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オレンジ色。

電車に乗っていると、途中の駅で親子が乗ってきた。
母親は、抱っこ紐にまだ小さな赤ちゃんを抱っこして、もう1人、3歳くらいの男の子と手を繋いで、反対側の手には、パンパンに荷物が入った大きなトートバッグを持っていた。汗だくだった。その日は、35℃を超える猛暑で、私は思わず『お疲れ様です。』と心の中で呟いた。
その母親はやっと一息つけるといった様子で「ふー」と椅子に腰掛けて、横にトートバッグを置いて、その横に男の子が座った。
自分の汗をトートバッグから取り出したハンカチでおさえようとしたその時、男の子が、『ママの隣がいい』と小さな声で言った。
すると母親は、ハンカチを持っていたその手をすぐに止めて立ち上がり、トートバッグを持ち上げて足元に置き、男の子に『おいで』と優しく声をかけた。男の子は母親の隣までお尻をずらし、母親に寄りかかった。その表情は安心しきっていて、男の子はウトウトしはじめた。男の子の太ももを優しくトントンしながら、抱っこ紐の中の赤ちゃんが『うーうー』とするおしゃべりに、『うんうん』と頷く母親。

トントン。うんうん。
トントン。うんうん。

それは、幸せのリズムだった。
私にはその親子がオレンジに見えていた。疲れている自分のことより、子どもの気持ちに寄り添う母親の姿はとても美しくて、温かかった。

心がホクホクした、暑い夏の日のはなし。

#日記 #エッセイ #育児 #子ども #親子
#オレンジ色

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