見出し画像

『窓部屋音楽集2』のいろいろ

2023年8月18日より配信リリースをした『窓部屋音楽集2』は、インストアルバムです。通常、僕にとって〝曲を作ること”とは、“歌を作ること”だという思考になりがちなので、音のみで音楽を描くのは、野に放たれたような自由な楽しみを感じながらも、道筋が見えずどこを歩けばいいのかわからなくなるような感覚も伴います。普段と違う脳みそを刺激される作業でした。制作にまつわる話と、各曲をどのように組み立てたのか、タイトルの由来など、記憶に残っている部分について書いておこうと思います。ぜひ無心でアルバムを聴いていただき、それから記事を読んでみて、もう一度聴いてみてください。
そして、皆さんの感想のシェアが今後の活動のためにも非常に大切です。作品に対して、この記事に対して、リアクションを残してくださることを願います。



窓部屋のはなし

小田一家がまだ東京・立川市に住んでいた頃、借りていた一軒家に、なぜかやたらと窓が多い不思議な一室があり、そこを“窓部屋”(まどべや)と呼ぶようになりました。そこを作業部屋としていたことを発端に、以来、引っ越した先でも、晃生の作業部屋=窓部屋と呼ぶようになりました。

ちなみに、その部屋は増築された洋室で、住み始めてからだいぶ後に、作られた由来を知ることになりました。家の斜め前にあるガラス屋のおじいさんとおばあさん夫婦が、昔この家を借りて住んでいたそうで、その頃に窓だらけの部屋の増築をしたのです。「ガラスだけはいっぱいあったから」と、おばあちゃんは笑っていました。



インスト曲をつくる

先に書いたように、インスト曲の創作は、僕にとって歌をつくるときとは違う面白さと苦難があります。音選び、楽器選び、展開に、自分なりの理由や必然性を見出すまでにとても多くの時間と手間がかかってしまうと改めて感じました。僕にとって、歌詞やテーマの存在は、決定的なアイディアに辿り着くための導きとなっている場合もあるのだと気付かされます。“音”という広大な遊び場でつい夢中で遊んでしまう自分と、ふと我に返り「作品を作れ!仕事をしろ!」と、それを律する自分とがいて、それぞれを行ったり来たりしながら、たくさんのテイクをゴミにしました。しかし、一旦捨てたはずのゴミが俄に輝きを帯び、結果的に非常に大切な役割を担う場合もあるのです。いつも以上に、“正しい音”、“良い音”とは、一体なんだろうか、と、たくさん考えました。次第に、演奏やメロディーの向こうで、僕が好きな“音”をたくさん込めようという意識になっていきました。



アートワークの写真

配信のみのリリースでも、アルバムのアートワークとなる画像がひとつ必要です。前作『窓部屋音楽集』の際は、「大人の科学マガジン」という雑誌の付録の一眼レフカメラで妻が撮影した生まれたばかりの息子を抱っこした僕の姿の写真を使用しました。妻も僕もフィルムの巻取り方法を理解しておらず、次に撮られた写真の一部が重なり合った、“二重露光”という、一般的には失敗とされる状態の写真で、僕はその奇妙な風合いを気に入っていました。今回も、その方法を踏襲して写真を撮影してみようと、同じ付録のカメラを引っ張り出してきてフィルム1本分を色々と撮影してみました。現像に持ち込んでみると、カメラ屋の主人いわく、おそらく露光がうまくいっていないため、このフィルムは現像しても全部真っ白にしかならないよ、と言われてしまいました。程よい失敗を狙っていたのに、これは完全な失敗です。そこで僕は、FUJIFILMの「instax mini 90」というカメラを購入することにしました。これは、instaxシリーズの中で唯一、二重露光の機能を持つインスタントカメラです。小学1年生の娘にカメラを持たせて、家の中で自由に撮ってもらいました。肝心の二重露光を活かすことは非常に難しく、いかに前作で使用した写真が奇跡的なものだったのかを痛感します。しかしながら、インスタントカメラのフィルムの味わいは素晴らしく、いくつか候補に挙げたい写真が撮れ、最終的に、流し場で妻が野菜の泥を洗い落としている後ろ姿を採用することに決めました。これは若干の二重露光が活かされています。一見不可解で、逆行で色合いが渋く、今作の音楽的なイメージにも合うように思いました。



楽曲解説

M1「点滅とステンレス」
ある秋の神社のお祭りの夜、娘にねだられて屋台で容器がピカピカ光るジュースを買いました。そのLEDが仕込まれたボトルだけが、台所で何日も何日も点滅している様子を、遥か彼方に信号を送るビーコンのようだな、と想像しながら眺めていました。テープレコーダーに録った即興演奏のギターを切ったりつなぎ合わせるところから始まり、最終的なゴールを定めずに、雑多な音素材をエディットしながら組み立てた曲です。ちなみにドラムパートは、アルバム『いとま』の1曲目、「そしれ」を録っているなかで出た不使用テイク。

M2「バンブージャングル」
2014年~2015年頃に「窓部屋音楽集」を作り、そのままの流れで2作目を作ろうと考えていました。その頃すでにこの曲の骨格は出来上がっていて、ギターや笛、バンジョーを太鼓にして叩いているトラックなどは2015年の録音をそのまま使っています。ひとつの、大変おかしなフレーズが頭に浮かび、捻くれていて、だけどなんだか愉快な曲にしたいと思い、それは悪くない形で叶ったと感じています。まだ東京・立川に住んでいた頃の曲ですが、妻に聴いてもらったところ「竹を刈ってるときっぽい曲だね」と言いました。現在、山梨県・上野原市にある我が家のすぐ裏山は竹の森になっており、あまりにヤブになりすぎないように、主に春〜初夏の季節は、タケノコや、若い竹、ものすごく長い竹などをなるべく刈り取る作業に追われます。そんな悪戦苦闘は、一方では年中行事のお祭りのようでもあり、“嬉しさ”と“面倒くささ”が、不思議とマッチングしてしまっています。

M3「こぼれ話」
この曲、もうどんなプロセスで出来たのか覚えていないのですが、アドリブで弾いたギターのフレーズの一部を切り抜いて、チョップしたり、デジタル上でキーチェンジして音階を加えていき、そこにリズムたちを重ねて…といった感じだったかと。いつもより勇気を出して、少し過剰なサウンドに上り詰めてみました。しかし、心地良さと不快さの境界は、日毎に変わるように感じ、ミックスの際の判断は非常に迷いました。最後は、弾けないピアノを、さも弾けるような顔で指を鍵盤上に這わせてみましたら、こんな演奏になりました。気に入っていますが、二度と自分で再現することは出来ないでしょう。

M4「ひとりじめ」
古い日本映画で聞こえてくるような、懐かしさを感じさせてくれるメロディーが浮かびました。アコギ2本のデュオになったつもりで演奏しました。実はこれもほぼ2015年の演奏。重ねた音も色々とありましたが、引き算引き算でシンプルに落ち着けていき、曲の持つ甘やかさと、少し寂しさを抱えた雰囲気を活かせていればと考えています。情景として、「雨宿り」を想像していました。しかし、それをタイトルにしてしまうのは、少々ストレートで、タイトルの言葉の強さが聴いた人それぞれの胸に描かれる物語性に余白を奪うように思い、そこから連想される(と僕が思う)ワードを2~3段階探っていき、最終的な案に辿り着きました。敢えて、曲調から少し遠ざかった言葉選びをしたことで、皆さんはどんな想像をしてくださるのか、楽しみです。

M5「寝違えて」
これも、2015年シリーズのひとつ。昔々、妻がピアノ教室に通っていた頃に買ったCASIOのキーボードを僕がもらい受け、内蔵音源の独特のチープな響きを楽しみながら作った曲でした。これもまた大変チープなギターのマルチエフェクターをつなぎ、フットコントロールで音をひん曲げて、とても悪戯なメロディーが奏でられていますね。イントロから繰り返し鳴っているピアノは、なにかの仕事でどこぞの大学にお邪魔したとき、合間の時間で部屋に置いてあったピアノを少し触らせていただき、iPhoneで録っていた音を使ったトラック。朝、どうにも首が痛くて一日中、誰にもぶつけられないモヤモヤを抱えて過ごすような、どんよりした音楽。

M6「おつかいマーチ」
果敢で楽しい、だけど少し怪しいアラビックスケール漂うこのナンバーは、たぶんこのアルバム内で最もはっきりとした骨格のメロディー譜を用意出来た曲でした。当初、この曲はリコーダーでメインのメロディーを吹くのが良いかと思ったのですが、あまりに偉大な先輩方っぽさが出てしまい、僕がそれをやってしまうのは残念だなと考え、アイディアを取り下げました。伴奏は録れたのに、主役の音像が見つからぬまま数ヶ月の時を過ごしました。ある日、思い切って打ち込みにしてしまおうと思い、プラグイン音源を漁って、完成した音源の音に辿り着いたのでした。オブリガート的なフレーズも打ち込みで加え、満足のいく面白さを得たように自負しています。

M7「まてどくらせど」
普段から、なにか良いリフやメロディーを発見すると、iPhoneに録り貯めておくのですが、この曲はこの曲そのものの形で数年前にiPhoneのボイスメモで録音されており、そのニュアンスが非常に良くて、そのまま収録できないかと考えていました。しかし、その音源の僕は、あくまで録音メモのつもりだったもので、演奏後、すぐさま「ガサガサ…プチ」という操作ノイズとともに録音を切っているのです。呆気なく、なんの余韻もなく。それは作品として何度か繰り返し聴いてもらうには、あまりにも思いやりがないように感じ、そのテイクを捨て去る決意をしました。ある日、ギターとiPhoneを庭に持ち出して、再現のようなつもりで録音をしました。丁寧過ぎず、程よくざっくばらんとしたニュアンスを意識しました。満足な演奏が出来て、最後の余韻を録っている数秒間、家の中から「あ、小田くん、そんなとこにいたのか。なにしてんの?」と妻の大きな声がしました。ギョッとしましたが、僕は「ん、録音」と返事をしつつ、求めていた余韻をは違うけど、意外と良かったり可能性があるか?と逡巡し、一応それを完成テイクにしたのですが、結果、求めてた余韻も、意外な余韻も得られませんでした。鉄琴を重ねたり、ギリギリまで引き伸ばしてサッとフェードするような形で妥協しました。長い間、なにかをじっと待っている、そんな心境を抱えた主人公の曲な気がしています。

M8「湯気の人々」
この曲は、たぶん20歳くらいで、まだソロも始める前の自分が作っていたトラックがベース。当時使っていたMTRの中に残ってた音源をPCに再録音で吸い出して、ほんの少しリズムを足して仕上げました。今聴くと、自分の音選びやギターフレーズは、なんと言いますか「音楽に恋しているな」という感じがします。他の音楽家の皆さんも、録音物からそういう感慨になることがあるのでしょうか?今現在の自分が音楽を作る感覚とはだいぶ違うのですが、それでも全部自分から出てきたものである、という味わいと気恥ずかしさも引き連れつつ、この様々な時を飛び越えた音の混ざり合うアルバムに含めてみました。なんとなく、水にまつわるタイトルにしたいなと色々思案した末、「湯気」というキーワードが出てきて、大好きなアメリカのアニメ『アドベンチャー・タイム』に、「〇〇ピープル」という人種が出てくるのを参考に、細い湯気たちがこの曲に合わせてふらふら踊っているような、そんな「スチームピープル」を想像しました。

M9「バナナチーフ」
僕の身近なミュージシャンたちはきっと恥ずかしくて避けるようなタイプのアイディアだなと思いながらも、僕はこういうウネウネしたギターリフが大好物なのです。もっと硬質なロック感のあるドラムを入れたりしたかったのですが、演奏技術、持っている楽器、録音技術、すべてが自分には不足していました。満足いかないテイクとリズムアイディアを山のように重ね、生音のリズムと、チップチューン風のビットサウンドを作る際のスネアの音などを打ち込んで完成に至りました。「バナナチーフ」とは、「バナナ長」のこと。「バナナ長」とは、「まるごとバナナ」の製造工場で、通常3回の手数で剥くバナナを2回で剥く技術を有しそれを指導する立場にある長(おさ)のことです。昔々、友人のそのまた友人の工場アルバイトの経験談を又聞きした、忘れらないエピソードでした。「バナナ長」だと、日本語の字面からは“長いバナナ”のことのようにしか思えなくなってしまうため、英語化してみたところ、やけに格好良くなってしまいました。これも妻による、「せっせと作業しているようなイメージ」という曲への感想から発想したタイトルです。

M10「雨の観察」
実はこのタイトル、一時は4曲目「ひとりじめ」に付けようとしていたのですが、作詞を頼んだとき、妻が「雨っぽい曲だね」と言ったため、そのイメージで自由に歌詞を書いてもらうことにして、タイトルをすげ替えたのでした。アルバムコンセプト通り、そもそもはインスト曲として作っていたのですが、2番に入った時、ただメロディーを繰り返すことに大いにつまらなさを感じ、歌詞のある歌を入れてしまおうと思い付きました。初めは自分で作詞を試みました。散文的でデタラメなものに憧れたのですが、僕はこういうときに考え過ぎてしまうので、どうにも難しくなってしまい、野菜農家でありながらお芝居の台本やZINE制作など、文才に長けた妻に相談してみました。タイトルと、インスト曲として先にメロディーがガッチリと固定された曲に対し、妻はさらりと書き上げてくれました。どうやら、気難しい娘の学童のお迎えに関しての曲になったようです。優しく、オープンエンディング的で、このアルバムの最後にぴったりだと感じています。
作品情報の登録の際、作詞者のクレジットをどう記載するかを妻に確認をとる必要が出てきました。当然、「小田友美」もしくは、小田より印象の強い旧姓の「高吉友美」(“たかよし”と読む)かな、と予想していた僕は虚を突かれることとなりました。「あ、“トーチファーム小田友美”でお願いします」と。反対、というか、ホントにそれでいいのかと再三の確認をしました。“カールスモーキー石井”とか、“ゴーストスウィーパー美神”みたいだけど。しかも、フルネームが付くパターンは斬新すぎるように感じたのですが、本人はまったく意に介さない様子でした。そういうことで、「作詞:トーチファーム小田友美」という作品情報で、全世界に配信されています。



お願いします

『窓部屋音楽集』シリーズは、今後もいずれまた、「3」「4」…と、続けていけたらと考えています。しかし、現状ではそのニーズが高くありません。現状、Spotifyのプレイリスト選出からも漏れ、リツイートなども普段より伸びず、意気消沈しております…。できることなら、たくさん再生され、たくさんの好意的なリアクションが届いて、そのぶんだけ胸を張って、再び作業に突入していけたらとは思います。それともやはり、小田晃生は歌ってなんぼなのか。それはそれで、そのようなご意見が届くことは喜ばしいことであり、今後の指針になります。なにより恐ろしいのは無関心だと思うのです。

どうか、聴いてみて思ったことは能動的に発していただけると嬉しいです。そして情報のシェアをどうぞよろしくお願いします。普段の歌モノとは違う入り口から、知っていただけるようなチャンスにも繋げたいと思っています。



インストアルバム
『窓部屋音楽集2』
2023/08/18
TORCH-009

各種サイトで配信中
https://link-map.jp/links/2NaG7Lw_


カセットシングル
『バンブージャングル / ひとりじめ』

50本限定で販売中。A面にインスト2曲。空っぽのB面に、
リクエスト曲の弾き語りを録音してお送りします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?