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元宝塚・上田久美子先生初の外部舞台「バイオーム」を観ました

宝塚にハマってから、観劇の感想を残しておきたいなぁとぼんやり思っていたんだけど(すぐに何もかも忘れてしまうので)、なかなか腰が上がらず。今日(6/11ソワレ)観た「バイオーム」が面白かったので、勢いに乗って書き始めてみます。呆れるほどに三日坊主を繰り返してきた人生なので、すぐに終わるかもだけど。

「バイオーム」は宝塚歌劇団所属の脚本・演出家であった上田久美子先生が、宝塚退団後に初めて手がける朗読劇。コロナ禍で雪組と月組のトップコンビ退団公演が遅れていたおかげ(と書くのは不躾ですが)で「f f f―フォルティッシッシモ―」と「桜嵐記」を目撃でき、さらに深く宝塚を好きになれた自分にとって、ウエクミ先生の新たな一歩である「バイオーム」は絶対に観ておきたかった作品でした。

本作が描くのは、力を持つことに腐心する政治家一族とそれを囲む人間たちの、さまざまな思惑が渦巻く庭で起こる物語。主演の中村勘九郎さんが扮するのは、家族から見れば問題行動ばかり起こす8歳の男の子・ルイと、ルイのイマジナリーフレンドと思しき8歳の女の子・ケイの2役。勘九郎さんのお芝居を観るのは映像も含めてほとんど初めてだったのですが、とにかくすごかった。まず、普通に8歳の子供に見える。おじさんのはずなのに(すみません)。そしてルイとケイのハイテンポな掛け合いを、もちろん勘九郎さんおひとりでやるんだけど、実際そこに男の子と女の子がいるように見えてくるのです。歌舞伎役者といえば、年末に放送された「岸辺露伴は動かない」の市川猿之助さんの怪演もいまだに脳裏に焼き付いている。歌舞伎を観たら、おふたりの凄まじい芝居の源流たるものを感じられるのだろうか。

そのほかの役者陣は、いつか生で観てみたかった宝塚OGの花總まりさんと麻実れいさんに加え、古川雄大さん、野添義弘さん、安藤聖さん、成河さんという6人。それぞれが“人間”と、その庭に根をはる“植物”の2役を演じていたのですが、この人間と植物を対比させるという構造がすごかった。力を持つことに囚われた人間たちはその庭で、カネや権力、性と死など、生々しい部分をこれでもかとさらけ出していく。本当は見たくない、蓋をしておきたくなるような真実を前に、延々と地獄を眺めている気持ちだったのだけど、救いみたいに作用してきたのが植物の存在でした。人間のことを“2本足の獣”と称し「根っこを踏まれた」「樹皮をはがされた」といった自分たちへの影響から、人間の醜さまでを、いたって冷静に語る植物たち。そんなストーリーテラー的な立ち位置でもある植物を通して、物語を俯瞰で見ることもできた。

“スペクタクルリーディング”と題された本作の発表時には「とにかくウエクミ先生のことだから、枠をはみ出したすごい朗読劇をやるんだろうな」などと、ぼんやりとしたことを考えていた。ステージは、背景を埋め尽くす真っ白な糸状のカーテンと円形の舞台からなる極めてシンプルな作り。朗読劇を観るのは人生で初めてなので「こんな感じなのかも」と単純に思っていた。その“朗読劇”へのイメージが正しいのかはわからないけれど、そのイメージは中盤、簡単に覆されました。役者が台本を持っていない。どこから手放したのかわからなかったぐらい、自分がその人間たちの“小さな庭”で起こる悲劇に没入していたことに気付く。これがスペクタクルリーディングということなんでしょうか。

無残にも絡み合う、出口を見失った人間の苦しみを前に、倫理観を軸に悲劇に共感している自分と、植物の目線を通して“人間は自らの生と死を重じすぎているのかもしれない”などと思う自分とが、両方いた。その庭に根をはる植物たちは、人間からよかれと思って毒薬(農薬)を撒かれたり、その体を踏まれ、特に抗うことなく生命を終えたりしてしまうのだから。人間だって誕生するのはただ受精したからだし、生まれたからにはいつかは死ぬ。

物語で一番圧倒されたのは、花總まりさん演じるルイの母・怜子の、耳を塞ぎたくなるような生々しい言葉の数々。心のバランスが取れなくなり、追い詰められ捻れていく壮絶な姿に息を呑んだ。特に地獄のようなシーンが続いた2幕で、観客の笑いを誘っていたのがクロマツの盆栽役である野添義弘さん。“人間役”では厳格で非情なルイの祖父を演じているため、そのギャップがさらに笑いを大きく膨らませ、会場の張り詰めた空気を和ませる。ほかの植物が人間を“獣”と呼ぶのに対して、盆栽だけは“人間”と呼んでいたのも印象的だった。盆栽は人間の手でねじ曲げられた、自然のままの姿ではないからなのだろうか。

「バイオーム」は間違いなく宝塚では上演できない作品。正直、花總まり様からあのようなセリフが飛び出すなんて想像もしていなかった(笑)。でも「宝塚でできないことをやってやろう」みたいな気持ちで作られた作品ではないんじゃないかな、と個人的には思う。観劇後、ウエクミ先生に詳しい宝塚ファンの方に、これまで先生が語られていた思いを聞かせてもらえたのがかなり贅沢でした。たっぷり感想を語り合えて超楽しかったし、気付いたら2時間経っていたので驚いた。そんなに語らえる、余白のある作品ってすごいよなぁ。今後の作品も楽しみです。

はぁ……生の麻実れい様かっこよかったし、包容力のあるお芝居にジーンとした。今後も追ってしまいそうです。そして一重の薔薇役の古川雄大さんの美しいこと……あんなに美しくキュートなお顔立ちで二の腕ムキムキってアリですか。すごく刺さりました。あと昨日からひとつ気になっているのが、カテコの中村勘九郎さんの表情が本編と一切変わらなかったこと。なんだか妙に気になるし、今も少し怖くて……(笑)。勘九郎さんに詳しい方がいたらぜひ教えてください。

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