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コカ・コーラ、人間宣言をする──「コカ・コーラ エナジー」評(前編)

■はじめに

〈後編を公開しました。合わせてご覧ください〉

私はただのコーラ好きです。平日には大体1日に500mlペットボトルを2本は飲む、雑誌の編集者です。
その摂取量を(多少の変動こそあれ)高校1年くらいから継続しているので、これまでに飲んだコーラの量は、若干少なめに見積もっても3トンくらいになるはずです...。

さて、表題の「コカ・コーラ  エナジー」は、2019年7月1日に発売されたコカ・コーラの新製品です。

飲んでみて、何か書かずにはいられなくなり、雑然とレビューを書いたら、関係筋に「コーラが好きすぎて、普通に頭がおかしくなっている(大意)」と言われたのでnoteデビューします。定期的に炭酸飲料評を書く所存です。

■2017年の「コカ・コーラ展開予測」を振り返る

まず、2017年の末ごろに私が出した「コカ・コーラの今後の展開予測」に話を遡らせたいと思います。
恐縮ですが、これはマジで私が勝手に作成しただけの展開予測です。
(◎:確実性が高い ○:まああるかもしれんね △:あんまりなさそう)

コカ・コーラ  クールメンソール
...敢えて冬に清涼感を増強する系。季節限定商品として。
コカ・コーラ  ゆず
...ライム、レモンときて日本発の柑橘系フレーバーとして。
コカ・コーラ  マスカット
...あんまりうまくなさそう。
◎ (本命)コカ・コーラ  エナジー
...エナジードリンク味。リポDをコーラで割って飲む方法あり。
コカ・コーラ  ダブル
...味が濃い。
コカ・コーラ  ウォーター
...透明なコーラ。会議中に飲めるコーラ。
◎ (本命)コカ・コーラ  クラシック
...1960年代のレシピ。壮年層の再度の取り込みを狙う。

結果的に、

1)日本独自フレーバー →「コカ・コーラ  ピーチ」発売(2018年)
2)透明なコーラ →「コカ・コーラ  クリア」
発売(2018年)
3)
コカ・コーラ  エナジー →「コカ・コーラ  エナジー」発売(2019年)

...と、2年の間に、2的中1カスリ、「コカ・コーラ  エナジー」に関しては、ガチで大当てしてしまったんですね。
しかし、これは別にヒネリの効いた予想をし、大穴をブチ当てたわけではなく、日々コンビニの炭酸飲料棚を見ていれば、誰にでも見える「動向」をコカ・コーラに落とし込んだだけのこと。この辺の話をしたいと思います。
「コカ・コーラ  クリア」に関しては全くの別ロジック上に存在しているものなので、今後、改めて別のエントリを作成して考察していきたい。)
※ なお、ここで登場する「コカ・コーラ社」というのは、基本的に「日本の」コカ・コーラ社である、ということをご承知ください。

■平成はファンタの時代だった

これまで、コカ・コーラ社の炭酸飲料のうち、多種フレーバーを展開し、シーズンに彩りを与えてきたのはファンタでした。
(え〜違うだろ〜と思われる方もいるかもしれませんが...「まあそうかもな〜」程度に思って続きを読んでいただきたいところです)

ここに改めて、平成はファンタの時代だった、と断言します。

この時代を代表するのが「ファンタ先生」シリーズ。
2002〜04年までの間に6タイトルもの新味が発売。おまけに、どれも記憶する限りまあまあ美味かった、というのは、もう、なんか奇跡としか言いようがない。

■バリエーションのファンタと保守のコカ・コーラ

さて、ファンタは、フレーバーのバリエーション(オレンジ味であること、グレープ味であること、など)が購入要因となる飲料です。一方、それに対して、コカ・コーラは、「コカ・コーラであること」が購入の理由となるという点で、2製品には大きな違いがある。

コカ・コーラに関しては、チェリー、バニラ、レモンといった高品位フレーバーの散発的発売があったものの(「ジンジャー」という謎迷走もあったとはいえ)、
長期的に見れば、コンビニの炭酸飲料棚で、赤と黒のボトルの占有空間を頑なに守り続けてきた、そういう製品なのです。近現代の帝国主義/資本主義/戦後民主主義/グローバリゼーションにおいて、あらゆるものが爆速で生存圏を拡張していく中、そのコアたるアメリカを代表するブランドでありながら、コンビニ棚の中での立ち位置は極めて非拡張的だったというのがミソです。

そう、コカ・コーラ社の各製品に与えられたそれぞれの役割
例1)ファンタ:バリエーションメーカー
例2)カナダドライ・ジンジャーエール:アダルト向け
の中、コカ・コーラが担っていたポジションとは、建国の父、すなわち精神的支柱であり、変化することが許されない、揺るぎない存在だったのです。

■ペプシ凋落とニュー・コーク騒動以降のレジーム

さて、このコカ・コーラの超保守的な施策、今となっては超絶評価せざるを得なくなってしまった。思い出していただきたい。コカ・コーラと双璧を成すと考えられていたペプシコーラが、(あくまで日本での展開に関して)

①節操のないフレーバー展開を繰り返し(2009〜12年頃に顕著)、
②結果、完璧にアイデンティティを喪失し、
③なぜか「日本独自のフレーバー」という需要不明な右傾化を遂げ、
④果てには「600mlボトルである」という量り売りに商品価値を見出す。

という、見事な迷走・下俗化を完遂したことを。さらば過去の栄光...。
私はこれを完全にサントリーフーズの責任であると踏んでいますが、何か反駁がある方はぜひご意見をいただきたいと思います。


...一方、80年代のニュー・コーク騒動の教訓から生まれたと想像できる質実剛健なコカ・コーラのフレーバー開発は尊崇に値するものです。

ニュー・コーク騒動(1985年)
...従来からのコカ・コーラを廃止し、完全に味変リニューアルしたら、それまでの購買者から死ぬほどぶっ叩かれた上に、売り上げをペプシに抜かれたという手痛すぎる出来事。買い支えしてくれてきたユーザは大事にしないとダメだね、というできすぎた話。​

結果、今日では、
「コカコーラを飲みたい」という特定の製品欲求は、「炭酸飲料を飲みたい」「水を飲みたい」「茶を飲みたい」というカテゴリ欲求に並ぶものとなっているわけですね。

しかし、逆に言えば「コーラを飲みたい」という欲求においてのみ発生するコーラの購買。セールス上、圧倒的な頭打ち感がある、という問題がありますね。
おまけに、コンビニの棚保有とは、どれだけの幅を占拠できるか、というブランド陣取りゲーム。いわばGRPをどれだけ稼げるか、という点に関しては、コカコーラの赤・黒のみの展開は圧倒的に不利になってしまうわけです。

(GRPの解説は下記がわかりやすい。私は「『どれだけ目に触れるか』はそのまま購買機会のポイントに繋がる」という雑なニュアンスで用いているのでご承知ください。)


■2018年コカ・コーラの体制変革と「ピーチ」

...こうした状況の中、2018年1月1日、日本におけるコカ・コーラの製造・販売における大革命がありました。

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・コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスの設置
・コカ・コーラボトラーズジャパンへの全国の「ボトラー」統合
という、1都2府35県の製造・販売体制の抜本的再編です。

日本各地に設けられた「ボトラー」は、各管轄区内の製造流通を担う組織。これがひとつの組織に統合され、中枢に位置する製品企画側との直結体制ができたよ〜ということ。

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ピーチ」発売は、その統合=オールジャパン体制の構築を華々しくアピールするものだったと分析できます。組織の縦割りを排したので、中央が企画する新製品を全国規模でクイック生産できるようになったよ〜、というアピールですね。

これに加えて「ピーチ」が担っていたであろう最も重要な役割...

それは、
「これからは、コカ・コーラもフレーバー展開をしていきますよ〜」
という「聖→俗なるもの」への思想転換表明であるはずだと私は思います。

■「コカ・コーラの人間宣言」と新たなる戦後へ

それまで、コカ・コーラは、「これ以上、手を加えることも憚れる、完成された炭酸飲料」というイコンであることが求められてきました。
「聖→俗なるもの」への転換とは、「これからは変化を恐れず、他の炭酸飲料同様『バリエーションを生み出す戦い』に出ざるを得なくなりました!」
という覚悟の表明であると。言うなれば、新体制日本の始まりとしての「天皇の人間宣言」

私は、これを「コカ・コーラの人間宣言」(2018年)と呼んでいます。

とはいえ、実際に飲んでみると「これって、ベースドリンクがコカ・コーラである必要そんなにあったか?」という程度にフレーバーが強く、白桃果汁の使用を訴える割には、ケミカルな味わいとなっていた。
「ジャンクドリンクはオーガニックに近づくほど薬みたいな味になる」
という「オーガニック死の登攀」と呼ばれる現象(命名:私)に完全に呑まれてしまっていたのが残念であった。

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...しかしながら、綾瀬はるかの肥沃な肉体と桃の組み合わせは、昨今の風営法規制強化の中、急増するカジュアル風俗を彷彿とさせるショッキングピンクのフルカバー・パッケージと相まり、遵法スレスレ狙いの限界に挑んだバランス感覚が評価されるべき、(ドンキホーテで1本77円で投げ売りされていた点も含めて、)よくも悪くも今っぽい製品なのでありました。

親世代の価値観をどう崩すかを考える、コカ・コーラのポストモダンは、平成の末期になって、ようやく始まったのであります。
次回、ようやく「コカ・コーラ  エナジー」登場です。(続く)

後編はこちら


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