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絵画の図鑑ができるまでのちょっとウラバナシ

2月6日に発売を迎えました『小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画』。大変光栄なことに、大勢の方に手に取っていただき、発売4日目で第2刷、2週間で第3刷の重版が決定いたしました!

◆特設サイトでは刊行記念として「NEOアートクイズ」を展開しています。

◆Twitterでも、本書のポイントを誌面とともに紹介中。

◆小学館のWEBメディア『Hugkum』(ハグクム)では、担当編集としてインタビュー記事を掲載いただきました。

これらも大変多くの方に読んでいただき、大変ありがたい気持ちでいっぱいです。一方でこのnoteは、担当編集の超個人的記録をひっそりと綴る場としてこっそり更新していく所存です。

今回は、NEOアートができるまでに行った、一風変わった試みを紹介します。

「NEOアート」の特徴、子どもの興味を引きつけるテーマ設定

「NEOアート」の特徴のひとつに「1見開きごとに子どもの興味を引きつけるようなテーマを設ける」というのがあります。
例えば「主役になった食材」という見開きにのっている絵画。

左ページ、明治時代の洋画家・高橋由一の《鮭》は、江戸から明治へと時代が大きく変わろうとする中で油彩画という新しい技法を用いて日本らしい絵画表現を模索した画家の代表作です。
右ページ上の16世紀イタリアの画家カラヴァッジョの《果物籠》は、西洋美術史史上初めての静物画と言われています。
その下、20世紀のポップ・アートの巨匠ウォーホルの《キャンベル・スープ》は、市販のスープの缶詰を、量産可能なシルクスクリーンという版画で描いた作品。非常に有名な作品ですので、誰もが一度は見たことがあるかもしれません。

これらはすべて美術史上重要な絵画であり、解説しようとするとどうしても難しくなってしまいます。そこで、本書ではこれらを「食べ物の絵」として並べることにしました。ふだん見慣れた食材がどのように描かれているかにポイントを絞ることで、鮭の皮や身の質感を見比べたり、果物についた水滴まで観察するように見たり、子どもたちもどこに注目すればよいのか明確に示すことができました。

魅力的なテーマを探せ!

「子どもの興味を引きつけ、かつ、絵画の鑑賞を促すようなテーマ」を見開きごとに設けること。これが「NEOアート」の基本フォーマットです。
でも「子どもの(中略)促すようなテーマ」を、美術書編集を得意とするスタッフが何本も思いつく、ということはなく・・・。
そうだ、餅は餅屋!
子ども向けのテーマなら、子ども向けの本や雑誌の編集スタッフだ!
ということで、小学館で児童誌やコミック誌の編集をしているライター陣の力を大いに借りることに決めました。

「できる限りふざけたコンテを作ってきてください」

集まってもらったライターの方々には、本書に掲載する予定の作品リストを渡して、「なるべく先入観を持たずに、ビジュアル優先で、子どもが面白がってくれる切り口で絵画を紹介するページのコンテを作ってほしい」と依頼しました。「それと、どんな切り口か一目でわかる見出しもつけてください」というのも。

※コンテとは
誌面のざっくりとした設計図。どこにどんな画像が入り、見出しや本文が入るのかを絵入りで完結に記したもの。作る人の個性が出て面白い。ちなみに編集Iは、妄想で好き勝手できるこの作業が編集工程の中で一番好き。

編集部の意図としては、まだ本書が企画途中にあるこの段階で(ちなみにこのとき、本書発売の1年半前)なるべく引き出しを多く作り、振り幅を大きくしておきたかった、というのがあります。良いアイデアを思いついたときにはもう遅い、なんてことがないように、とにかくアイデアを集めておきたい。

集まったコンテは200枚以上!

コンテはただ提出してもらうのではなく、皆で発表しあって意見交換を行いました。「コンテ会」と呼んでいたこの集まりは、トータル10名のスタッフで1週間おきに、計5回開催されました。5回目を終えて、積み重なったコンテは200枚以上。
中にはそのまま使用したコンテもあります。写真1番上の「文字が絵画になっちゃった!!」は、ほぼそのままp168-169に載っていますので、本書がお手元にある方はぜひ確認してみてください。

児童書・児童誌編集のエキスパートのアイデアはどれも面白く、その発想はなかった!というものばかり。しかも、どのコンテも完成度が高い!
こうして集まったコンテは、「描かれているものに注目した切り口」「どのように描かれているのかに注目した切り口」「美術史的な見方やルールに触れた切り口」の3つに大きく分けることができました。
これはそのまま本書の第1章「何が描かれているのか」第2章「どう表現しているか」第3章「絵画をもっとよく知ろう」という章立てに反映されています。
こうしたゼロからイチを作り上げる方法は、図鑑の作り方としては珍しいのではないかと思います。
子ども目線で考え抜いた本書、次回はコンテの内容を一部紹介いたします!(つづく)

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