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《アメリカ禁酒法時代》 密輸ウイスキーの運び屋さん

■アメリカ禁酒法時代のお酒の密輸

アメリカ禁酒法は、

・お酒をつくっちゃダメ、運んじゃダメ、売っちゃダメ。
・でも、自宅にある手持ちのお酒を飲むのはOK。

というムチャクチャな法律だった上、

「ダメと言われると、逆に飲みたくなるんだよねぇ~」

という心理も働き、お酒の密輸が横行しました。

アメリカ国内へは主に、以下のルートで持ち込まれました。

アメリカ東海岸から、海上密輸

カナダ国境(主にデトロイト付近)から、
 陸上 / 川上 / 川下のトンネル / 湖上から密輸

ただ、アメリカ国内(国境付近)に持ち込まれたお酒は、消費地=都市部へ運ばれなくてはいけません。

今回は、その密輸されたお酒がどうやってアメリカ国内で運ばれたか?というお話です。


■パトカーも追いつけない! 性能抜群、新型フォード車!!

この時代、アメリカで活躍した自動車メーカーの1つがフォード社です。

このフォード社が、ちょうど禁酒法の時代、画期的かつ超高性能な車を開発しました。

1927年にそれまでのT型を改良したA型が発表されたとき、運び屋たちはより小回りの利く新車を争って買いに走り、いったいフォードはどちらの味方なのだろうと禁酒法の取締官を悩ませた。

バーボンの歴史P243 原書房 
リード・ミーテンビュラー著

このフォードの新型車は設計に優れ、例えばヘッドライトは車輪の向きと連動するようになり、夜間にカープを曲がる時にも前方が見やすくなっていました。

そして、そもそも下手な整備士でも容易に性能を上げやすい設計で、改造にうってつけだったのです。

その中で伝説的なメカニックも誕生し、通常の自動車修理工場の隠し扉の奥に秘密の作業場を持ち、自作のオリジナルのギア部品を搭載したりした改造車を制作する者も現れました。

なんか、映画に出て来そうな話ですね。

結果的に、この改造された新型フォード車は、あまりに性能が上がりすぎたため、警察車両では全く追いつけなくなりました。

そのため、警察は運び屋を追うために、その運び屋から押収した改造車を使わなければいけなかったそうです。


■山道も任せろ! 伝説のカーレーサーが次々に誕生!!

お酒を運んでいる時に車内でこぼれたお酒はドライバーが買い取らなければいけなかったので、運び屋や運転技術に一層の磨きをかけました。

そのため当時は、表の顔本物のレーサー裏の顔で運び屋をかけ持ちするドライバーも多かったそうです。

伝説的レーサーのジュニア・ジョンソンは、密造酒運びのおかげでコースに出る前からレースの腕前は“マスター・レベル”だったと言う。

「スピンして横滑りとか、ああいうのはみんな経験済みだった。おかげでレースはずいぶん楽だったよ」

と、彼はのちにある記者に語った。

バーボンの歴史P245 原書房 
リード・ミーテンビュラー著

やがて運び屋たちは自分の技術を披露することを欲し、「運び屋業」ではなく、他のドライバーと競いあう「レースで賭け」をしてお金をGETするようになります。

そうなると、今度は「運び屋」ではなく、「賭けレース」を生業とする者も現れます。

やがて、その「牧草地を切り開いてつくられた急造トラック」でのレース自体が、見物・エンターテイメントの対象となります。

それが今のNASCAR(ナスカー/National Association for Stock Car Auto Racing/全米自動車競走協会)へと繋がるそうです。

NASCARは、アメリカ合衆国で最大のモータースポーツ統括団体であるとともに、同団体が統括するカーレースの総称でもあるので、かつての運び屋たちの「腕試し」「ドライビング技術のお披露目会」「賭けレース」の現在の姿なのだと思います。


■ラスト・ワンマイルは任せろ! 隠してこっそり持ち運び!!

こうしてフォード車によって都市部に持ち込まれたお酒は、最後は人の手によって、消費者に売り渡されることとなります。

そのお酒の密売人のことを、ブートレッガーと呼びます。
お酒に詳しい方なら、このフレーズを聞いたことがあるかも知れません。

そして、このお酒の密売人を指す言葉が、なぜ「ブーツ」と関係があるかと言うと、「ブーツに隠してお酒を運んでいたから」です!

◇ブートレッガーとは
ブーツに酒を入れたフラスクを隠していたりしたため密売人はブートレガー(bootlegger)と呼ばれた。ちなみに現在は、非合法の品を指す言葉として使われている。

第7回 ブートレガーズ |1ページ目| バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる (suntory.co.jp)

ちなみに、フラスク(=フラスクボトル)とは、スキットルとも呼ばれる金属製の携帯用小型水筒のことです。

Wikipediaスキットル より引用

スキットル - Wikipedia

ブーツの中に隠してコソコソ持ち運ぶとか、「密着!警察24時!!」みたいな番組の麻薬捜査とかでもありそうな話ですね。

今も昔も、悪者の考えることは変わりませんね。


■(おまけ)冬には任せろ! 堂々と湖上突破!!

隣国カナダからの密輸ルートでは、「湖」というルートもあったそうです。

カナダとアメリカの国境には「5大湖」と呼ばれる巨大な湖があります。

この湖の上をボートにお酒を積んで密輸するわけですが、どうも冬季にはトラックにお酒を積んで密輸していたようです。

というのも、この国境の湖は、冬になると湖面が凍り付くのだそうです。

そして、その氷の厚みは、車が通れるほど!

ということは?

そうです!
冬になると、氷の張った湖の上を、カナダ側からアメリカ側へ、お酒を満載した密輸トラックが、通っていたそうです。

湖なんて広いし、山道のように道が決まっているから、なかなかこの密輸トラックを逮捕するのも、難しいでしょうね。

ただ、「氷が割れちゃって、ウイスキーもろとも湖に沈んでしまった」なんて、吉本新喜劇みたいなトラックもあったそうです。

5大湖の底を探索すれば、100年前のウイスキーがあるかも知れませんね!


■アメリカ禁酒法時代の一番ずる賢いヤツ!

アメリカ禁酒法時代のお酒の密輸・密売では、ご紹介をしてきた通りアル・カポネや、リアル・マッコイが有名です。

ただ、これらの有名人を押しのけて、お酒の密売で荒稼ぎした人がいます!
次回は、この逸話についてご紹介します。

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