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ふさわしい不倫(25)

美瑛に着いた。

あゆみと縦に並んで、白樺の小道を散歩する。すると、その先の森の中に濃い緑のペンキで塗られた小屋があった。少し空いた窓からスパイスで煮込んだような匂いがする。

小屋の前には、ダイニングテーブルが4つあり、木漏れ日が差すテーブルの上には、枯れ葉が数枚落ちていて、小さな花瓶に小さな赤いバラが生けてあった。

白雪姫と7人の小人が食事を楽しむような雰囲気だ。

なんて素敵な場所なんだろう。

世の中の人は素敵な場所を見つけるのがうまい。
もちろん予約は必須だった。
あゆみが2カ月も前にちゃんと予約してくれていた。

料理はビーツのピンク色を生かしたポタージュスープ、美瑛で取れた東京のスーパーでは見かけないような野菜を何種も盛り付けた大皿のサラダ。大皿の中でとくに美味しいのは、砕いたカカオやスパイスで味付けたカボチャだった。そして、小麦の味がしっかり味わえるパン、おそらくローリエ、カルダモン、グローブなどのスパイスで煮込んだ豚ブロックとかぶ。
最後に暖かい紅茶を頂くことにした。


「さっきは怒っちゃってごめんね。」

「いや、私が変な話しちゃったから。」

「まぁ、でも、不倫かもしれないけど、好きな人のこと否定されるのって嫌だよね。私も否定されたら悲しいと思うから。
だから、応援するって感じでもないけど、まぁ、よく考えてるんだろうし、ちーちゃんの好きにすればいいと思うよ。」

「ありがとう。良くないことなんだろうって思うし、大地のこと本当に好きなのかも分からないような気もする。ただ、今はね、これでいいと思っていて。
大地と一緒にいるとなぜか癒されるから。
長い付き合いになってきしまって…
なんで、はじめに大地を受け入れしまったのか…」

びゅうと風邪が吹いて、高い木からカサカサ鳴る。

一枚の枯れ葉が私の手元に落ちた。

(つづく)







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