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乗り越えるべき【起業の壁】Chapter4 サービスローンチの壁(前編)

こんにちは、千葉道場メディアチームです。

千葉道場noteは、起業家コミュニティである千葉道場内の起業家が持つ経営ノウハウをもとに、日本のスタートアップエコシステムをよりよくする情報を発信しています。

スタートアップの経営では、起業後に必ず遭遇する悩みや困難、すなわち「壁」があり、それを乗り越えなくては成長が停滞してしまいます。

本連載『乗り越えるべき【起業の壁】』は、千葉道場コミュニティのメンバーでもある令和トラベルCEO・篠塚 孝哉さんのnote記事「スタートアップ経営で現れる壁と事例とその対策について」を参考に、スタートアップ経営において乗り越えるべき「壁」に注目。千葉道場コミュニティ内の起業家にインタビューを実施し、壁の乗り越え方を探ります。

本連載では起業家が直面する壁を8つに分類。壁ごとに前編4人・後編3人の計7人の起業家の考え方をご紹介します。

第4回は、いよいよ自分の発想を具体化して世に送り出す「サービスローンチの壁」について、その乗り越え方を探ります。今回は前編となります。

【今回の壁】

第4回:サービスローンチの壁
・仮説検証の考え方
・価格帯の決め方や競合のリサーチ

【次回以降の壁】

第5回:ファイナンスの壁
第6回:PMFの壁
第7回:組織の壁
第8回:倫理・ガバナンスの壁

ご協力いただいた起業家の皆さん

「サービスローンチの壁」前編となる今回は、千葉道場コミュニティから4人の起業家のインタビューをご紹介します。

松村 映子 さん
千葉道場ファンドフェロー。2011年、株式会社heydayを創業するも、事業がうまくいかず2014年に会社清算。清算と同時に宅配クリーニング「バスケット」を運営するバスケット株式会社を創業。2015年に株式会社ストライプインターナショナルの完全子会社となり、同社の取締役Chief Digital Officerに就任。ファッションレンタルアプリ「メチャカリ」などを手掛ける。2018年に退任し再び起業。

原田 大作 さん
2011年にザワット株式会社を創業、代表取締役に就任。WishScope、スマオク等のC2Cフリマアプリをグローバル市場で展開。2017年2月、株式会社メルカリにM&AでExitし参画。2022年にVELVETT社を創業し2回めの起業に挑戦中。

山内 奏人 さん
2016年5月、15歳でウォルト株式会社(現・WED株式会社)を創業、現・同社CEO。レシート買取アプリ「ONE」の開発・運営を軸として人々の購買行動に基づくビジネスを展開。

黒川 晃輔 さん
株式会社LITALICO、株式会社パンカクを経て、2013年10月にゲームアプリケーションの企画・開発・運用を行なうNobollel株式会社を創業。現・同社CEO。

「サービスローンチの壁」とは

業界や業種の違いはあれど、何らかのサービスをローンチしなければビジネスは成り立ちません。その意味では、スタートアップの真の始まりはサービスのローンチからとも言えます。

とはいえ、ローンチまでに解決すべき問題は山積みです。サービスのコンセプトは? ターゲットにする顧客は? 開発の手法や工数は? サービス名は? 価格は? 

この記事では、ローンチまでに現れる問題をひとまとめに「サービスローンチの壁」として取り上げ、乗り越え方のヒントを探ります。

仮説検証の考え方

サービスローンチに至るまでの過程は意思決定の連続です。ファクトも根拠もない意思決定を避けるために、どのように仮説検証に取り組むべきでしょうか。

松村 映子 さん(以下、松村)
ユーザーヒアリングは大事ですが、ヒアリングだけだとみんな良いことしか言わないんです。「こういうサービスあったら使いますか?」と聞くと「使う!」と言ってくれるけど、実際にリリースすると使ってもらえない、みたいなことは結構あります。実際にお金を払ってくれるかどうかが、サービスの本当の試金石です。なので、ヒアリングしてみてニーズが一定以上ありそうなら、なるべく早く実際に課金してもらうことが大事だと思います。

バスケットの場合は、ユーザーヒアリングで「使う!」と言ってくれた人にすぐサービスを体験してもらうために、実際のフローを構築する前に、仮想的にサービスを使ってみてもらいました。

本来はユーザーに衣類をクリーニング工場に直送してもらい、工場でクリーニングしてユーザーのご自宅に直接返送するというフローですが、仮想的にいったん私の自宅に送ってもらって、私が近所のクリーニング屋に持っていきクリーニングしてもらったものを私が段ボールに詰めて送る、ということを1か月くらいやってみました。それで「行けそう!」という感触を掴めたので、実際のサービス構築に動き出したんです。

原田 大作 さん(以下、原田)
提供するサービスのターゲットになりそうなお客さんと、そうでないお客さんを、年齢や性別などから5パターンくらいに分類して、100件ぐらいユーザーインタビューをやるのが良いと思います。

例えばファッションのフリマアプリだったら、よく使ってくれそうな20代女性、まあまあ使ってくれそうな10代女性や30代女性、使ってくれるかもしれない40代女性、そして、ほとんど使ってくれないだろう男性、といった具合に仮説をまず立てる。それで実際にインタビューをして、仮説が正しいのか、違うようなら何が原因なのかを探る……。こんなことを最初にやるべきでしょう。

私の場合はFacebookやTwitterで繋がっている友達経由でインタビュイーを集めました。しかし、それだと年齢分布など満たせなかったため、お世話になったアクセラレーションプログラムのKDDI∞Laboに相談して、KDDIの幅広い社員の方にインタビューして足りないレイヤーを埋めることもしました。

山内 奏人 さん(以下、山内)
課題解決型でクライアントが大企業のような場合、ユーザーヒアリングとかはした方がいいと思います。しかし、僕たちがやっているような対コンシューマーサービス、それもマス向けのサービスの場合は、ユーザーヒアリングはしない方が良いと僕は思っています。

例えばヒアリングで数人がネガティブなことを言ったとしても、それはノイジーマイノリティの可能性があります。そういった声に惑わされるのは良くないですので、僕の場合はデータを見て客観的に判断して、サービスの改善策を検討するようにしています。

そもそも、プロダクトの改善ももちろん大事ですが、本当に大事なのは「作ったプロダクトをどうやって届けるか」「どういう見せ方をするのか」といったマーケティングの部分です。プロダクト開発3割、マーケティング7割でサービスの成否が決まってくる、というくらいの感覚を持った方が良いと思います。

黒川 晃輔 さん(以下、黒川)
Nobollelはゲームアプリをやっているのでゲームを例に言うと、ユーザーよりも作り手にヒアリングをした方が正しいと思っています。パズドラのような大ヒット作だって、ユーザーが最初から「ヒットする」と予言できていたわけではありませんから。それよりも、ゲームの開発実績があり、サービスに関して言語化ができている作り手に話を聞いた方が、良いヒアリングができると思います。

ただ、ゲームのようなC向けのサービスとB向けのものとでは、ちょっと話は違ってくる気もします。B向けの場合はむしろお客さんの声を聞いた方が良いのかもしれません。

価格の決め方と競合のリサーチ

サービスローンチの壁のなかでも、とりわけ多くの起業家を悩ます問題が「価格」です。高すぎればユーザーがつかず、安過ぎれば利益が不十分になります。競合のリサーチを踏まえ、フラットな視点で適正価格を見極める必要があります。

松村
価格を決めるのは本当に難しいと思います。宅配クリーニングのバスケットの場合は、既存のクリーニングサービスをベースとして決めましたが、競合がいないような全く新しい市場となると、どうやって決めれば良いのかは私も悩むと思います。

競合のリサーチは、基本的にはプレスリリースやカオスマップとかを調べてみて、競合他社がいる中で自社のサービスを使ってもらうには何があれば良いかを考えたりします。一方で、競合を意識する時は、実はお客様云々というよりもベンチャーキャピタルにピッチをする時だったりします。

というのも、VCは必ず「競合は何ですか?」「どうやったらそこに勝てますか?」といったことを聞いてくるんです。なので私は、そういったVCへのピッチなどの時に競合のリサーチを結構やっていましたね。

原田
価格の決め方は難しいですね。例えば求人募集サービスをやった時は、競合他社よりちょっと安く設定して、まずはお客さんに来てもらいフィードバックしてもらうことを優先しました。フリマアプリの時もそうです。先行企業の価格を参考にして、価格設定をしました。

お客さんがサービスを選ぶ理由にプライシングがあるならば、そこはきちんと考えないといけません。できれば最初はA/Bテストで適切なパターンを探るなど、試行錯誤をした方が良いと思います。

とはいえ、競合を意識し過ぎることも良くありません。あくまで対峙すべきはお客さんなので、どうすればお客さんに納得していただけるのかを探ることが大事です。

山内
僕たちのやっているレシート買取アプリの場合、ユーザーからはまだあまりお金をとっていませんから、価格帯については何とも言い難いです。

競合のリサーチという点では、クーポンなどの販売促進の事業が競合になってくるとは思います。ただ、スタートアップの場合は過度に競合を意識する必要はないかなと思っています。それよりも、自分たちがやっているサービスのフォーカスがズレていないか、どういうアップデートをしていけばサービスがどう変化していくのか、といった点をきちんと見極めながらやっていくことの方が重要です。競合を意識するよりも前にやるべきことが結構あるよね、という感覚です。

黒川
価格帯に関しては、これもゲーム業界の話でいうと、ゲームの場合は王道がある程度確立されていますから、それにのっとって作るかたちになります。

ゲームの中身についても王道にのっとりつつ、そこから少し変化をつけて差別化するのが基本だと思っています。ゲームの場合、まったく新しいチャレンジをするのは大変です。ですから競合他社のゲームを触ってみて、自分の中で言語化してみる。そして自分が開発しているゲームに落とし込んでいくことができるかが重要だと思います。

サービスローンチで苦労したことや気を付けたこと

松村
基本的にはすべてのサービスが自社開発だったので、リリースできるレベルまでプロダクトを作り上げるのに時間がかかって大変でした。

宅配クリーニングのバスケット以前、10年以上前にECサイトを作った時は課金システムを自社でECサイトに決済を組み込める便利なサービスが無かったので、国内大手Web決済会社に問い合わせをしたら断られたり。それでPayPalを使ったんですけど、当時は「海外企業の知らないサービスは恐い」ということで課金してもらえなかったりしました。今は課金システムもいろいろありますし、APIも整備されているので、良い時代になったなと思います。

原田
サービスローンチというより開発設計に関して、エンジニアの間でも「サービスを早く形にしてから動かして、検証する方が良い」と考える派と、「はじめからきちんとしたソースコードを書いて、スケールできる設定をしてからローンチするべき」と考える派に分かれて論争になってしまうことがあります。そこは気を付けた方が良いですね。

私のケースではローンチ時はスピードを優先しましたが、後に負債解消に苦労することになりました。ローンチが成功した際は、早めにスケール可能な体制に書き直す十分な時間をエンジニアに与えるなど、長期的にエンジニアが働きやすくなる視点を持つことが起業家として大事だと思います。

プロダクト開発のコアな部分は、決して外部に任せるのではなく自社開発するのが大事だと思っています。プロダクトをメインに事業を伸ばしていくのであれば、特にそうですね。プロダクト開発の全てを把握する人材が自社にいないケースをたまに耳にして驚きます。そのような状態では、すぐに開発が破綻してしまうでしょう。

黒川
プロジェクト憲章みたいなものを作って、開発の目的と手法を明確にすること。プロジェクトが進むに従い、そこから認識のズレが出てくるので、定期的に振り返りをしてズレを修正したり、スタックしそうなところを事前に発見すること。サービスローンチに際しては、これが結構大事だと思います。

後編でも、さらに3人に“壁の乗り越え方”を聞きます

後編では千葉道場ファンドパートナー・石井貴基さん、令和トラベル代表・篠塚孝哉さん、カウシェ代表・門奈剣平さんの3人に「サービスローンチの壁」の乗り越え方を聞きます。

文:小石原 誠
編集:斉尾 俊和


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