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スコッチ・ウイスキー業界の川上への垂直統合。でも異端児が現れた!《グレンフィディック》

■前回までのまとめ

・スコットランドでは、もともとモルトウイスキー原酒を樽出しのまま飲んでいた。

・安価に大量生産できるグレーンウイスキーが誕生し、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドするブレンディッド・ウイスキーがウイスキー業界を席巻。

・そうなると、相対的に「原酒を購入する、立場の強いブレンド会社=ウイスキーメーカー」と、「原酒を生産して納品する、立場の弱い原酒生産者=蒸溜所」という構図となる。

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■ビジネスにおける垂直統合とは?

◇垂直統合
垂直統合とは、別々の企業が行っていた物流、生産、販売などの価値活動のいくつかを、ひとつの企業にまとめることである。これは市場での取引を、社内の管理された取引に移行するということでもある。

垂直統合は、統合する価値連鎖の方向によって川上統合川下統合がある。川上統合は価値連鎖の売る側の企業と統合することであり、川下統合は買う側の企業と統合することである。原材料を購入してそれを基に製品を生産し、完成した製品を卸売業者に販売している企業の場合、原材料を販売している企業と統合することは川上統合、製品を買い取っている卸売業者と統合することは川下統合となる。

出典:科学事典

垂直統合 | 経営学 (kagaku-jiten.com)


■スコッチ・ウイスキー業界における垂直統合(川上統合)

恰好つけて少々難しいことを引用しましたが、スコッチ・ウイスキー業態で、わかりやすい事例を挙げるなら、ブレンド会社=ウイスキーメーカーが、原酒をつくる蒸溜所を買収することが「川上統合」にあたります。

例えば、こんなケースです。

ブレンディッド・ウイスキーのジョニーウォーカー(社名:ジョン・ウォカー&サンズ)が、自社のブレンド用原酒を確保するために、カードゥ蒸溜所を買収する。

このように資金力の強いブレンド会社が、生産者(=蒸溜所)を買収するケースがある一方で、ブレンド会社側が自社で蒸溜所をつくってしまうケースも多くありました。

例えば・・・

ブレンディッド・ウイスキーのティーチャーズ(社名:ウィスアム・ティーチャー&サンズ)が、自社のブレンド用原酒を確保するために、アードモア蒸溜所を建設する。

ブレンディッド・ウイスキーのデュワーズ(社名:ジョン・デュワー&サンズ)が、自社のブレンド用原酒を確保するために、アバフェルディ蒸溜所を建設する。

このように、スコッチ・ウイスキー業界では、資金力のあるブレンド会社が、生産者である蒸溜所を飲み込んで、一大グループを築くという流れが進行しました。


■業界の異端児、グレンフィディック蒸溜所!

そんなブレンド会社が、ブイブイいわせていた業界で、チャレンジングな蒸溜所が現れます。
グレンフィディック蒸溜所です!

「グレンフィディック蒸溜所」を所有しているのは、ウィリアム・グラント&サンズという、今も数少ない家族経営を続ける、スコッチウイスキーメーカーの超大手です。

(日本に支店がなく、ウィリアム・グラント&サンズ社の商品は、品目によりサントリーや三洋物産などが日本の正規代理店となっているので、日本ではあまり聞かない社名ですが、ウイスキー業界では超有名なので、社名が長いですが、覚えておいて損はないです!)

ウィリアム・グラント&サンズについて書きはじめると、それだけで10話じゃ足りないくらいなので、超絶にコンパクトに解説すると、以下の通りです。

《ウィリアム・グラント&サンズ社》
1887年 グレンフィディック蒸溜所で創業

1892年 となりにバルヴェニー蒸溜所を開設

1898年 ブレンディッド・ウイスキー「グランツ スタンド・ファスト」を発売

1963年 シングルモルト・ウイスキー「グレンフィディック」を発売

1963年 ガーヴァン蒸溜所を開設(グレーンウイスキー)

1990年 バルヴェニーのとなりにキニンヴィ蒸溜所を開設。

1999年 ヘンドリクス・ジンを発売。

2007年 アイルサベイ蒸溜所を開設(ガーヴァン・グレーン蒸溜所内)

正直、ご紹介したいことがありまくりですが、今回、ここで注目すべきはこれ!

1898年  ブレンディッド・ウイスキー「グランツ」を発売

これ、本当に凄いです! 
まさに、業界の常識破り、異端児です!!


■何が業界の常識破り、異端児なのか?

資金の潤沢な「ブレンド会社」が、零細な蒸溜所から原酒を買い付けて、ブレンディッド・ウイスキーをつくりあげ、それを「販売する」という流れがあったわけです。

その流れがあった中で、ブレンド会社でなく、生産者としてグレンフィディック蒸溜所を擁するウィリアム・グレアント&サンズ社は、

うちも、自社でブレデンィッド・ウイスキーを自分で発売しちゃおっと!

と、ブレンディッド・ウイスキー「グランツ スタンド・ファスト」を発売しちゃったんですねー。

これ、考え方はシンプルですが、商慣習上はあり得ないことだったと思います。
(正直、これより前にブレンディッド・ウイスキーを発売した蒸溜所があったかは調べきれていないのですが、現存するブレンドでは「蒸溜所発」のブレンディッド銘柄は、グランツが最古のようです。)

それまで、ウィリアム・グレアント&サンズ社をはじめ蒸溜所を運営する生産者は、様々な「ブレンド会社」へ「原酒を納品」し、代金を回収して商売が成り立っていました。

ここで、蒸溜所(生産者)が、自らブレンディッド・ウイスキーを発売したら、どんなことが起こるでしょうか?

(ブレンド会社の声)
おいおい、ウィリアム・グラント&サンズ!
今まで、原酒を買ってやっていたのに、ちゃっかり自社でブレンディッド・ウイスキーを発売しちゃって、うちの商品の売上が下がっちゃうじゃん!?
もう、お前んトコから、絶対に原酒は買わねーぞ!! 怒

と、仕入契約を切られてしまうことが、予想されます。

こういう「生産者が直販を始めたら、中間業界者が怒る&イジメにあう」というのは、どの業界でもある話だと思います。

しかし、当然、商品の品質が良ければ生き残るわけです。

現に、グランツという商品は、(日本ではそこまで知名度が高くないですが)ブレンディッド・ウイスキーの中で、世界売上トップクラス!

本場スコットランドでは、ベル、フェイマスグラウスなどとともに、常に売上No.1を争っている人気銘柄で、コスバ抜群です!


■グランツ発売の歴史的意味

この蒸溜所側(=生産者)が、ブレンディッド・ウイスキーを発売したことの意義は、以下の2つが上げられると思います。

■ブレンド会社による、川上への「垂直統合」の流れに抗う

強く資金力のあるブレンド会社、弱く資金力のない蒸溜所という上下関係の構図を打破することができた。

◾️生産者(原酒のつくり手)がより「やりがい」を持てる!

自社ブレンディッド・ウイスキーを発売することで、自分のつくった商品が飲まれている「シーン」を街中で見ることができるので、つくり手のモチベーションが、他の蒸溜所よりも高くなった(だろう)。

農業でいうところの産直市や、6次産業化がうまくいったような感じでしょうか?

単に、つくった原酒をブレンド会社へ出荷するだけでなく、

グランツはうちがつくる自慢のブレンディットウイスキーだ!

その原酒のメインは自社蒸溜所の原酒。
自信を持っておすすめします!!

こういう気持ちが生まれることで、最終的に仕上がるブレンディッド・ウイスキーの品質にプラスの影響を与えると思うのです。

この品質への影響は、最初は小さいかも知れませんが、歴史を経るにつれ、大きな違いとなって、他社製品との大きな差別化になっているのではないでしょうか?


■まだまだ異端児っぷりを発揮! ウィリアム・グラント&サンズ

ウィリアム・グラント&サンズ社については、ご紹介したい内容が多いので、追々記事にして行きたいと思います!

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