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ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝②《成長期:メーカーへの事業拡大編》

■ウィリアム・グラント&サンズ 凄いぞ!列伝の2回目

前回のウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ!列伝《創業期の奮闘編》に続く、その後の《成長期:メーカーへの事業拡大編》です。

ウィリアム・グラント&サンズ社 凄いぞ列伝① 《創業期の奮闘編》 | 記事編集 | note

貧しい仕立屋の息子ウィリアム・グラントは、やっとのことで念願の蒸溜所開設を果たしますが(1887年)、待っていたのはパティソン事件(1898年)にはじまるスコッチ・ウイスキーの大不況

その中で、ウィリアム・グラント&サンズ社は、持ち前のチャレンジ精神で、「モルト蒸溜業者」から「ウイスキーメーカー」へと脱皮をとげるのです。


■逸話④ 自社でブレンディッド・ウイスキーを発売(1898年)

モルト蒸溜業者(生産者)と、ブレンド会社(原酒購入者)が明確に分かれていた時代に、モルト蒸溜業者である自社自らブレンディッド・ウイスキー「グランツ・スタンドファスト」を発売しました。

この逸話は、これまで何度かご紹介して来ました。

パティソン事件とグランツ発売の因果関係|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

個人的には、このモルト蒸溜業者からブレンド会社(=ウイスキーメーカー)への脱皮は、本当に凄いと思っています。
反対の「ブレンド会社がモルト蒸溜業者を買収、もしくはモルト蒸溜所を新規開設」ということはあっても、その逆はなかなかないものです。

なぜなら、モルト業者(資金力の乏しい売り手)が、自社でブテンディッド・ウイスキーを発売しようとすれば、既存のブレンド会社(資金が潤沢な買い手)から大きな反発を招くことが容易に想定できるからです。

そのような力関係の中でも、ブレンディッド・ウイスキー「グランツ・スタンドファスト」を1898年に発売し、今なおその「グランツ」を人気商品の地位にキープできている(スコットランドでは常に売上高1位を競っている)、ウィリアム・グラント&サンズ社。

やりますねー!


■逸話⑤ 自社でのグレーン蒸溜所の開設(1963年)

基本的にグレーンウイスキー用の連続式蒸溜機(コフィー式やアロスパス式など)って超巨大です。
正直、見た目は石油コンビナートか何かの「巨大工場」に見えます。

そして、その連続式蒸溜機ってデカいだけでなく、ムチャクチャ高価です!

なので、資金力のある巨大ウイスキーメーカーしか持つことができません。
(※ ただ、あまり一般的ではありませんが、単式蒸溜器=ポットスチルでグレーンウイスキーをつくることも可能です。)

例えば、サントリー知多蒸溜所に2022年に、グレーンウイスキーをつくるための「コフィー式蒸溜機カフェ式蒸溜機ともいいます)」が導入されましたが、その投資金額は約100億円(蒸溜機以外も含む)です。

知多蒸溜所が蒸溜機など新設備に100億円を投資 7月より稼働 (barrel365.com)

一方で、2013年に山崎蒸溜所にポットスチルを4器、2014年に白州蒸溜所にポットスチルを4器、追加導入していますが、その時の投資額は、それぞれ約10億円です。(ということはポットスチル1基=2.5億円

【ビジネスの裏側】サントリー「山崎」10億円で新釜4基新設の世界戦略…45年ぶり増設の強気の裏に「ハイボール需要」(1/3ページ) - 産経ニュース (sankei.com)

サントリーウイスキー生産設備増強 2014.3.27 ニュースリリース サントリー (suntory.co.jp)

今は日本でもクラフト蒸溜所が次々に立ち上がっていますが、建屋から仕込の機材やポットスチル2基(1対)などを導入して、生産を開始するのに、ざっくり15億円ほどかかると言われています。

マッカラン蒸溜所が、2018年に超オシャレ(本当に近代的な美術館みたい)かつ、超巨大な(ポットスチル36基!第3蒸溜所をオープンさせましたが、その投資額は日本円にして約200億円

業界でも、「マジかー。200億はハンパじゃない!」と話題になりました。

マッカランの新しい蒸溜所が完成【前半/全2回】 | WHISKY Magazine Japan

クラフト蒸溜所の15億円・マッカラン第3蒸溜所の200億円と比較すると、知多蒸溜所に導入された「連続式蒸溜機=コフィー式蒸溜機/カフェ式蒸溜機」が約100億円ということは、大量生産が可能な連続式蒸溜機を携えた「グレーンウイスキー蒸溜所」を開設するっていうのは、本当にお金がかかることだと実感いただけるのではないでしょうか?

モルト蒸溜業者からはじまったウィリアム・グラント&サンズ社が、ブレンディッド・ウイスキー「グランツ・スタンドファスト」の発売を経て、本当の意味で「巨大ウイスキーメーカー」の仲間入りを果たした証とも言えるのが、この巨大グレーン工場のガーヴァン蒸溜所の開設なのだと思います。

(※ ということは1963年にガーヴァン・グレーン蒸溜所ができるまでは、グレーンウイスキー原酒は他社から購入して、ブレンドに使用していたということになります。)


■逸話⑥ 業界初のシングルモルト・ウイスキーの発売(1963年)

ウィリアム・グラント&サンズ社といえば、やっぱりこれが一番有名です!

発売した1963年当時は、ブレンディッド・ウイスキーしか存在しない状況でした。

その中で、シングルモルト・ウイスキーを発売したことは、
『また、ウィリアム・グラント&サンズ社が変なことやってんなぁ』
と、業界では思われていたと思います。

しかし、時代がシングルモルト・ウイスキーに追いつくのです。

業界のパイオニア『グレンフィディック』 ブレンディッド発売からのシングルモルト発売!|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)


■『先見の明』と『チャレンジ精神』

モルト蒸溜会社から、ウイスキーメーカーへの脱皮をとげたウィリアム・グラント&サンズ社。

その1898年「グランツ・スタンドファスト」発売にしても、1963年「シングルモルト:グレンフィディック」の発売にしても、ウイスキーメーカーとして、常に業界の一歩先を行っていますね。

その『先見の明』『チャレンジ精神』は、凄いですね!
きっと、そういった社風が根づいているのだと思います。


■さらに次回に続きます!

ウィリアム・グラント&サンズ社
・前回=凄いぞ!列伝《創業期:奮闘編》
・今回=凄いぞ!列伝《成長期:メーカーへの脱皮編》
の次は、
・次回=凄いぞ!列伝《成熟期:チャレンジ編》
です!

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