の話をしたいだけの方も歓迎です。 
 みなさまのことは小説ボランティアと呼ばせて頂きます。参加してくださる方で、私と一緒に写真を撮ってもいいよ、という方がいらっしゃると嬉しいです。写真は苦手、実際にリアルで他人と会うのも苦手、という方でも参加できます。このプロジェクトは、半分はリアル、半分はサイバー空間でのお祭りなので、ネット上だけでのボランティアでもありがたいです。お待ちしています。

「おもてなし2051」とは、2050年の東京とフクシマを舞台にした近未来おもてなし小説。2050年、観光産業が過度に発展したニッポンは、世界中すべての言葉・国籍・民族・宗教・人種の壁を克服していた。そこでは原発さえも観光地化されていて、多くの外国人を魅了する。19歳の主人公ジュジュは銀座でウェイトレスをしながらフクシマ原発作業員として働く兄のもとを訪れる。家族の過去と苦悩、外国人なしでは生き延びれなくなったニッポンで、悩みながらも前向きに生き抜く、ある家族の物語。

サポート頂いたお金はコラム執筆のための取材等に使わせて頂きます。ご支援のほどよろしくお願いいたします。