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オンラインセミナーの講師料が安くならない裏事情

コロナが収束に向かうにつれて、おかげ様でセミナーや講演会の依頼が日に日に増えています。一方で「オンラインのセミナーだから、もっと講演料金を安くしてくれないか?」という問い合わせもチラホラとあったりします。

主催者が値切りたくなる気持ちはとても理解できます。オンラインのセミナーのほうがオフラインよりも参加者の「ありがたさ」に欠けてしまうところがあるし、オンラインのセミナーは「無料」というイメージがあるため、主催者側も採算をとることが難しい事情があるんだと思います。

しかし、コンサルタント側のここ最近の事情をお話させていただくと、依頼のあるセミナーの8割はリアルでもオンラインでも講演料金を変えてくるケースはありません。おそらく、今のコロナの感染状況だと、オンラインで開催されるか、リアルで開催されるか分からない状態なので、報酬額を変えることができないという事情が主催者側にあるんだと思います。

また、講師が話すノウハウはオンラインでもリアルでも「変わらない」という付加価値を認めてくれた上で、今後のお付き合いも考えたうえで、「講演料は変えない」というスタンスでやられる主催者が多いことも、価格差を変えてこない理由のひとつなんだと思います。

このように、ほとんどのケースはリアルでもオンラインでも報酬額の差はありません。「オンラインだから講演料を安くしてれ」と値引き交渉してくること自体が「レアケース」であることは、まず、ご理解していただきたいことだったりします。

これがもし、ほとんどのセミナーが「オンラインは○○円、リアルだったら○○円」と条件提示してくるのであれば、「オンラインのセミナーのほうは値切ってもいい」というのが世の中でディフォルトになったと思います。しかし、そのような提示をする会社が少ない現状を考えると、おそらく世の中はオンランでもリアルでもセミナー料金は「変わらない」というのが定着しつつあるんだと思います。

コロナでセミナーの「意味」が変わってきた

もちろん、これはコンサルタントのレベルの差によって変わってくると思います。人前で話すことが好きな人だったら、タダでもセミナーは引き受けると思いますし、顧客獲得を意識したコンサルタントだったら、セミナーをタダでやっても十分に元は取れますから、「オンラインのセミナーだから安くしてよ」という交渉は通用するんだと思います。

しかし、現状、ノウハウを仕入れて、それをみなさんに分かりやすくかみ砕いて解説することを生業としているコンサルタントのお仕事においては、オンラインでもオフラインでも提供する価値は変わりません。そういう観点でいえば、講演料は「変わらない」というのは、かなり筋の通った理屈にはなるんだと思います。

もうひとつ、突っ込んだ事情をお話すれば、今まではコンサルタントという仕事において、セミナーは顧客獲得の意味が強い面がありました。セミナーを聴いてくれた人を顧客にするという、いわゆる「フロント商材」の役割があり、安い報酬でも引き受けてペイにすることが可能でした。

しかし、オンラインのセミナーでは、なかなか顧客を獲得することに繋がらないという事情もあって、安い報酬でオンラインセミナーをやる意味が、コンサルタントにとってなくなってきているというのが背景としてあったりします。コンバージョンが取れないオンラインセミナーは、講師のコンサルタントにとって、割のいい仕事ではなくなってしまったのです。

このように、コロナでセミナー事情が複雑に変化してしまったことにより、オンラインセミナーの価格決定が難しくなっている人が、世の中に増えていることが、値引き交渉の背景にはあるのではないかと思います。

安いセミナーを引き受けた後の後悔

しかし、だからといって、我々コンサルタント側にもジレンマはあります。

オンラインセミナーは移動時間の拘束がありませんので、時間単位の報酬は実はリアルのセミナーよりも良かったりします。たとえば、長崎県に20万円のセミナーをやらせていただいた場合、移動時間を含めれば、時給は1万6000円ぐらいになってしまいます。さらに、その後の懇親会や二次会にまで誘われて、夜はホテルに泊まって次の日まで拘束されるすべての時間まで考えると、時給換算で大学生の塾講師レベルの時給になってしまうこともザラにあったりします。

一方、オンラインのセミナーは、前後の打ち合わせの時間や待機時間を含めたとしても、拘束時間が短く、懇親会もホテルの宿泊もありません。ギリギリまで自分の仕事ができて、セミナー後もすぐに自分の仕事に戻れるので、時給換算にするととんでもなく効率の良い仕事だったりします。

実際、コロナでオンラインのセミナーに慣れ過ぎたせいか、久々にリアルのセミナーに行くと、しんどく思うようになっているのも事実です。早起きして始発の電車に乗ったり、雨の中、キャリーバッグを持ってえっちらおっちら町の中を歩いていたりすると、「安くてもオンラインセミナーのほうがいい」と思ってしまうのは、正直な気持ちだったりします。

ただ、オンラインでもオフラインでも「ネタ作り」と「ネタを話す」苦労は変わりません。同じように苦労して集めたネタで、それを苦労してみんなの前で話す労力は、オンラインでもオフラインでも同じです。むしろ、場の空気を汲み取る難しさと、飽きずに話すテクニックみたいなところでいえば、オンラインのセミナーのほうが高い技術力が求められるので、テクニカル料金という面でいえば、オンラインのセミナーのほうを少し上乗せして欲しいぐらいの気持ちだったりします。

「オンラインのセミナーのほうが安い」ということになってしまうと、モチベーションの持って行き方が難しいという精神的な事情もあったりします。レジュメも「この仕事は安く引き受けたんだよなぁ」と思いながらずっと作り続けなくてはいけないし、セミナーの講演中も「この仕事、安い仕事なんだよなぁ」というのが常に頭の中をよぎったりしながら話さなくてはいけなくなります。

実際、8割の仕事はオンラインでもオフラインでも料金が変わりませんから、余計に「オンラインだから安くセミナーをやった」という案件は際立って目につく存在になっています。それが安い報酬額だと、なおさら「この仕事を引き受けるんじゃなかった」という思いになってしまい、なんとも気持ちのやり場が難しくなってしまうのが、講師側の本音だったりします。

物価と同じで講演料も値上がりしている

もうひとつ、オンラインのセミナーが安くならない事情としては、「講師料が値上がりしている」という背景もあります。

コロナでセミナーや講演会がなくなってしまい、かなりの数のコンサルタントのお仕事が淘汰されてしまいました。話すだけで、知識もノウハウもないレベルの低いコンサルタントは仕事を失い、知名度のないコンサルタントは無料のオンラインセミナーで話すことが主になってしまい、コロナで稼ぐことが非常に難しくなってしまいました。

一方、腕のあるコンサルタントは、コロナを機にセミナーや講演会の仕事から手を引くようになりました。先述したように、移動時間も含まればセミナーの講師業は決して割のいい仕事ではありません。それであれば、直接、企業をコンサルティングをする仕事にシフトしたほうが、報酬額は高くなりますので、無理をしてボランティアのようなセミナー業は、腕のあるコンサルタントになればなるほど、やらなくなったという事情があります。

そうすると、「オンラインだからセミナー講師を安くやってくれないか?」という要望に対しては、今までよりもこたえにくくなってしまいます。リアルもオンラインも講師料が変わらない中で、「オンラインだから安くしてくれ」という要望は、講師側にとったら喜んで引き受けるほどの仕事ではなくなってしまいました。そもそも、企業に張り付けとなる個別のコンサルティングは時間の拘束も長くなってしまうので、仕事的にもセミナーを引き受けている時間もありません。結果、「すみません、その報酬額ではお受けできません」という形で、お断りしてしまう流れになっているのが、講師側の事情だったりするわけです。

コロナで「オンラインセミナー」が主流になって、気軽に多くの人がセミナーを受講できるようになったことは、とってもいいことだと思います。しかし、同時に「コンサルタントのノウハウはタダ」「コンサルタントのノウハウは安く手に入る」というのが常識になってしまうと、報酬額の悪いセミナーには質の悪いコンサルタントが流れるようになり、逆にお金を払ってもよい高いレベルのコンサルタントのセミナーには、より良い情報が流れやすくなるという二極化が進んでいるのではないかと思います。

最近の経営者はセミナーに参加することよりも、個別コンサルティングを依頼して、直接指導のもと、自社の経営をスピーディに立て直す企業が増えている現状もあります。「セミナーを通じてよい経営ノウハウを得る」という流れが、古いやり方になってきているのではないかと思ったりもしています。もしかしたら、私たち商売人は「セミナー」の在り方自体を、もう一度、ゼロから見直していく必要があるのかもしれません。

値切りにも最低限のマナーを

長々と書きましたが、言いたいことは、「オンラインセミナーもリアルのセミナーもコンサルタントの講師料は変わらないよ」ということです(笑)。

私個人としては、できるだけお金がない人たちに、できるだけ良い情報を提供したいというスタンスは今も昔も変わっていません。できるだけお互いにとって好条件で仕事をしたいという思いはあります。

ただ、「オンラインだから安くしてれ」と要望してくる人たちの、値切りの交渉が最近しつこいのと、提案される講師料が通常の半分以下だったり、場合によっては一桁額が違ったりするケースもあるので、そいう辛い話は極力したくないというのが、今回、コンサルタントのギャラ事情というヒリヒリした話を書かせてもらった背景だったりします。

値引き交渉は誰がやっても気分がいいものではありません。特に商品と個人が一致するコンサルタントというお仕事においては、値踏みの交渉自体が、自分自身の評価と直結するので、かなり精神的にこたえるところがあったりします。なので、そのあたりは「気持ちよく仕事がしたい」という思いもありますので、お互い最低限の気配りの中で、なんとかうまくやっていきたい思いがあったりします。

そんなわけで、いろいろ書きましたが、引き続き、セミナーや講演会のご依頼、引き続きお待ちしております(笑)。

プロなので依頼された講師料以上のリターンを参加者に返す自信はありますので。

好きをたくさん押してくれたら取材して続きを書きます。足りなければ書くのは止めます。でも書きたいから押してね♪