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アルカリ性を乗り越えろ! バーボン製造の工夫《サワーマッシュ製法②》

■バーボンの仕込み水は「硬水」&「アルカリ性」

前回までのまとめです。

・日本のお酒づくり(日本酒/ビール/ウイスキー)では「軟水」で仕込むことがほとんだが、実は硬水でも美味しいお酒をつくることができる。

・「硬水仕込み」の代表選手がアメリカンウイスキーのバーボンである。

・バーボンの仕込み水は「ライムストーンウォーター」と呼ばれる、石灰岩層で磨かれた超綺麗な硬水。(硬度 300~350mg/L)

・ライムストーンウォーターのpH値
→ pH 7以上(アルカリ性)

・麦芽の糖化酵素が最もよく働くpH値
→ pH 5.4~5.6(酸性)

バーボンの仕込み水である「ライムストーンウォーター」は、麦芽の糖化酵素が働きづらい「アルカリ性」なんです!

では、どのようにして、バーボン製造ではこの問題を解決しているのでしょうか?


■水質調整!?

以前に、お酒の製造における水質調整(水磨き)について記事化しました。

・ビール製造では水質調整をすることがあり、それをバートナイズと呼ぶ。

・ウイスキーでも水質調整をした仕込み水を使用するケースがある。
 例)イスラエル:ミルク&ハニー蒸溜所

穀物のお酒には「仕込み水」が必要! そして『水磨き』とは?|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

では、バーボンづくりではアルカリ性の水を、酸性へ水質調整(水磨き)をしているのでしょうか?

答えは、Noです!

そもそも、水質調整としてのバートナイズがはじまったのは、19世紀に入ってから(※1)なので、当然その頃にはすでにバーボンはつくられていました。

※1 Wikipedia 「Brewing methods」
醸造方法 - Wikipedia

なので、仕込み水自体のpHを変えているわけではありません。


■要はマッシュを酸っぱくすれば良い!

マッシュとは糖化工程で、「砕いた穀物」「仕込み水(温水)」を混ぜ合わせたトロトロの『おかゆ状』の液体のことです。
(マッシュ・ポテトのマッシュも同じ意味。)

砕いた穀物も最初は固形物として認識できますが、混ぜ合わせながら適切な温度に保つことで、デンプンとタンパク質が分解されて徐々に液状になります。

マッシュの「仕込み水」がアルカリ性だと、「酸性がお好きでしょ?」の糖化酵素がバリバリと活躍できないよ!!

というのが、ライムストーンウォーターを仕込み水に使っているバーボン蒸溜所各所の共通な悩みなわけです。

で、あればマッシュを、酸性へと酸っぱくすれば良いのです!

酸っぱくするには?
そう、酸っぱい液体をマッシュへぶち込めばよいのです!!

酸っぱい液体とは?
・レモン汁?
・ビネガー?

それらを入れるという手段も考えられますが、ウイスキーづくりではもっと身近に、簡単に、そして安く(というか本来は廃棄物)、手に入れられる「酸っぱい液体」があるのです!


■発酵で液体は酸性化する!

酵母による発酵によって、「糖分」を「アルコール&二酸化炭素」をつくると、液体のpH値は徐々に低下し、酸性化します。

それは、いくつか理由がありますが、一番の原因は

発酵工程で乳酸酢酸などの
「色々な酸」が生み出される

からです。

例えば、ウイスキーをつくる際、蒸溜する前のビール状のもの=モロミ(※3)は、pH 4前後です。

※3 「モロミ」の表現方法
《ジャパニーズ》モロミ=醪
《スコッチ》  ウォッシュ=wash
《アメリカン》 ビア=beer

そして蒸溜後もこの酸性は維持される上、樽熟成においても有機酸は増加するため、ウイスキー製品自体も酸性となります。

酸度が高い商品では、pH 3程度にもなるそうです!(※4)
※4 ウイスキーコニサー資格認定試験教本2018上 P43


■《バーボン》マッシュを酸性化させるものの正体

引っ張りましたが、答えです。

アルカリ性の仕込み水「ライムストーンウォーター」を使っているバーボンの糖化工程では、何を使ってマッシュを酸性化させているのか?

マッシュの「仕込み水」がアルカリ性だと、糖化酵素がバリバリと活躍しないよ!
 ↓
じゃあ、マッシュを酸性へと酸っぱくすれば良いじゃん!
 ↓
酸っぱい液体をマッシュへぶっ込もう!

で、入れるものは

蒸溜残液です!!

バーボンは「ビアスチル」という連続式蒸溜機で蒸溜してからの、「ダブラー(orサンパー)」という連続式蒸溜機でさらに蒸溜する『連続式蒸溜機の二刀流』で、原酒をつくります。

具体的には、このビアスチルで蒸溜をおこなってアルコールを取り出した後に、スチルの底にたまって残っている

アルコール分の抜けた残液

を使います。

これは蒸溜所にもよりますが、pH値 3.5~4.5のかなり酸度の高い液体です。

このかなり酸っぱい液体を、マッシュにぶっ込むことで、アルカリ性のマッシュを酸性化して、糖化酵素がイキイキと働ける環境を整えているのです!


■この方法のことを・・・

サワーマッシュ製法(すっぱいマッシュ製法)といいます。

硬水&アルカリ性の仕込み水「ライムストーンウォーター」を使用しているバートン業界独特の製法です。

ちなみに、ケンタッキー州の南隣り・テネシー州のテネシーウイスキーや、東隣り・ヴィージニア州でも同じく「サワーマッシュ製法」を用いています!


■次回は

サワーマッシュ製法について、詳細をマニアックに解説します。

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