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2020年、グローバルでInsurtechにおける投資額は過去最高額約71億米ドルを記録。2021年の注目領域少額短期保険を紹介。

自然災害やコロナなどのウイルス感染、疾患など、私たちの生活にはさまざまなリスクがあります。
保険はこれらのリスクから私たちを守ってくれるわけですが、テクノロジーを活用することにより、保険会社はより安く現代のニーズにあった保険を提供することができ、私たちの生活もより豊かになります。
Insurtech領域は先進テクノロジーを活用して保険業界をアップデートしていくという点において、私たちの生活に非常に密着しており重要な意味を持っています。
そんなInsurtech領域における2020年〜2021年にかけての動き、そして2021年に訪れるであろうトレンドについて紹介していきます。
(本内容は2021年3月2日より開催したWinter/Spring 2021 Summit内のInsurtech Batch 6 EXPOでの発表内容をもとに作成しています)

【執筆者】

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Plug and Play Japan株式会社 Insurtech Director Chang Li

APU卒業後大手生保会社にて資産運用やクロスボーダーM&A、収益管理を従事。香港大学MBA取得後、2018年12月に Plug and Play Japan へ入社し、日本のInsurtechエコシステム作りに励んでいる。

Insurtechの投資額は増加傾向。先進技術を適正に評価し、アーリーステージで投資・導入することが重要な成長要因。

昨今、グローバル全体で伝染病や気候変動リスク、生物多様性の損失、自然リソースの危機など、自然環境に関するリスクが増えています。
近年では損害保険を中心にテクノロジーを活用することで、これらのリスクを早期に予測し対応できるような動きがでてきていると共に、将来的に私たちの命や財産に与える影響も予測されはじめています。

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また、自然災害だけではなく健康面においてもテクノロジーを活用した病気の早期発見・予防に年々注目が集まっており、現段階では治療法がなく厄介な病気として捉えられている認知症分野でも新たな動きが見られます。日本だけではなくグローバルにおいて高齢化が進み認知症のリスクが高まっている中で、生命保険会社を中心に認知症が発症する前の兆候を可視化することで、早期に発見をし予防策を取れるような取り組みを行っている企業が増えています。
例えば第一生命グループにおいては、かんたん告知「認知症保険」の専用サービスの一つとして「健康第一」認知症予防アプリを提供しています。アプリでは認知機能チェックを設けており、米国の企業が科学的な裏付けのある研究データをもとに開発した、画像を見る目の動きから認知機能の状態がわかる「ニューロトラック認知機能テスト(※1)」を備えています。

また2020年から感染拡大を見せているコロナウイルスにおいては、高齢者の死亡率が高いと言われていますが、実は若者にも大きな影響を与えています。
緊急事態宣言中に学校に行けない、友達に会えない、雇用環境が悪化しているなど、多くの若者のメンタルヘルスが悪化しています。
製造業や小売業などの若者の雇用が多い業界においては特に大きな打撃を受けており、このような財務リスクや事業リスクに対しても保険会社は支援を実施しています。

このような背景からも、グローバルにおけるInsurtech領域への投資額は増加し続けており、2020年は過去最高額である約71億米ドルを記録しています。

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100億円以上の資金調達を実施した企業は11社あり、これらの会社に共通する点としては保険の原点に立ち返り、テクノロジーを活用してより安く、透明性が高く、迅速な対応ができる保険サービスを提供しています。

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先進テクノロジーを活用・導入するうえでハイプ・サイクルがあります。
先進技術が現れた時はテクノロジーによって何でも可能になるだろうという過度な期待を持ち、一度に注目が集まり期待のピーク期を迎えます。しかしながら、先進テクノロジーに対して周辺技術が追いつかなかったり、効果がでなかったりと幻滅期が訪れ、徐々にテクノロジーに対する正しい理解が追いついていきながら、期待値が落ち着いていきます。その後、適正評価に合わせて世の中に浸透していくので、生産性が安定していくというサイクルです。
多くの大手企業は、このサイクルの中で先進技術が生まれた時に導入することをためらってしまい、レイターステージでの導入を決断するため出遅れてしまうことが多いように思います。

Plug and Play Japanでは、アクセラレータープログラムの実施にあたり、アーリーステージの先進技術を持ったスタートアップを多く採択しているため、企業パートナーは採択スタートアップとのPoCを通じて先進技術を早い段階で適正に評価することで投資や導入を進め、刷新的な取り組みを続けることによる業界の新陳代謝や発展に寄与しています。

2021年のInsurtech注目領域:少額短期を活用して、新しい形の保険を模索

保険業界における変化は間違いなく加速しています。
大量のデータや顧客基盤を活用して保険以外の事業を展開し始めている保険会社や、少額短期を活用した新しい販売チャネル・保険商品を探索している保険会社、また事業会社による保険業界への参入など、新たな動きが様々あるなかで、2021年は少額短期保険が注目領域になると考えます。

少額短期保険は通常の保険会社と比較して、資本金などの参入規制や商品審査が緩和されているため、保険会社としても事業会社としても、今後大きい事業になりうる模索を少額短期保険会社を通じて実現することが可能です。そのため、近年では大いに注目されている分野です。

大手保険会社は、少額短期保険制度を活用し、保険会社本体では引き受けできないようなニッチなリスクをカバーする商品を開発・販売することにより、今までリーチアウトできなかったような顧客との接点を構築しようとしています。

例えば、住友生命は2019年にアイアル少額短期保険株式会社を子会社化しました。2020年4月にはアフラック生命も、100%子会社のSUDACHI少額短期保険株式会社を設立し、現在持病がある方でも入りやすい医療保険、「SUDACHIのささえる医療保険」を販売しています。また、第一生命は2020年1月に少額短期保険の子会社の設立を正式に発表し、日本生命は2021年1月に、2021年度からの3年間中期経営計画中に少額短期保険の専門子会社設立を目指すと発表しました。

また保険会社だけではなく、事業会社も少額短期保険の制度を活用し、保険会社がもっていないデータを活用した保険商品の提供が増えてきたように思います。
近年、インターネットの利用にまつわるトラブルが多発しているなか、ケーブルテレビやインターネット接続などのサービスを提供しているJ:COMは少額短期保険会社を設立し、ネットトラブルに関連するリスクを保障する「ネットあんしん保険」を販売しています。

これまでのITシステムにあった様々な制限も、新たな少額短期保険会社や新しいITシステムの活用により、商品開発や契約管理におけるデジタルトランスフォメーションの実現が可能になってきています。
また保険業界における制度やITシステムなどの外部環境の変化に伴い、保険業界にいるリーダーたちのマインドセットも変化してきており、2021年は少額短期保険をキーワードに保険業界のトランスフォーメーションがさらに加速すると予想されます。


*1:本サービスは、認知症などの疾病に関する診断などの医学的根拠を提供するものではなく、利用者が健康な状態であることを断定するものではありません。本サービスの結果は、そのような疾病の有無などを診断する際の資料として使用されるものでもありません。また、本サービスは医療機器として承認もしくは認証を取得し、届出を行っているものではありません。


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