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Gruen Curvex 330ムーブメントの組み立て

balance wheel(天輪)をつつくとちょっとだけ弱々しく動いてすぐに止まる不動品のGruen Precision Curvex 330ムーブメント。 分解し、main springが切断していること、埃や汚れの付着が多いこと、4th wheelのmain plate側hole jewel(四番車地板側穴石)に若干の欠けがあることなどが判明。こんなこともあろうかと、ebayで購入していたスイス製after market品の互換main springは手元にある。振りが弱々しく短時間なのはmain spring交換で治るのか、balanceのamplitude(振り角)が取れなかったら欠けていた穴石を交換するしかないのか、緊迫の組み立て編のはじまり。

前編での分解後、バラした部品は基本ベンジンに浸けて15分ほど超音波洗浄にかけている。balance completeは余程のことがなければバラさない。超音波洗浄、本当はベンジンはよくない、使うのなら後できちんと洗浄なりトリートメントなりしないと、という話もあるのだけど、それをやって錆が浮かなかった試しがないのでだいたいベンジンだけ。balance completeとescape lever以外にはアルコール併用することもあり。

まずは切れていたmain springを、Samsonというスイスのアフターマーケット部品メーカーのNOS品に交換する。はじめからbarrel径に合わせて巻いてあって、簡単にスライドインできるspringパーツ製品もあるけれど、このSamsonのは自分で巻き入れないといけない。

上:outer endが切れていたoriginalのspring
下:Samson製の汎用互換spring
originalのspringはだいぶ変形してパワーも落ちてしまっていそうな感じ。Samson製はパワーがありそうだ。

外周から巻き入れていく、あと少し。spring巻き入れ機があると楽なんだけど、これはこれで楽しい作業。手作業は、指の脂がバネに付いてどうこう、という話はあるけどいいの。
ちょっとでも油断して気を抜くとビヨーンとなって振り出しに戻る。いつもだいたい2〜3回は振り出しに戻ってしまう。

巻き入れ完了。次はspring barrel arborの取り付け。arbor外周部の突起をspringのinner endの穴に引っ掛けて入れるわけだけど、ルーペ必須だし下手するとビヨーンとなってしまうし、時計の組み立ての中でもちょっと苦手で時間がかかる作業。

なんとかarborの取り付け完了。

spring barrelの蓋を爪で押し込んで閉める。ちゃんと嵌まればだいたいパチッと音がする。

main plateへの部品の取り付けを始める。たいていのムーブメントでは輪列を組んでからでもescape lever (pallet fork) のbridgeが取り付けられるように設計されている。写真で、bridge取り付けネジがムーブメント外縁寄りの1個だけなのがそういった考慮の証左。escape leverなしで輪列を組めば、輪列のスムースな回転の確認、いわゆるザラ廻し、ができる。
適当なジグがあればその手順がもちろんいいのだけど、escape leverはpivotも細いし、軸を垂直に保ってbridgeを載せるのが結構高難度なので、僕の場合は最初にescape leverを取り付けてしまうことが多い。特にこの330は、escape leverの軸が普通より長いし、ここは無理せずescape leverの確実な取り付け優先で。
上の写真のように無事にbridgeが付いたのだけど、よく見てみればネジがおかしい。ネジ頭が小さ過ぎる。外した時にもこのネジには違和感を感じたのだが、ネジ径もちょっと細い気がする。以前の修理で誰かがネジ飛ばして適当なのを流用したか?

330のドナーはないけれど、Gruen社のほぼ同時期の、同じPrecision工場製のはずの Veri-Thin 405のガラはある。405のネジから良さそうなのを探して試してみる。行けそう。

そうそうこうでなければいけない。無事にescape leverとbridgeの取り付けが完了。ここは自信がない作業なので、20倍の顕微鏡でhole stoneの穴を通してpivot先端を見つけながらbridge載せを行っている。
escape leverのpivot/bearingに注油するかどうか、は、腕時計では注油しない派が多いみたい。僕も注油はしていない。

次はescape wheel(ガンギ車)のbridge。いろいろ窮屈なCurvex 330は各
wheelやbridgeの上下関係が普通と違い、escape wheel bridgeを付ける前にspring barrel含めたwheel trainをmain plateにはめて置かないといけない。写真はspring barrel、3rd wheel、escape wheelを乗せたところ。
各pivotとhole bearingにはCitizenのオイル、AO-2またはAO-3を使っている。

center wheelと4th wheelを乗せる。一番上に見えている4th wheelはmain plateの穴石に欠けが見つかっていたやつ。

escape wheel bridgeを取り付け、cap jewelは最後に付ける。

wheel train bridge(二番三番四番の受け)を付けたところ。escape lever(アンクル)を付けていなければここで輪列をくるくる回すザラ回しができて楽しい。替わりに、spring barrelをちょんちょんと突いてescape wheelまで動きがきちんと伝わっていることを確認。

最後のspring barrel bridgeを載せる前にbarrel arborにratchet wheelを嵌める。多くの腕時計ムーブメントではratchet wheelはbarrel bridgeの上に来るのでこの手順は逆。

bridgeについているclickを押しながらspring barrel bridgeを乗せる。このbridgeを乗せる前に、barrel arborの受けのbearingや、keyless workのwinding pinionやsliding pinionにはグリスを塗っている。

すべてのbridgeが付いたので、後回しにしていた3個のcap jewelsを付けていく。上の動画はescape wheel用のbridge側cap jewelに注油しているところ。

escape wheel bridgeのcap jewel取り付け。

base plate側の透明サファイヤの2つのcap jewels(escape wheel用とbalance用)にも注油をして取り付ける。

base plateに2つのcap jewelsを取り付け。付けてしまうと透明であることはすぐには分からない。この取り付けネジはとても細くて短くて、斜めに入ってしまうことがあるので注意注意。

この330にある4個のcap jewelsのうち、balanceのbridge側cap jewelはバラしていない。動画で見える2つのネジを外せばcap jewel他がポロポロ取れてきれいに清掃できるけど、面倒くさく、僕のスキルではhairspringを傷めてしまうリスクを無視できない。
バラさない場合、hole jewelとcap jewelの間にゴミが残っていないのを確認の上、動画のようにhole jewel側からoilを垂らしてごまかす。automatic oilerという専用工具があれば確実にcap jewelとのgapにオイルを入れられるらしいけど、ま、いいや。

他のhole jewel bearingにも一通りoilを差し、main springを巻き、escape leverを突いて動きを確認。ちゃんとパワーが伝わってきている、OK。

balance complete(テンプ)の取り付けは時計組み立て作業のハイライト。一見ちゃんと振れているように見えたけれど、スローモーションで確認したところbalance amplitude(振り角)が220度くらいでちょっと弱い。できれば270度くらい欲しいところ。あ、そうだ、ひとつ作業を忘れてしまっていた。

忘れていた作業はescape lever(アンクル)のpallet stones(爪石)への注油。この注油は分解しない範囲のメンテナンスにも含まれる作業でもあり、テンプを外さなくても可能。テンプをつけたままロディコでbalance wheelは止めておく。

中央付近、注油用の穴の奥にexit stoneの先端が見える。この先端の平面部にちょっと注油し、balanceを少し回して位相をずらしてentry stoneにも注油。

pallet stonesへの注油後の様子、balance amplitudeは300度近い。pallet stonesへの注油の効果もあるだろうけど、全体に馴染んできたこともあるか。

さあもう一息。dial(文字盤)取り付けの前に、base plateのdial sideに、cannon pinion、hour wheel、hour wheel washer、を付ける。

dialを乗せる。dial背面の2本のボスを、base plate側面から2つのネジで締めて留める。

hands(針)はメッキが少し腐食。

本当は地金を出して磨いてメッキ工房したいところだけど、今回はこれで磨いてごまかす。

handsの取り付け完了。hour wheelとhour handが初顔合わせだったのですこし苦労した。Curvexの湾曲に対応して曲げられた分針がかっこいい。

ほとんど錫のようなハンダで補修して磨いたケースに、crystal(風防)を接着剤を少し付けて装着する。caseのstyle numberは293。

完成!
4th wheelのbase plate側bearing jewelの欠けが気になるけれど、様子見ながら使ってみましょう。

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