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『深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ』ニーチェの意味と若き日の思い出



“怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。” ニーチェ『善悪の彼岸』


ごきげんよう。
摩詠子よ。

この話は何年も前から書こうとしては、思い留まって止めていた、ちょっとエッチナ秘密の話よ。

私がおでこ広めな垂れ目のHカップのあどけない気の弱そうな童顔女子大生だった頃の話よ。

その昔『裕木奈江』っていうアイドルが居てね、当時の摩詠子は、そのアイドルによく似てるって言われたわ、

ただ当時の私はそのアイドルさんよりも、もっと真面目そうで気が弱そうな感じね。だから、若い頃の裕木奈江8:黒田清子2で、さらにそこに瓶底眼鏡三つ編みとド巨乳ってイメージで、若い頃の私を想像してね。

想像できたかしら?

ここに奈江チャンの動画貼っておくから良く見てしっかり『若き日のかわゆい摩詠子』を脳内にイメージしてから読み進みなさいね!


当時の私は、かなり腐っていたわ。

就職難とか、教授との人間関係とか、うっすらしたいじめとか、細々した事がボディーブローのように効いて、生命力が弱っていたの。

しかもそういう不愉快な諸問題にはどれも、
絶妙に細かなミソジニー的な意地悪の揉めごとが絡んでいて、

『自分の努力が足りない、能力が足りない』のか『理不尽な意地悪を受けている』のかを判別できないまま、いいように言いくるめられて、変な落とし穴に落とされているような、それでいて怒った時も怒る矛先を誰かに操作されて本当の敵ではない見当はずれな場所を叩かされているような嫌な感じ。

解るかしら、この若い女性に降りかかる、特有のモヤモヤした社会疎外感みたいなの。

で。

そんなある日の夜おそく、
私は、
霧雨が降る、
街灯も少なくて非常に暗い
だだっ広い大学の構内の石畳の遊歩道を、
安い透明のビニール傘を差しながら、
しょんぼり、とぼとぼと歩いていたのよ…。

夜の23時すぎだったかしら。

大学の構内にはもう誰も居なくて、たまに自転車で人が通り過ぎるか過ぎないか、って程度。

私は霧雨の中で、人生の不安に押しつぶされて、ついに、悲しい気持ちが迫ってきて…ひっそりとしくしく泣いていたわ…。

すると、しくしく泣く私の目の前に、唐突に、


コート全裸男が現れたのだわ。


不意に物陰からこっちに駆け寄ってきて、コートをカパー!カパー!と音を立てて拡げながら私の進路を塞ぐわけよ。

若い頃の裕木奈江そっくりの可憐な私はもうおどろきと恐怖で

『ドゥリャァアウア!!!!』

みたいな野太い大声をあげてしまったの。

え?なんで若い女性の癖に「キャーーッ!」て言わなかったのかって?あのね、小学校低学年くらいの頃にね、自分がびっくりすると「キャーーッ!」て可愛い悲鳴をあげてしまうのがなんかぶりっ子してるみたいで恥ずかしいナ、って思って「キャーーッ!」て高い声を挙げないように日々自粛&訓練してたらネ、

ついに、どんなに驚いても『驚いたおっさんのうめき声』みたいな声しか出なくなっちゃったのよ。
本来は地声はかなり高いんだけどねーー。

そんで、そのコート全裸男は、私のおっさんくさい悲鳴を聞いて怯んで数歩後ずさったわ。

その時ネ、私、

唐突に猛烈にムカムカ腹が立ってきたの。

(いや今は色んな意味で男性には感謝してるのですけども)

その当時は、就職、大学、教授、先輩…人生の所々でミソジニーっぽいこまごまとした嫌な意地悪に遭い続けていたのよ、

そこに来て、ダメ押しにこの痴漢でしょう?

だから、私が当時までに受けた人生20年分の理不尽なその手の恨みのすべてが凝縮して…

…目の前のコートパカパカ全裸男に一点集中で注がれてしまって…

(この全裸コート男めぇッ!!!色んな人にいじめられてメソメソ泣いてるこんな弱そうで可哀想な私に向かって、ダメ押しに痴漢までしよる気か!!!)

(なにがなんでもこいつを成敗してくれるッ!)

って思っちゃったのよ。

そして見るとね、そのコート男、女性平均身長の私よりも、更に数センチは小柄なくらいで、しかも妙にほっそりした生っ白い貧弱な体格。

もちろん、私は体育は常に2の、運動音痴のへなちょこ文学少女よ。

でも相手は全裸でコート。

私の手には割と頑丈な金属の骨の入ったビニール傘がある…。
当時の20年前のビニール傘ってね、今のと違って、もっと金属が重くてぶっとくてズッシリしてたんよ…

靴はヒールではなく、スニーカー履いてる…。

そりゃ、男性と女性だから、プロレスとか殴り合いなら、確実に筋力では負けると思うわ。

でも、私がもう、こっちは人生を捨ててもいい、残りは一生刑務所で構わねえ、最終的に負けても、相手のダメージよりも私のダメージの方が大きくてもどうでも構わない、失明しようがレイ○されようが知ったことか。

だが!今日ここで私に痴漢した事だけは一生後悔するほどの目にだけは確実に遭わせてやろうじゃねえか!!この金属のズッシリ重い傘で貴様をメッタ刺しにして穴ぼこだらけに抉り抜いてやるーーーッ!!


って気持ちが湧いてきて、(いや実際は何もしなかったしいやいや当時もえーとその本気でどうかするつもりではなかった、タブン、って事でその、時効だし許してw)

私は瞬間的に傘をバサっと閉じて、その傘を槍のように構えて、ボーゼンとしている全裸男に向かって、

『ドゥリャァアアアアアアアアア!!!!』


と叫びながら真っ直ぐに特攻していったのだわ。
(いや、威嚇ですって)

するとコート全裸変態男は、気の弱そうな私のあまりの剣幕ぶりに、虚をつかれ、

今度はコート男が私から走ってにげだした!

私はそれでも全速力で『ドゥリャァアアアアア!!!』と追いかけた!!

コート男、パタパタパタパタってコート閃かせながら割と高速で逃げていった!!

予想外にかなり足が速かったワ!!

なかなかやるわね!!

でも。

私と男の距離がかなり開いた時に、私、思ったの。

私がそうやって反撃したのは、まあ世界に虐められ続けて心が弱り切っていて完全にやけくそな気分だったからなんだけど、そしてもちろん、コート全裸男も相手を怖がらせようとコート全裸するとか倫理的にダメよね?とは思うんだけど、でも、

もしも、相手が明らかにマッチョな大男だったり武器を携帯していたりしたら、私はあの時、逃げたか被害に遭っただけと思うんだよね。

私は瞬時に『本気出せば…!こっちも相打ち上等のつもりで死ぬ気で掛かれば…私でもコイツを○6せる!』とせこい計算したからこそ刃向かったんだよね。

それってさぁ、なんか、ダサくない?

だって、私が当時ムカついたり反発していたセクハラっぽい虐めとかミソジニーっぽい悪意ってのがまさに

自分の持っている強い立場とかお金、とか、暴力行使力とかを悪用して不当に相手からナニカを盗み取りそれを相手に納得させて言いくるめてやろう、みたいな何かであり、そういうものに対して、私は当時すごくムカついていたのよね、

なのに、自分よりも貧弱かもしれないくらいの肉体の人間を…それがただ『男』で『痴漢』のジャンルであるからって理屈で傘でメッタ刺しにして八つ当たりして『自分をいじめたナニカ』へ仕返しをしたつもりになるだなんて

それは、勝利ではなく弱いものいじめだよね、ただ私自身が『私を虐めてきたミソジニー的なナニカの一員へと堕ちる』だけの事なんじゃないかって…

おそらく、全裸コート男は私をレイ○しようとかそこまでの性加害するつもりなんか全くなくて、

そもそも暗闇の中でTINKOを見せて私に怖がって貰って逃げ回って貰って欲しかっただけだろうし

しかもアドレナリン上がって激昂した私に全く効いてない

そんで私、ニーチェの

怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。

ニーチェ『善悪の彼岸』

みたいな気持ちになって、

つまり。

その日私は


ハラスメントの被害者から→潜在的加害者?へと精神的に転換?した事でなにか不思議な哲学的な気持ちになったのだわ。


コート変態男という『加害者』の物理的な『弱さ』にふと気づいた事によって、

実は私の人生って一方的な被害者人生などではなかったのかもしれない…そうではなく…自分の弱さの中にある強さとか、強さの中にある弱さとか、色々なものに気づいて、うまく言えないんだけど、

ああ、今までの人生で、私を、虐めようとしたり、セクハラしようとしたり、してきたあの人達は私よりも弱い人達だったのかもしれないな、彼らは弱いから私を虐めようとしたんだな、事によると私がとても怖かったのかもしれないな。

え?こんな私が?こんな可憐なタレ目の運動音痴の弱っちそうな裕木奈江みたいな私が?怖いの?まさか?だが待てよむしろ弱そうな可愛い女性に侮辱されたらショックすぎて死ぬみたいなケースもあるかもな。可愛い感じの女に勉強で負けるのをものすごい屈辱と解釈してしまうもあるかもしれない。

私の悪気も何もないどーでもいい言葉に自意識過剰にドチャクソ傷ついてハリネズミのようになって私に意地悪してたのかもしれないなあの先輩は?まさかあの教授も?

そもそも男って…そもそも男って、私が想定してたよりも、え?え?え?繊細な生き物なの?

って。

まさか…男って割と、傷つくんだ?

女って精神的には割と自己完結でひとりで生きていけるから想像も出来なかったけど…

男って、命を捨てても構わないレベルに他者からの評価を求めていて…褒めてもらえないと、恥をかくと、心が死ぬんだ!寂しいと死ぬウサギちゃんみたいな繊細な生命体かもしれない!!!

は?えっ!まさか…!だが!!!だが!!!

そうだとしたらいろいろな理不尽で意味不明だったいろいろな事柄の辻褄が突然合うぞ!

みたいな哲学的なコペルニクス的転回な啓示を真っ暗な天から得たような気がした。


そして私は私に失礼な事をわざとのように言う一部の教授とか一部の先輩の顔を思い出し、

その時の彼らの顔に、

私への畏怖、
いや、

女への畏怖、
いや!

己を裁定する残酷な世界への根源的な畏怖

のようなものがある事に気づいた。

そうか…。彼らは…怖かったのか…。

この私が…いや、

この私という姿を借りて現れ出た

混沌たるこの世界の裁定が!


この私ごときが!ある一瞬、天になり代わって、彼等にとっての世界として彼等に裁定を伝えし者となり、彼らに『お前には生きていていい価値があるのだ、だから生きていていいのだぞ、大丈夫だよ』もしくは『お前は世界には不要、4ね』のどちらかの啓示を与える審判者の役すら与えられているのかもしれない…

何のこっちゃ!何のこっちゃ!

だが!多くの男たちは世界のどこからも評価を得られねば存在してはならぬと感じている。誰かのためにお役に立てねば存在してはならぬとすら感じている。ただ存在しているだけでは生きることすら許されぬという感覚に日々苦しめられて生きている不幸な生き物、それが男なのだと…だから身近な女性の気の利かないひと言にちびるほど傷ついてしまったりその女性に勝つとか負けるとかに異常にこだわってしまったり…

だから現実にも中年男性の自殺率は高いのだと…

そういう悲壮なバイブスをビリビリと感じた訳よ、男なる存在に…

いやまああんたら落ち着きなはれ、そうやって悲壮に思い込まないで私みたいに別に誰の役に立たなくても何も気にせずに明るく人生楽しんだらどうでっか、とは思うのだが…

それと、ややADHDかつややアスペなので心にもない嘘を吐くことが生来的に不可能なため、どんなに立場上偉い相手にも褒める筋合いのない相手には無理しておべっか言う気にはやっぱり全くならなかったので

…その後も依然として社会に全く適合しないまま生きているが…

…ちなみに『男への歯が浮くようなインチョキおべっか』を並べるのは嘘がつけない発達障害であるため生理的に無理だが、

その後コミュ障を治そうと20年ほど努力した結果、『東北のおばあちゃんが近所のこどもを褒め』たり『東北のおばあちゃんが晴れてサラリーマンになった元近所の悪ガキを褒め称える』みたいな、

真実と人類愛に基づいた素朴なホメ行為ならばその後ほんの僅かにできるようになったので心の綺麗な同僚の男性とか夫などの親切を褒めることならばごくごく稀にはできるようになったので

摩詠子は今もまだギリギリ投獄も火あぶりもされずにシャバにいる。

とにかく、その時、私はなぜか「私のようなモブの言葉ごときに、ある種の人々を絶望や幸福に突き落としかねない結構なパワーが籠っている」ことに突然気づいたのだった…

へ、へぇ…そ、そうなんだ…

う、うん…自分でも自分で何を言ってるんだかわからんけども…

えーと…そっか…こっちが…むしろ…加害者…世界は…多面的だった…私が思っていたよりもずっと…

こ、これからは心無い言葉でいたずらに男性を苦しめぬよう、言動に気をつけてやらねば…

みたいな謎の悟りに到達して、

そして私は、全裸コート男がほとんど見えなくなった時に、立ち止まって

天の虚空を見上げ

真っ暗な宇宙から

降り注ぐうっすらと白く光る頼りない無数の霧雨が神からの僥倖の如く降ってくるのを頬に、眼球に、ひとしきり感じた後、

逆手に持っていたズッシリ重い傘をパカっと開いて、
トコトコ歩いてアパートに帰ったのであった。


マヨコンヌの理知的★読書感想文









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