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World Blended Whiskyって??

■イチローズモルトのすごいところ

ひらすら引き続きで恐縮ですが、私が思う「肥土伊知郎さん=秩父蒸溜所=イチローズモルト」のすごいところについてです。
今回は、「とにかく実直」=『ワールド・ブレンディッド・ウイスキー』についてです。

・2008年に蒸溜開始
・ウイスキー氷河期に自らBAR回りで営業
・つくり方が基本に忠実かつ超本格
・クラフトならではの斬新な発想、スピード感ある実現
・ハンパないウイスキー愛
・とにかく実直


■ニューフェイス!! ワールド・ブレンディッド・ウイスキー!

最近、耳にすることが多くなった「ワールド・プレンディッド・ウイスキー」という表現。
2019年にサントリーから「ワールド・プレンディッド・ウイスキーAO碧」が発売となりました。
その際、サントリーから「ワールド・ブレンディッド」という言葉が大きく発信されたので、この言葉が一躍メジャーとなりました。

ただ、この「ワールド・プレンディッド・ウイスキー」という表現は、サントリーが最初に使い始めたわけではありません。

前回記事の「ニューボーン」という表現と同様なのですが、私が調べる限りでは、「ワールド・プレンディッド・ウイスキー」というフレーズが使われたのは、「イチローズモルト モルト&グレーン ホワイトラベル」がはじまりです。

「イチローズモルト モルト&グレーン ホワイトラベル」は、2011年に発売されました。そして、2017年頃からラベルに「World Blended Whisky」と表記されるようになったようです。


■ワールド・ブレンディッド・ウイスキーって?

造語のため、法律上や、業界団体のガイドラインとしての、正確な定義は、まだないと思います。

ただ、その意味合いとしては、「1ケ国」でつくられたウイスキー原酒だけではなくて、「2ケ国以上」の異なる国でつくられた原酒をブレンドしてつくられた『ブレンディッド・ウイスキー』ということです。


■日本発の「ワールド・ブレンディッド」

世界5大ウイスキーのうち、ジャパニーズウイスキー以外の、スコッチウイスキー、アイリッシュウイスキー、アメリカンウイスキー(≒バーボンウイスキー)、カナディアンウイスキーには、以前から「その国で糖化・発酵・蒸溜・3年以上の熟成をさせなければ、ウイスキーとは名乗れない」という法律上の規定があります。
(日本では、2021年4月~、業界団体のガイドラインとして、「ジャパニーズウイスキー」と名乗る場合には、同様の規定を導入。)

これは、日本の以外の4ケ国のウイスキーづくりは、「農民が余剰穀物からウイスキーづくりをはじめた」という歴史背景が大きく関係しています。
出発点が農民の『地酒』的なものですから、当然、「その土地でつくられるお酒」がという考えがベースにあります。

一方で、日本では、鳥井信治郎が、竹鶴政孝を工場長に据え、「産業=ビジネス」としてウイスキーづくりが始まりました。
すでにブレンディッド・ウイスキーしか存在しない時代でしたから、スコッチウイスキーに倣った「ブレンディッド・ウイスキーづくり」を目指したわけです。

こうして日本では、ウイスキーとは「色々な原酒をブレンドして仕上げる芸術品」という『ブレンド』の視点が強かったので、「その土地でつくられるお酒」という『地酒的な価値観』は、シングルモルト・ウイスキーの人気が出るでは、日本のウイスキー業界では重要視されてきませんでした。

日本が高度経済成長で、ウイスキーの販売量が飛躍的伸びを見せ、原酒不足に陥った時、スコットランドではウイスキー不況が続き、原酒がダブついていました。

その時代、スコッチウイスキー原酒を輸入し、日本国内でブレンド。
(国産原酒とブレンドする場合もありますが、国産原酒を入れない場合もありました。)

それを、「国産ウイスキー」として発売する商慣習かありました。
1970年代~80年代の「地ウイスキー」=「一升瓶ウイスキー」ブームの時代です。

こうして、世界に類を見ない「ワールド・ブレンディッド・ウイスキー」が、人知れず、高度経済成長期にこの日本で、しれっと誕生していたわけです。

ちなみに、地酒的な国産の「シングルモルト・ウイスキー」が、日本で飛ぶように売れるようになったのは、この10年くらいです。
「1976年:メルシャン・軽井沢」にはじまり、「1982年:ニッカ・北海道」、「1984年:サントリー・山崎」と発売されましたが、まだまだブレンディッド・ウイスキーの時代でした。
2000年以降、世界的にはシングルモルトが売れるようになりますが、日本で国産シングルモルトの人気に火が着くのはもう少し後です。
具体的には、2008年の角ハイ・プロモーション後の2010年頃からとなります。


■イチローズモルトの「World Blended Whisky」

地ウイスキーも、1982年に日本のウイスキー販売量がビークを過ぎ、1989年にウイスキーの等級制度がなくなると、一気に下火になり、ほとんど生産されなくなります。

そして時は流れ、2011年、地ウイスキーとは世界感の全く異なる新しい「ワールド・ブレンディッド・ウイスキー」が発売されます。
それが「イチローズモルト ホワイトラベル」です。

この商品は「秩父蒸溜所の国産モルト原酒」「輸入のモルト原酒」「輸入のグレーン原酒」がブレンドされています。

地ウイスキーの時代は、ブレンディッド全盛なので「ウイスキー原酒の産地」はあまり重要視されていませんでしたが、シングルモルトが人気となり、トレサビリティという言葉もメジャーとなり「産地」にも次第に関心が高まります。

ただここで、敢えて「輸入原酒を使っています」と宣言することは、ひょっとしたらマイナスに作用する可能性はあったと思います。
しかし、それを自ら開示し、新たに「World Blended Whisky」というカテゴリーを命名し、堂々と発売したことに、ベンチャーウイスキーさんに「先見の明」と、それ以上に「ウイスキーに対する実直さ」を感じるわけです!

ちなみに、ベンチャーウイスキーさんでは、輸入した原酒(モルトもグレーンも)は、必ず秩父の自社熟成庫で追加の熟成をさせています。
これにより、単に「輸入した他社の原酒」とは異なる、秩父の風土が宿った「自社の原酒」となり、それをブレンドに使用しているのです。

こういった「輸入原酒を使っている」ということを開示するだけでなく、必ず追加熟成をさせて「オリジナルの原酒」に仕上げているあたりにも、「ウイスキー愛」を感じますね!


■サントリーの「World Blended Whisky」

一方で、サントリーのワールド・ブレンディッド・ウイスキーAOです。

一般的には、ワールド・ブレンディッドといっても、

「スコッチのモルト原酒」
「スコッチのグレーン原酒」
「日本のモルト原酒」
「日本のグレーン原酒(これは稀)」

この4種の中のいくつかをブレンドすることがほとんどです。
それは、ジャパニーズウイスキーは、スコッチウイスキーの流れを汲んでいるので、かなり性質=酒質が似ているからです。
「イチローズモルト ホワイトラベル」や「ニッカ セッション」も、基本的にはスコッチ原酒とジャパニーズウイスキー原酒の組み合わせです。

一方で、AOは、「ジャパニーズ」「スコッチ」に加え、「アイリッシュ」「バーボン」「カナディアン」がブレンドされている点が非常にユニークです。
通常、ブレンディッド・ウイスキーは、土台となるグレーンウイスキー(スコッチorジャパニーズorアイリッシュのグレーン原酒)が存在しますが、AOにはそういった「グレーンウイスキー」が入っていません。

では、どのようにして味の土台をつくっているのでしょうか?
AOについては。カナディアンウイスキーが、グレーンウイスキー的に使われて、その土台となっているようです!
この発想は、大変新しいと思います。
確かに、カナディアンウイスキーは連続式蒸溜機でつくりますから、いわば「グレーンウイスキー」なのですが、それをブレンディッド・ウイスキーのグレーンウイスキーの役割として使うあたりが斬新です!

まとめると、AOは、一般的に2ケ国以上の原酒が入っていれば「ワールド・ブレンディッド」なのですが、
・5大ウイスキーの5ケ国のウイスキーがすべて入っている点
・その原酒が他社からの調達でなく、すべて自社製造の原酒である点

が、スペックとしてユニークです。

言うなれば「シングルカンパニー」「ワールド・ブレンディッド・ウイスキー」で、「5大ウイスキーぜんぶ入り」です! 
なんか家系ラーメンの名前みたいですが。

AOでは、2022年から、水割り・ロックの訴求が始まっています。
「碧Ao」の愉しみ方 | SUNTORY WORLD WHISKY 碧Ao|サントリー

日本では、2008年の角ハイから、ハイボール一辺倒だったウイスキーの飲み方提案ですが、この水割り・ロックの訴求は非常に楽しみです。
水割り・ロック、そしてストレートではウイスキー本来の「香り」をより楽しめる場合が多いです。
この「香りを楽しめる」ようになると、ウイスキーの新たな魅力に気がつくと思うのです。
私もそういう経験をした1人です!


■ひたすら実直なベンチャーウイスキーの姿勢

・「ウイスキー」として売っても法的には問題ないのに「ニューボーン」と開示して売る(前回記事)

・日本でブレンドしているので、国産ブレンディッド・ウイスキーとして売っても問題なく、輸入輸入原酒を使っていることを開示する必要はないのに「ワールド・ブレンディッド・ウイスキー」と開示して売る(今回記事)

そもそも、日本というか世界で最初に「ニューボーン」「ワールド・ブレンディッド・ウイスキー」というフレーズを生み出し、ウイスキー原酒の中身を、きちんと開示するベンチャーウイスキー。

その実直な姿勢に、我々、ウイスキーラバーはトキメクわけです!


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