嘔吐後はムカムカは多少あったが、吐き気はなくなっていた。
薬を飲んだ後も吐くことなく経過していたが、夜中から声が出しづらくなっていて、ささやくようにしか話せなくなっていた。

初回のヨード治療は残っている甲状腺床にヨードが特に集まると書いてあった。
そして、私はがんが取りきれていない。
喉に放射線があたり腫れているのかもしれない。

だから、薬をいつものように一度に飲んだ時に喉に引っかかる感じが強くしたのかもしれない…

もうテレビも見れない、音楽も聴けない癒しの無い世界だったけど、そんな中で一つだけ私の癒しがあった。

匂い。

それは普段ならなんてことないオレンジの匂い。
昼食に出てきて食べてから手にオレンジの匂いがかすかに残っていた。
その匂いを嗅ぐと心が落ち着く。

同じ部屋で私の行動を見ている人がいたら、おかしくなったんじゃないかと思われたと思う。

現状を分析したり、手についた微かなオレンジの香りをかいだり、寝たり起きたりを繰り返してながら、やっと3日目の朝になった。

確か朝食は食べなかった。
夜になったら好きな物が食べられるから。
夜からの食事も止めてもらった。
薬は喉が腫れているかもしれないので1錠ずつゆっくり休みながら飲んで、吐くこともなかったので一安心。

そして医師による線量測定。
測定前に身体を拭いて、新しい寝衣に着替えて測定。

メジャーを胸元で持って距離をとって、先生はメガホンみたいな機械で測定する。

はい！いいですよ！
隔離解除です！

よっしゃーーーーーー！！！！
思わずガッツポーズ。

シャワーを浴びる準備をして、隔離棟のシャワールームへ。
戦い終わってフラフラだったので、シャワーを浴びるのもやっとだったが、なんとか浴びるとスッキリ。

部屋に戻ると隔離中のビニールは剥がされ、線量を測定して大丈夫だった物は部屋に置いてあった。

何度も何度も読んだパンフレットは線量高いんじゃないかと思ったけど、意外と大丈夫だったようでお部屋に置いてあった。

少し休憩。
久しぶりに携帯を見ると心が落ち着く。

隔離は解除になるが、食事制限はまだ一食残っている。

お昼は果物がつくので、果物だけは食べて心を満たす。
薬はなかなか時間通りに飲めないが、なんとか飲む。

夜までの時間が長い。
もう異常に長い。

でも、時間はちゃんと前に進む。

夕方には声も出るようになったし、ムカムカも落ち着いてきていた。
初回は病院のコンビニで買ったコーラとおいなりさんとうどんだったかな。

コーラを飲んで頭にハテナがたくさん出てきた。
こんな味だったかな…
薬っぽい変な味がしていた。

でも、久しぶりに飲む炭酸が美味しいーーーーーー！
そして、久しぶりの和食！
なんかうっすい味だけど、おいしーーーーい！

吐き気もなく完食！
でも、薬がなかなか飲めない…
見るとムカムカする。

水で飲むように言われているが、治療後は水を見るとムカムカするのでポカリスウェットで飲むことにしたら、だいぶん飲みやすくなった。

飲まないよりは、効果が低くても飲めた方がいい。
朝の採血結果では、やはりかなりカルシウムは下がっていたが、この日は薬を飲んでいたので徐々に落ち着いてきていた。

ヨード制限前は和食が食べられないことに対して、半年近く海外旅行している時は和食を食べずに我慢できているから、3週間なら楽勝だと思っていた。
治療後は、本当に自分馬鹿だったなって心底思った。
和食が無い中の半年と目の前にあるのに食べられない3週間は同じにはならない。

携帯もそうだった。
旅行中に携帯が使えない時も多々あるが、それと隔離中の時間を同じに思っていた自分。

他に見る物や、やることがある中の携帯のない時間と何もやることが無い中の携帯の無い時間は全く同じでは無い。

ヨード治療を甘く見てはいけない。
そう思ったけど…

同じ時期に入院していたおじさんは何も症状無しでご飯も毎回完食して、いつも通りの日常を探していたらしい。

人によってずいぶん違うらしい。
同じ人でもその時によって違うらしい。

私にとってのヨード治療はかなり過酷だった。
一番辛かったのは空腹にひたすら耐える事だった。
朝食べられないと次の昼まで何も食べられない。
昼も食べられないと夜まで何も食べられない。
食事の時間が楽しみでしょうがないのに、出てくるメニューがあまりにも酷すぎる。
ムカムカするのに肉の油炒めなんて食べたくないし、ずっと続いていたお浸し責めでお浸しも見たくなくなっている。

ツルツルっとそうめんや蕎麦のような喉ごしの良い物を食べたい。

一定数の人たちは胸部症状が出るのはわかっているのだから、臨機応変に食事を変えれるようにして欲しいと先生に訴えけど…
かなり目が血走ってて危ない人になってたと思う。

そんなヨード治療３日目だった。