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自由詩

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リーディングや投稿・寄稿で発表済の作品を掲載します。
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2020.04.26 #ワンバースチャレンジ

#ワンバースチャレンジ とは、2020年4月、Twitter上でレゲエシンガーたちから始まったムーブメント。新型コロナウイルスの流行拡大を受け、様々なライブやイベントが中止になる中、今の暮らしや思いを1バース分のリリックにしたためて、動画や音源として披露し合うもの。動画や音源をアップロードしたら次にチャレンジをしてほしい人を指名するというルールのもと、レゲエシンガーだけでなくラッパーや詩人などへと もっとみる

わたしは答えない with いとうせいこう is the poet

2019/07/13 LIVE DUB JAM Vol.2 with 胎動LABEL@下北沢ERA
いとうせいこう is the poet による演奏とダブ処理によって一回限りのリーディングを作り出す、一般公募オープンマイクでの即興セッションライブ。元テキストは、既出の拙作「わたしは答えない」ですが、その場で内容を大きく変更しています。
撮影:伊藤晋毅

──LIVE DUB JAM Vol.2
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独白Remix/廣川ちあき

東京の草花が一斉に死ぬときも
多分こんなふうな夏の夜だろう
重たい水を含んだ空気が
体から魂を引摺り出すような

等間隔で並ぶということに
なんの疑問も持たない人々
視線の先には愛よりもヘイトを
まき散らす宣伝文句ばかり

人間どうしで人間じゃなくしあう
やりかたをどこで覚えてきたのか
たった今プールから上がったばかりのような
瞳ですべてを見つけ直したい

自分がいつから生きていたのか
知らないく
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母に

母に

きょうも、すごくつまらない映画が少なくとも一本完成していて、
惑星が気ままに散歩して
無邪気なプロパガンダが女性ファッション誌を占領して
どこかの動物園でパンダが寝息を立てている。

離れて暮らすあなたが、
愛してやまないあなたが、
いつか死ぬことを考え始めてしまうと
いつも頭の奥が冷たく痺れるし、
氷の手で心臓を掴まれたような気分になる。
そんなときに限って一人で左向きに寝ている夜だ、
どこまで

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シネマ

シネマ

巨大なスタジアムを埋めた群衆の頭上をカメラが滑っていき
ふわりと浮き上がってステージにいるミュージシャンをとらえる
フレディー・マーキュリー、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコン
それぞれにそっくりな俳優たち
実際にあったライブを完全に再現した映像を見ながらふと考える
なぜわたしはフレディではなかったのかと

もちろん今のわたしであることにこれといった不満はない
むしろわたしは

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ターミナル

ターミナル

新しい場所で暮らし始めることは
わたしにとってきわめてめんどくさいことの一つだ
生活のこまごまとした手続きと
それらのいちいちについて回る感情を総動員して
新しい部屋のサイズや街の空気に合わせなきゃいけない
キッチンのシンクの深さとか
ガスコンロのダイヤルの力加減とか
物干し棹に吊るせるハンガーのぎりぎりの数だとかを
また覚えなくちゃいけないのかと思うと気が遠くなる

新しい場所で暮らし始めること

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ハクモクレン抒情

ハクモクレン抒情

むせかえるほどにのぼせそうなほどに
街灯にやたらまぶしく照らされた人波
その流れをさかのぼって歩みを早める
こんなときくらいは強いシャチのひれでも欲しい

人混みの中をすり抜ける耳は
浮き立った会話たちのハイライトを拾う
遠くの水音が通奏低音のように
途切れずに近づいてくる

雑踏から取り残された一角に
ほてった頬を冷ます風が吹いて見上げれば
月の光を透かしてふわふわと揺れる
ハクモクレンはまだ終

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花束

花束

僕たちはまだ互いに優しくなるやりかたを知らない
月曜朝8時13分発 特急京王線新宿行き 満員電車
脱毛サロンのモデルが口を半開きにしてこちらを見ている
誰かの舌打ちが聞こえる
サラリーマンの肩越しにライブ配信アプリの画面が見える

僕らは互いの心臓のありかさえ知ろうとしないのだ
夜道をこちらに向かってくる人の
左胸が白く発光していたのを覚えている
それは左胸のポケットに入れたスマートフォンの画面

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キッチンで物語を聞かせて

キッチンで物語を聞かせて。
逆立ちをして話を聞かせて。ケチャップもマヨネーズも、わさびのチューブも、みんなさかさまになってきみの話を待っている。

キッチンで物語を聞かせて。
頭をしめつける悩みをゆるめて。ジャムの瓶も佃煮の瓶も、お湯につければ蓋がやさしく開いてくれる。

ひかる
ひやす
みがく
みたす
きざむ
ひたす
にがす

ゆげのゆらりゆくえ

光るフォーク
冷やすミルク
みがくシンク

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鱗(2018 On-beat ver.)

瞳の表面で強い風を受け止める
透きとおるまで磨かれた大気に歩みを浸しながら
石畳に刻みつけるようにかかとをわざと高く打ち鳴らす
今日も身体は鼻先と耳の縁から冷えていくらしい

輪を描いてめぐるものは等しく時を刻み 
青空に高くそびえる時計台は
真昼間の学舎の円居の真中 
定まらぬ足取りは戸惑いの最中
人の名前は呼ぶほどに遠ざかり 
表情は思い出すほどに薄らぐ
またすぐにめぐってくるはずの
菜の花の

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わたしは答えない

わたしは答えない

わたしは答えない。
わたしの名前よりも先に学歴を尋ねる質問に。

わたしは答えない。
恋人がいなくてさびしくないのかという問いかけに。

わたしは答えない。
詩なんて役に立たないという台詞に。

その代わり、
ぱん、と破裂するような声で、
目の前のスネアドラムを触れずに鳴らすことだってできる。

だって、わたしから声が出るんじゃなくて
声のなかにわたしがいるから。
どこへ行っても怖くない。どこへ行

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空と海の停留所

空と海の停留所



梅干しの種を舌の上で転がしつづけても
新しい果肉は生まれてこないし、
見損ねた映画のちらしを裏に表にひっくり返しても
新しいすじ書きは現れてくれない。
まぶしい停留所で電車がごとんと止まって、
向かいの窓がぜんぶ青い空と海になる。
いつもの地下鉄の駅から駅の長い時間のうちに
夕暮れの空の色の移ろいを見逃していることを思い出す。
開け放たれたドアからとんぼがついと入ってきて、
飛んでいく軌道に水

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瞳 ――ミュシャ「スラヴ叙事詩」展覧会から――

あまりにおほきく 見ひらくから
ふたつのくろめが
ごろんと こぼれおちさうだ
おまへが さうして おびえてゐるのは
おまへを見つめる わたしではなく
とどろきちかづく ひづめの音
松明の はじける音
草原をこがす 煙のにほひだ

わたしは ほかでも
おまへと目があつたやうな気がしたのだ
雪もよひの 灰色の空の下
おほきな教会が けぶる広場で
ききなれぬ あたらしい
みことのりを聞かされながら
着ぶ

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たたんたたん、たたんたたん、と
窓枠を指のはらで優しくたたく音が
規則を外れてやがて消える
対向列車の通過を待つあいだ
黄色く濁った菜の花が泡立ちながら殖えて
土手から頭の中まで覆いつくす

かつて恋人にしたかった人の
首すじをつつむ想像上の鱗を
くちびるでいちまいいちまいはがす
時折、喉の奥で声がくるしく詰まるのは
うっかり身体の中に溜めてきた水に
自らおぼれているからだと思いつく

モーターの

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