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塔の魔導師 free

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「君には魔導師の才能がある。」 奴隷階級の少年リンは、旅の魔導師ユインからそう告げられる。 その日からリンの魔導師を目指す旅が始まった。リンはユインに連れられて魔導師の街グィンガ… もっと読む
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150話「ヴァネッサの反攻」

150話「ヴァネッサの反攻」

前回、第149話「スウィンリルの深層」

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「そろそろ頃合いだな」

 ドリアスはエルフの娘、フレジアを使ってリヴァイアサン(海神)の暴走を止めた。

 下階層に降りる準備をする。

「大丈夫ですかね。今降りて。僕達袋叩きにされるんじゃ……」

「大丈夫さ。下の連中は災害でそれどころじゃないだろうし。それに……」

「?」

「おそらくヴァネッサが上手いことやってるだろ」

 リンとド

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第149話「スウィンリルの深層」

第149話「スウィンリルの深層」

前回、第148話「星屑」

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「うっ、ゴホッ」

 ティドロは水を吐きながら守備隊の船の上で目を覚ました。

「目を覚ましたぞ」

「大丈夫か?」

 守備隊の格好をした人々が、ティドロに声をかける。

「う、ここは……。僕はどうして……」

 ティドロは周りを見回して、自分がなぜ守備隊の船の上で、気絶しているのか思い出そうとする。

(そうだ。僕はドリアスと戦って……)

 ティドロ

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第148話「星屑」

第148話「星屑」

前回、第147話「崩れゆく水の街」

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 ヴァネッサは自宅で庭に流れる水路の水位を測っていた。

(やはり、おかしい)

 彼女は水位計の目盛りを不審げに見つめる。

(アルバネロ公のせいで、協会の管理が杜撰になっているとはいえ、この水位の変化は異常過ぎる)

「ヴァネッサ様」

 彼女の腹心の部下が背後から話しかけてくる(彼はヴァネッサが長官職を辞した後も協会の内情について彼女に報告

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第147話「崩れゆく水の街」

第147話「崩れゆく水の街」

前回、第146話「ヴァネッサの失脚」

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 スウィンリルは今日も活気に満ちていた。

 運河には大小沢山の船が行き来して、人々は活発に商品を取引している。

「ん?」

 舳先に立って船を操る魔導師が、運河の水面に目を落とす。

「どうした?」

 看板に寝転んでいた魔導師が話しかけてくる。

「水位が上がっている」

「あれ? 本当だ」

「水の流れも上手く操れないな」

「見ろ! 

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第146話「ヴァネッサの失脚」

第146話「ヴァネッサの失脚」

前回、第145話「ティドロの暗躍」

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 ドリアスを見かけたティドロは、一旦長官に報告することにした。

 ティドロが長官の部屋から出て来ると、仲間達が駆け寄ってくる。

「どうだった?長官殿はなんて言っていた?」

「ダメだ。やはりドリアスがいる確かな証拠がなければ人は出せない、とのことだ」

「チッ。悠長なこと言いやがって」

「確かにこの目で見た。あいつはこの階層にいたんだ!」

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第145話「ティドロの暗躍」

第145話「ティドロの暗躍」

前回、第144話「優雅な朝食」

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 ティドロは刑吏部の他の人間達に見えないようにルフの羽を懐にしまう。

「ったく、あのヤロウ。ようやく立ち上がりやがったか」

 刑吏部の一人が文句を言うように言った。

「新人のくせに生意気な奴だな」

「まあまあ。そうイライラしなさんなって。相手は一応貴族の子弟だぜ」

「なおさらムカつくぜ」

「何を目的に刑吏部のインターンなんかに参加している

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第144話「優雅な朝食」

第144話「優雅な朝食」

前回、第143話「支配者への道」

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 250階層の外装に位置する部屋。

 そこは貴族が愛人を呼び寄せるためにこしらえた別荘だった。

 そこには塔の外を眺めることができる窓がついていた。

 窓から外を眺めることで、その高さを実感し、自分の身分を実感して、あるいは誇示するというわけだった。

 その部屋のことを知っていたドリアスは、窓をぶち破って部屋に侵入した。

 ドリアスと一緒

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第143話「支配者への道」

第143話「支配者への道」

前回、第142話「王宮のルール」

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 一人の若者の悪巧みは、暮れ行く森の夜陰に乗じてひっそりと行われた。

 ドリアスが鉄製の檻を怪鳥(ルフ)の足にくくりつける間、リンは聳え立つ塔の方に再度目を向けてみた。

 怪鳥(ルフ)は確かに大きかった。

 その嘴は像の子供を丸呑みしてしまうだろうし、その翼は広大な海に浮かぶ巨大な帆船を包み込んで、地平線から隠してしまうだろう。

 しかし塔

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第142話「王宮のルール」

第142話「王宮のルール」

前回、第141話「悪の誘い」

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 フローラの処刑が終わって数日後、リンは逮捕された。

 容疑は民衆扇動の罪だった。

 件くだんのエディアネル公の屋敷襲撃事件において、捕まった多くの者が平民派の集会に所属する者達だったので、そのリーダーであるリンが首謀者と目されたのであった。

 リンは大人しく訪れた警察の取り調べに応じ、連行され事情聴取を受けた後、拘禁された。

 こうしてリンが

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第141話「悪の誘い」

第141話「悪の誘い」

前回、第140話「家族」

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 フローラの裁判が行われた。

 彼女の裁判はアルフルド中で話題の的となり、貧民から富裕な者まで住民という住民が法廷に詰め掛けて彼女にどのような判決が下るのか確かめようとした。

 アルフルドを恐怖のどん底に陥れたこの凶悪犯にどのような判決が下るのか。

 あまりにも沢山の聴衆が訪れたため、裁判所の事務員は入場者を制限しなければならないほどであった。

 

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第140話「家族」

第140話「家族」

前回、第139話「人形」

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 学院で爆破が起こった。

 壁を構成するレンガは崩れ、建物の上部に取り付けられた時計はヒビ割れて、爆破付近はあちこち真っ黒になっている。

 まさに学院に登校しようと、建物の前まで来ていたリンはその様を見て、呆然とした。

 ずっと通っていた学院がこのように痛ましいことになるのは流石にショックだった。

(日常が……こんなに簡単に)

 リンはフラリと後

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第139話「人形」

第139話「人形」

前回、第138話「封鎖されるアルフルド」

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 ルシオラは部屋に入ってきた貴公子を見て喜色を浮かべる。

 その物腰といい、立ち振る舞いといい、その辺りの貴族とは比べ物にならない。

 それに顔立ちも彼女の好みだった。

「どうもお初お目にかかります。ウィンガルド上級貴族のヘルドと申します。以後お見知りおきを」

 ヘルドは胸に手を当てて、恭しく挨拶した。

「あらあら。フォルタったら

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第138話「封鎖されるアルフルド」

第138話「封鎖されるアルフルド」

前回、第137話「ファルサラスの派遣」

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「スゲエ数のハーピー(鳥人間)だな」

 アルマは学院の窓から外を見ながら言った。

 おびただしい数のハーピー(鳥人間)は筆を持ってアルフルドの天井と壁に魔法陣を書き連ねていた。

 いつもは青空と地平線がどこまでも続くように装飾されている天井と壁だが、今は黒々とした文字と記号に埋め尽くされていて、なんとも禍々しい風景になっていた。

「あ

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『塔の魔導師』2巻について

『塔の魔導師』2巻について

読者の皆様、いつもお世話になっております。

いよいよ『塔の魔導師』の2巻が発売されます。

遅くなってしまいましたが、詳細について報告させていただきます。

『塔の魔導師〜底辺魔導師から始める資本論〜』の2巻は明日6/9(土)発売です。

今回もTOブックスオンラインで購入していただいた方には特典としてSSが付いてきます。

2巻の表紙はイリーウィア様のピンです。

Garukuさんが素敵なイラ

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