セミナー終了後のアンケートについて

検討を重ねた結果、「セミナー終了後のアンケート結果は閲覧しない」という結論に至りましたので、ご報告させて頂きます。

理由は下記になります。

①・セミナー参加者を集めたのは主催者であり、講師側ではありません。そのため参加者のネガティブな意見は、主催者の意図とは異なる人が参加したことによる「自分の思っていたセミナーと違う」というズレがほとんどです。

②・継続的に同一人物が聴講するセミナーでは、アンケートを閲覧して内容をブラッシュアップしていく必要があります。しかし、年に1~2回程度のセミナーでは、改善したとしても、次の回は参加者が総入れ替えになるため、アンケートの結果が大きく変わります。検証しても結果が変わるのであれば、そもそもの改善策の仮説自体が成り立たなくなります。

③・参加人数が100人未満では相対的な人数が少なく、セミナー終了後の個別のアンケート調査を行ったとしても、参考になる意見がくみ取りにくいところがあります。また、3~5人程度の偏った意見は講師の心理的な部分でアンカー効果として残りやすく、その後の別のセミナーに悪影響を与えてしまいます。

④・誹謗中傷に近い意見をわざわざ講師に見せる必要はないと思います。主催者によっては、そのような厳しい意見を見せておきながら、次回のセミナーの具体的な対策を講じないケースが残念ながら多いのが現状です。また、一部のネガティブな意見を読ませておきながら「少数の意見なので気にしないでください」という無責任な発言をする主催者も多く、最初から気にしなくていいアンケートであれば、講師に見せる必要はないのではないかと思う所存です。

⑤・講師業はグループやチームで行っている仕事ではありません。役者やタレントなどの個性を活かす仕事のため、改善を求められても修正に限界があります。講師の資質や人間性を大きく変えることは難しく、商品やサービスのように、アンケートの結果に沿って器用に内容を作り変えられるものではありません。

⑥・「アンケートを見せる=良いセミナーになる」と思い込んでいるケースが多いです。社内講師や社内コンサルタントでは、継続してセミナーを行うのでアンケート結果を見せることはセミナーの質の向上につながりますが、外部講師の場合、次のセミナーまでのインターバルが長いため、アンケートを見てもセミナーの改善につながりにくいところがあります。

⑦・アンケート結果は主催者が次に講師を呼ぶために参考にするものであって、講師に改善を意識させるものではないと思います。経験不足の講師や、若い社員のセミナーであれば、アンケートを見せて改善を求める必要があるかもしれませんが、ある程度、経験と実績がある講師にアンケート結果を見せるのは、大きな内容の改善にはつながらないと思います。

⑧・アンケート結果で片寄った意見を見せられてしまうと、講師側は「自分のセミナーにはそのような問題がある」と思い込んでしまいます。その後のセミナーでも、その一部の意見が気になってしまい、本来、やるべき自分のセミナーができなくなってしまうことが多いです。

アンケートを講師に見せるケースは減少傾向


20年近く、主催者の指示に従ってセミナー終了後に参加者のアンケートの結果を拝見してきました。しかし、その後のセミナーの内容の改善につながった意見を目にすることはほとんどありませんでした。むしろその後の業務でマイナスになることが多いことが判明したことから、今後のセミナーに関してはセミナー参加者のアンケートは閲覧しないという方向で調整させて頂きました。

「参加者の意見に耳を傾けないとは何事だ!」

そう思われる主催者の方もいらっしゃると思います。しかし、コロナ禍でオンラインセミナーが増え、アンケートが取りやすくなったことで、そのトレンドが大きく変わりました。多くのセミナー主催者が「アンケートの結果を講師に見せても、参加者の満足度の上昇につながらない」ということに気付き、近年では参加者にアンケートを行ったとしても、講師に見せないケースが増えています。むしろ講師と参加者のアンケート結果を共有する企業は減少傾向にあり、稀な存在といってもいいでしょう。

また、これらの要因について弁護士に相談したところ、下請取引の適正化及び下請法違反行為・優越的地位の濫用行為などの観点から、取引先に対して圧力をかける動きを禁じる傾向が強まっていることも、セミナーのアンケート結果をあえて講師に見せない企業が増えている要因ではないかと言っていました。

「アンケート結果を講師に見せる」の意味を真剣に考えよう

しかし、それでも「アンケートを講師に見せるのは決まりですから」と、誹謗中傷もひっくるめてアンケート結果を講師に見せてくる人がいるのも事実です。

たとえるのなら、Twitterに書き込まれている誹謗中傷を、わざわざプリントアウトして、「こんなことをあなたは言われているから直した方がいいですよ」と言っているようなものかもしれません。また、参加者も匿名のアンケートをいいことに厳しい言葉を講師側に投げかけるのも、SNSの誹謗中傷問題に近いところがあると思います。セミナー講師という特別な仕事のため、なかなか一般の人には理解してもらえない事案ではありますが、アンケートの結果を閲覧した後の講師のその後の精神状態は非常に落ち込みが激しく、私の知人のコンサルタントではアンケートを直接見せられて、精神的に2~3週間、立ち直れなくなる人もいます。

講師側も、主催者側から仕事を回してもらう以上、「アンケートは見たくありません」と言いづらいところがあります。一方、主催者側は「こちらがお金を払っているんだし、良いセミナーにするのが義務なんだから、アンケート結果に目を通して、内容をブラッシュアップしてもらわなきゃ困るよ」と、アンケート結果を見せようとします。何度も言いますが、アンケート結果がセミナーの内容の向上につながるケースはほとんどありません。マーケティングの観点から言えば、少人数を対象にしたリサーチ調査で一部の片寄った意見を参考にしても、商品やサービスの改善策につながるはずがないのです。「悪い意見=改善の役に立つ」というのは、母数が大きいアンケート調査や物販ビジネスにおける数百個、数千個販売するビジネスに限って判明する事象なのです。人と人の価値観をすり合わせるセミナーにおいて、アンケートの調査結果はほぼ役に立たないデータ収集と断言してもいいと思います。

特に私のようなマーケティング系のセミナー講師は、敏感にお客様の意見に反応してしまうところがあるので、他の講師よりもアンケートの結果が、その後の仕事に大きな影響を与えやすいところがあります。可能な限り、アンケートは主催者側の次のセミナーの意見として参考にするだけにとどめて、講師側に見せるのは控えて頂ければと思います。

それでも、「講師にアンケートを見せたい」という主催者がいれば、その理由をぜひ聞かせて頂ければと思います。そのメリットを私のほうで納得できるのであれば、喜んでアンケートの結果を拝見させて頂きます。遠慮なくご意見、ご要望を寄せて頂ければと思います。

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