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ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝!③《成熟期のチャレンジ編》

■ウィリアム・グラント&サンズ 100年経っても挑戦し続ける姿勢

ウィリアム・グラント&サンズ社は、1987年で操業100年を迎えました。

ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝① 《創業期の奮闘編》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝②《成長期:メーカーへの事業拡大編》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

ただ、チャレンジ精神旺盛な同社は、歩みを止めることなく、常に新しいことに挑戦して来ました。


■逸話⑦ ヘンドリックス・ジンの発売(1999年)

ヘンドリックスは、1999年発売、「クラフトジン」ブームの火付け役になったガーヴァン蒸溜所で作られているジンです。

現在も、$30以上のプレミアム・ジン市場で、圧倒的1位の販売ボリュームを誇ります。
(ちなみに、2位はサントリーROKU。検討していますね!)

ヘンドリックス・ジンについては、これまたご紹介したいことが多いので別途で記事化します!


■逸話⑧ 安旨ブレンディッド・モルト「モンキーショルダー」の発売(2003年)

モンキーショルダーという商品を知っている人は、かなりのウイスキー通です!

このウイスキーは、グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィというスペイサイド・エリアのダフタウン地区に、隣り合って立地するウィリアム・グラント&サンズ社の3つの蒸溜所の「モルト原酒」のみをブレンドしてつくられた、ブレンディッド・モルトウイスキーです。
(かつてはピュア・モルトと表現することが多かったですが、今はブレンディッド・モルトと言う方が一般的です。)

スペックで言えば、余市蒸溜所と宮城経蒸溜所のモルト原酒をブレンドしたブレンディッド・モルト「竹鶴」と同じで、「グレーン原酒をブレンドしない」商品です。

(ちなみに、2000年代前半のウイスキーどん底期には、山崎蒸溜所と白州蒸溜所のモルト原酒をブレンドした「北杜」というブレンディッド・モルトがありました。これ、私の記憶が確かなら、希望小売価格2,500円くらいで、スナックの飲み放題ボトルとかに採用されていました。 今なら考えられないですね! その時代は、山崎でも、白州でも、響でも、どれでもいつでも定価以下で入手できていましたから、今から考えると、ウイスキー好きにはたまらない時代だったと思います。)

話を戻して、このモンキーショルダーは、グレンフィディックやバルヴェニーといった人気の有名モルト原酒が使われている一方で、それらのシングルモルトよりも安く、かつ美味しいというで『安旨モルト』として人気です。

品評会でも「ブレンディッド・モルト部門」で、いつも入賞しています。

ちなみに、モンキーショルダーとは、製麦の発芽工程で、木製シャベルで麦芽を鋤き返す(フロア・モルティングといいます)をするモルトマンに由来した商品名です。これもいつかご紹介できればと思います。


■逸話⑨ 新タラモア蒸溜所を開設(2014年)

アイリッシュ・ウイスキーの有名銘柄「タラモア・デュー」は、それまでペルノ・リカールがブレンド権を所有し、同社の超巨大蒸溜所・新ミドルトン蒸溜所(アイルランド共和国・コーク)でつくられていました。
その「タラモア・デュー」ブランドを、ウィリアム・グラント&サンズ社が2010年に買収し、元々のタラモアの地にタラモア蒸溜所を開設しました。

このアイリッシュ・ウイスキーへの挑戦だけでもすごいのですが、この新しい蒸溜所の壁には1つだけ色の異なる石が埋め込まれているそうです。

この石はグレンディディック蒸溜所の壁に使われていた石を移設したもので、その石は、グレンフィディック蒸溜所建設の際に、家族総出で石垣を積み上げた石の1つで、ウィリアム自身が積んだ石とのこと!

さすがファミリー企業。
創業者・先祖を大切にする想いが伝わってきますね。


■逸話⑩ 1蒸溜所におけるモルトウイスキー生産量・業界No.1(2020年)

グレンフィディック蒸溜所は、2020年に第3蒸溜所が稼働を開始しました。第3蒸溜所棟のポットスチルはなんと29基! 
グレンフィディック蒸溜所の既存のものと合わせたポットスチル数は44基と、稼働ポットスチルの数では業界最多! 
(日本では、山崎蒸溜所=16基、白州蒸溜所=16基、余市蒸溜所6基、余市蒸溜所8基です。)

モルト原酒の生産量は年間2,100Lで、グレンリヴェットと奇しくも全く同じ生産量で、同率1位です。

ちなみに、この第三蒸溜棟の壁石には、スペイサイドのブルーヒルという採石場から切り出された石が使われています。
この採石場では、貧しい仕立屋の息子・創業者ウィリアムが家計を助けるために働いていたそうで、そういった経緯からブルーヒルの石を使うことにしたそうです。

タラモア蒸溜所に続く、「石」エピソードです!


■逸話⑪ 古きを守る「小さなポットスチル」「フロア・モルティング」「直火」

グレンフィディックは業界最多のポットスチル数を誇りますが。実はその1つ1つのサイズは小さめです。それは、創業時の形状・サイズを継承しているからに他なりません。

また、前述していますが、現在ではスコットランドでも数ケ所の蒸溜所でしか行われていないフロア・モルディングという、人力による精麦作業(の中の発芽工程)をバルヴェニー蒸溜所で行っています。

そして、フロア・モルティングと同様、スコットランドでも数ケ所の蒸溜所でしか行われていないポットスチルの直火蒸溜も、第二蒸溜棟の初溜釜で継続しています。(現在は、温度コントロールをしやすい間接加熱を採用している蒸溜所がほとんど)

変えて良い部分はチャレンジングに変える。
変えてはいけない部分はきちんと守る。

そういった姿勢が感じられますね。


■ウィリアム・グラント&サンズ社 躍進の原動力

少し前のウイスキーマガジンの記事ですが、この記事を読んだ時に、前述してきた逸話を生み出す「ウィリアム・グラント&サンズ社」の社風を垣間見た気がしましたので、少し長文になりますが、ご紹介させていただきます。

コアなブランドに関していえば、リスク回避の傾向がやや強いでしょうね。(中略) グレンフィディックは生産力の拡大に取り組んできましたが、創業家のメンバーから求められるチェック事項は膨大な量になりました。 細かな生産工程はもちろん、蒸溜所の景観まで厳しい要望に応えなければなりません。そこには歴史に対する本物のリスペクトが求められます。

「何か実験をしたいと思って許可を求めたとき、ダメだと言われたことは一度もありません。たとえば2001年から始めた『バルヴェニー ピートウィーク』。マーケティングからの要望でもないし、ブレンダーがピートの効いたモルトウイスキーをつくりたいと思った訳でもない。ただ生産チームが、やってみたいと言い出したのです。誰のためのウイスキーかもわからないし、どうやって売るのかもわからない。でも本当にあっさりとゴーサインが出ました。正式な許可をもらった記憶すらありません。『ああ、ぜんぜんやっていいよ』みたいな感じでした」

ファミリービジネスの底力【後半/全2回】 April21.2021 ウイスキーマガジン

ファミリービジネスの底力【後半/全2回】 | WHISKY Magazine Japan

『ああ、ぜんぜんやっていいよ』

こんな上司や会社にはついて行きたいですね! そして、仕事にやりがいも持てますし、チャレンジしたくなると思います!!

(※ 今でも年に1度、ピート麦芽での仕込を行っているそうです)


■ウィリアム・グランド&サンズ社の社風

この記事を読んで、「ウィリアム・グランド&サンズ社の挑戦の歴史」を支えている社風の特徴は、以下の2点だと思いました。

家族経営ならでは長期視点での

・「伝統を継承」
する社風

・「フットワーク軽く、新しいことにチャレンジ」する社風

ウィリアム・グラント&サンズ社、やりますね!

久々に、グレンフィディック12年を飲みたくなってきました。

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