見出し画像

なべとびすこさんの歌集『ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる』

iPhoneのOS更新をしたらなぜか、全く見知らぬ方から届いた待ち合わせに関しての未読メールが発掘された。
誰かに対して不義理をしたのだろうかとものすごく焦っていたけれど、その時期、誰かと会う約束などした覚えもない。そもそも、そのメールが届いた時期は、1人で出掛ける・誰かと会うことに対して異様な警戒心があったからだ。
それを発掘したと同じ時期に、なべとびすこさんから「個人冊子を作るので、ど素人の会の初期のメンバーで歌会をしませんか?」というダイレクトメッセージが届きました。
おぉ、お懐かしい。というか絶対楽しい。ハイパーマルチメディアタンカラー・なべさんのすることは楽しい、ということで、二つ返事で「行きます」と返事をした。

そんなこんなで楽しい歌会と、1年ぶりにお会いするなべさんとかつらいすさん、それ以上にお会いしていなかった有櫛さんとの歌会レポートが載っております、なべとびすこさんの歌集『ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる』。
ざっくりざくざく読みましたので、感想を。

『ふるさとと呼ぶには騒がしすぎる』通販はこちら↓
https://nabelab00.thebase.in/

なべとびすこさんのツイッター
@nabelab00

全体的に生きていることへの息詰まり(行き詰まり)の感じを読み取りながら読んでいました。
「ふるさと」故郷、生まれた土地、そしてなぜかイメージされる田舎。
しかしなべさんの「ふるさと」というのは、埋め立てられた土地で、工場があり、という所でまだ街を形成した場所なんだ、都会とまだほど近い場所にあるんだな。という感想。

工場の夜景をわざわざ見に来てる人は綺麗なとこからきたの

そういえば流行ったな、工場の夜景が綺麗と見に行く趣味。そんな人たちを冷めた目で見ている。
外部から来た人たちには美しい・珍しい風景だけれども、そこに根を張っている人には当たり前の光景だし、なんなら「夜勤の工場音すごいな」とかいろいろ思う所もあるでしょう。
そんな風景を「美しい」とする外部の人たちは、そこで生活している人たちにとって、都会(ないし「あこがれの場所」)から来た人たちだ。互いが互いの内情の事など知ったこっちゃない。
内側に居る人たちと、外部の人との温度差がものすごい好きな歌です。

埋め立てて作られた町かつて海だったと知らず猫も雀も

ど素人ageinで「めっちゃ掘り下げます」って言いましたけど、掘り下げません(笑)
いつかめっちゃ掘り下げます。

配られた人から後ろに回しなさい希望は必ず分かち合うこと

「ペットボトルジェネレーション」という言葉を見るとき、思うとき、必ずなべさんの目を思いだす。
個性を伸ばす、順位は付けない……などの「ゆとり教育」まっただ中にいらっしゃったなべさんの疑問や乾いた視線がうかがえる。
週休二日になったこと、円周率が3になったことなど、一体、なんのためだったのだろうか。また、個性とは、なんだろうか。多分、施行した人も、そのまっただ中で生活した人も、答えを出せないまま生活を続けている。

頼りない安全バーを握りしめずっと夢中なフリをしている

そういえば、USJ吟行をなさっていたな……行きたかった……などと思いつつ。
USJ吟行や、覆面短歌会(全員お面を付けて歌会をする) など面白おかしい企画をなさるなべさん。それでも視点は少し乾いている。面白い方の視点は、どこか冷静だ。
冷静だからこそ、面白いことが考えつくのかもしれません。
そして、私たちは生きている間、ぎりぎりのラインの場所を歩きながら、踏み外さないように生きている。時々、仮想のスリルを味わって、生きていることに夢中になりながら、麻痺を与えながら生きている。
魔法が解けてしまえば、おしまいだ。

また、短歌だけでなく、音楽コンテンツ(ラップ!)や即興小説の方とのコラボ、宇野なずきさんとの返歌など、なべさんのこれまでの集大成がぎゅぎゅっと詰まった楽しい歌集になっております。

音楽コンテンツでお名前が挙がっている九条しょーこちゃんは、なべさんの「普通の歌会」で出会いました。可愛い可愛い妹のような存在です。
また、宇野さんとも「普通の歌会」でお会いしましたが、「短歌チョップ2」でお会いした時に、宇野さんのお隣に居た木曜何某さんに「木曜さん、木曜、雨さんですよ」と紹介してくださったり、「うたつかい」でぎりぎりセーフ(笑)な恋歌をご一緒させていただいたりしました。

お会いしたのは、夏の、暑い暑い日でした。座敷で、8人ほどの見知らぬ人が集まっていました。もう警戒心ばっしばしで、正座をしていたように思います。
そこで出会った人の半分は、きっともうお会いすることはないのかもしれません。
ですが、かつらいすさん、有櫛さん、そしてなべさんとは長らくやりとりが続いています。
未だに、私は私自身の事を、あまり話せておりません(笑)
いやぁ、当時はひどかった(笑)
最近やっと、少しずつ、話せる環境が戻ってきました。
そして私はその当時、絵を描くことも隠していましたし、「文車」という苗字もありませんでした。また、ツイッターで短歌を発表するということも、ほとんど考えていなかったので、思えば遠くに来たものです。

なべさんの「短歌ど素人の会」でお会いした方々と、お名前を連ねる機会があるとは、それこそ参加した時には思いもしなかったことです。
大変良い機会に恵まれました。改めて有り難うございました。

最後に、なぜメールの話をしたかというと、そのメールの受信日が、二回目くらいの「短歌ど素人の会」の時期だったように記憶しているからです。
結局、メールの主は分からないまま。