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どこにもある景色にとけこむということ

            ( 約900字 )
新しい職場で知り合った友達は、あと2ヶ月で関東圏に引っ越してしまう。

私の友達が、引っ越し先の同じ県に住んでいるので、出来れば連絡先を知りたいが、会えるかどうかも分からない人の連絡先を交換して何になるんだ、と思われる気もする。

彼女は独身で、頼りになるお姉さんという感じで、実際、少しだけ年上なのだが、喋り方が優しくて、いつもニコニコしている。

昨日は、仕事が難しい案件ばかりで、長く居る先輩に何度も何度も聞きながら、一件ずつ、時間をかけて片付けていた。

「なんだか今日は、難しいことばかりやってるわねぇ。頭がよくなっちゃうわねぇ」
と、後ろから、肩を軽く揉むふりをしてくれて、2人でケラケラ笑いながら、同じ担当をしていた。

ひっきりなしに鳴る電話で、口の中は渇くし、扇風機の風はささやかすぎるし、内心、帰りたい気持ちでいっぱいだった。

「今日は(難しい仕事ばかり)当たってるから、こういう日は、宝くじを買うと当たるんだよ〜」
と私も、合間には冗談ばかり言っていた。

何とかしくじらないで1日を終えたが、
数日前に記事(たばこの話し🚬?)に書いた彼が、大失態をおかしてしまい、窮地に追い込まれたことを知った。

大人しい性格もあり、余計につけいられたらしく、有名なクレーマーに窓口で怒られたようだった。それも立て続けに2件起こり、進退に関わる問題となった。

関東圏に引っ越す彼女が、
「何にも悪くないらしいよぉ。タイミングが悪かったんだねぇ」
と同情していた。

私は、仕事を始めた時期が同じで、そうやって励まし合う仲間に会えてよかったと思う。
派遣社員は、いつでも切り捨てられてしまうけれど、みんなプライドを持って業務にあたっている。

帰りがけに失態をまねいた彼に声をかけたが、元気がなかった。
私が忙しかったことを告げ、労いの言葉をかけると、少しだけ笑おうとしていた。

みんな大変なことを乗り越えていく。

夕暮れ時の空は、嘘みたいに澄んでいて、これから5連休をむかえる人の波は、穏やかな空気に包まれていた。

多分、他の都道府県でも、当たり前の日常に溶け込んだ中に、言いようのない悲しみを抱えて歩く人がいるように思えた。

実家から近い家に一人暮らしをするタバコ嫌いの彼が、親のいる家に帰省するといいな、と思いながら、私も自分の親を想った。





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