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【選挙ウォッチャー】 人権を無視する日本の入管法改悪問題。

 実は今、国会で「入管法」を変えるための議論が行われているのを、ご存知でしょうか。
 新聞では少し報じられているものの、ワイドショーで取り上げられていないので、まだこの問題をよく知らない人がほとんどだと思いますが、僕たちの住む日本という国では、「外国人は死んでも良い」とするイカれた法律が誕生しようとしています。
 こう言うと、多くの人が「いくら外国人だからって、さすがに『死んでも良い』っていうのはヤバくない?」と思うはずですが、同時に「どうしてそんな法律ができるの?」「そんな危ない法律ができるのには、何か理由があるのでは?」という疑問が生まれるのではないでしょうか。
 今日は、これから大きな社会問題になりそうな「入管法改悪問題」を、どこよりも分かりやすく解説したいと思います。


■ 「日本」という国の労働現状

 日常生活の中で実感する機会は少ないかもしれませんが、実は、日本という国は、外国人労働者の力を借りなければ、経済を円滑に回すことができなくなってしまいました。

中小企業庁「日本の人口動態と労働者構成の変化」より(引用元リンク

 というのも、日本の労働者人口は1985年から1990年あたりをピークに減少を続け、この30年間で約1000万人も減りました。しかも、少子高齢化は止まったわけではなく、むしろ加速化しているので、これからますます減り続け、日本は「働く人がいない国」になっているのです。
 この慢性的な人手不足を解消するために、故・安倍晋三総理の時代ぐらいから「技能実習生」という形で外国人労働者を増やし、日本人なら逃げ出すような過酷な労働環境で働いてもらってきたというのが、日本の労働市場になります。

厚生労働省「外国人雇用について」(引用元リンク

 日本の外国人労働者は2020年時点で172万人。昨年は過去最多となる182万人だったといい、減り続ける日本の労働者人口の穴埋めをするように、どんどん増えています。
 ただし、僕たちが日常生活の中で外国人労働者が増えていることを実感しにくいのは、外国人労働者たちが請け負うのは、農業や漁業、畜産業、さらには工場勤務などの「日本人労働者に人気のない分野」だからで、最近では介護職やコロナ禍で不安定な状況が続く宿泊業などでも外国人労働者を迎え入れる傾向にあります。
 移民の受け入れに反対しているネトウヨの皆さんにとっては到底認められない事実かもしれませんが、もし外国人労働者たちが全員で自国に引き上げてしまった場合、多くの産業が成り立たなくなり、あっという間に崩壊してしまいます。これが日本の現状なのです。
 もし移民や外国人労働者の受け入れに反対したいのであれば、もっと早い段階で労働者人口を確保するための少子化対策や、AIや産業ロボットを使ったハイテク化を進めなければなりませんでしたが、この日本の労働者人口が急速に減りまくっている問題は、既に深刻な状態を迎えている上、現在進行形で「より悪化している」という話なので、今日より明日、今年より来年はさらに悪化しているため、もはや「外国人労働者を迎え入れる以外の選択肢が考えられない」という状況に陥っています。


■ 人が死んでも反省できない国、ニッポン

豪雨の中、高円寺の入管法改悪に反対するデモに参加したウィシュマさんの妹

 ここ最近、たびたび問題として取り上げられているのが、日本の入管による外国人への虐待です。特に大きな問題となったのが、2021年に名古屋入管で起こったウィシュマさん死亡事件です。
 ウィシュマさんは、2017年に留学を目的に来日しました。日本語学校で学ぶも、同居していたスリランカ人の男性からDVを受け、学校も休みがちになり、母国からの仕送りが途絶えたことで退学になり、滞在資格を失ってしまいました。学校から除籍されたことで不法滞在状態に陥り、2020年に同居人の暴力があまりに酷すぎることから警察に駆け込んだところ、ウィシュマさんの方が不法滞在に問われ、名古屋入管に収容されることになりました。
 2021年1月頃から体調の悪化がみられ、嘔吐を繰り返し、体重が急減するようになりました。2月には外部の病院で点滴の投与などの処置が必要であると診断されたにもかかわらず、内服液を処方するだけで再収容。どんどん弱っていくウィシュマさんに対し、入管職員は非人道的な言葉をかけるばかりで、病院に連れて行くなどの必要な処置をせず、ウィシュマさんは亡くなりました。
 実は、ウィシュマさんの一件は「氷山の一角」に過ぎず、牛久にある東京入管をはじめ、日本の入管では死亡事故が頻発しており、病気になっても治療してもらえないなど、非常に深刻な人権侵害が繰り返されています。
 日本は「おもてなしの国」と言いながら、この国の入管は、先進国にあるまじき「人権無視」「陰湿で鬼畜とも言える非人道的な組織」と化してしまったのです。
 普通は、ウィシュマさんのような事件が起こった時に、「もう二度とこのような事件が起こらないようにしよう」となるのが普通ですが、日本という国では、あろうことかウィシュマさんの死亡事故をなかったことにするための隠蔽工作が行われ、監視カメラの映像公開もギリギリまで拒み続けてきました。政治家たちは、この問題を「なかったこと」にするため、検証や反省をするのではなく、「入管にもっと自由な処罰をできるように権限を持たせてあげよう」と言い出しました。これが今、日本で大きな問題になりつつある「入管法改悪問題」の正体です。


■ 入管の一存で強制送還できるようになる

この問題を端的に表していた「だれも殺すな」のプラカード(高円寺の入管法改悪反対デモ)

 現在、議論されている「入管法の改悪」は、2年前の2021年に議論されたことがありました。しかし、当時はウィシュマさんの事件が起こったばかりだったため、入管法の改悪に反対する人々がどんどん声を上げ、とうとう芸能人まで反対の声を上げるようになってしまったことから、さすがに強行すると支持率が下がる可能性があるということで見送られることになりました。
 しかし、あれから2年が経ち、ネトウヨや統一教会などのロビー活動がしっかり効いている自民党は、「不法滞在の外国人労働者は、どんどん強制送還できるようにしよう」ということで、同じくらい人権意識の低く「人権なんて見たことも食べたこともありません」の日本維新の会と、キリッとした顔で「対決より解決!」と言い、賛成すればすべてが対立ではなく解決になるという「一休さん大作戦」の国民民主党などが賛成に回ることになったため、今国会では「入管法の改悪」が通過してしまうのではないかと考えられています。
 もちろん、僕が取材している「バカが集まる沼」でお馴染みの「政治家女子48党」も、この法案には賛成です。自民党に集まるネトウヨと「政治家女子48党」に集まるN国信者は、ほぼ変わらない周波数なので、「ネトウヨとN国信者を両方こじらせている極限のアホ」も多数存在しますが、彼らはもれなく「外国人より日本人を守れ、愛国者たち!」の精神なので、外国人が死ぬと言われても、工事猫のポーズをしながら「それより日本人の方が大切だから、ヨシ!」なのです。

高円寺で「入管法改悪反対」を訴える人たちは、豪雨の中でも5000人を超えたという

 そもそも、どうして「入管法改悪問題」は、こんなに騒がれるのか。
 もし、この法案が可決してしまうと、不法滞在している外国人を強制送還できるようになり、これがすなわち「死の片道切符」を意味してしまうからです。
 例えば、日本は今、ウクライナからの難民を受け入れています。ウクライナからの難民を受け入れようとなった時に、あまり反対する人たちはいなかったのではないでしょうか。ウクライナの地下で、子どもを抱えながら爆撃に怯える日々を過ごすぐらいだったら、戦争が終わるまでの間、日本で生活したらいいじゃないかと考える人は多かったからです。
 しかし、戦争になっている国はウクライナだけではありません。最近ではスーダンで紛争が起こり、現地で生活していた日本人が命からがら脱出する出来事がありました。ウクライナの人たちも大変ですが、スーダンの人たちも大変です。しかし、日本では不思議なことに、ウクライナの人たちは迎え入れるけど、スーダンの人たちを迎え入れようという気持ちにはならないという国民性です。これには「ウクライナの人たちは白人だけど、スーダンの人たちは黒人だからでは?」という指摘もあります。自覚はないけれど、無意識のうちに肌の色で人種差別をしてしまう国民性。あまりに恥ずかしいので認めたくはありませんが、少なくとも現実はそうなっています。
 そして、数としては少ないですが、スーダンから日本にやってきて仕事をしているスーダン人もいます。この人たちは、もし何かのトラブルがあって不法滞在状態に陥ると、入管の収容所に入れられ、ある日突然、入管の匙加減一つで強制送還となります。しかし、日本人が退避するような状況の中で強制送還になってしまうと、それは「死の片道切符」です。「不法滞在する方が悪いんだ!」と言う人がいるかもしれませんが、ほとんどの人が日本で悪いことをしたくて不法滞在をしているわけではありません。日本に滞在している間に母国の状況が悪くなって帰れなくなってしまった人もいるし、ウィシュマさんのように少し歯車が狂ってしまっただけの人もいます。
 今のところ、改悪される入管法は、明確な基準があるわけではなく、入管の裁量一つで強制送還を決められるため、目の前の外国人さえ殺してしまうような人権意識の欠片もない日本の入管が「死の片道切符」を発行しないはずがありません。だから、そんなシステムを作ってはいけないのです。


■ 今の日本に杉原千畝の精神はない

 第二次世界大戦中、リトアニアに杉原千畝という人がいました。
 杉原千畝は、日本領事館で領事代理として働き、ナチス・ドイツによって迫害されていたユダヤ人に、可能な限りのビザを発給し、多くのユダヤ人の命を救ったことで、今でも「東洋の英雄」として語り継がれています。
 当時は、ナチスによって「ユダヤ人」だというだけで殺される酷い政策が行われていましたが、日本政府は、ユダヤ人に限らず、すべての難民を受け入れないと決めていました。外務大臣からも「難民は受け入れない」という方針を通達されていました。
 しかし、杉原千畝は目の前の殺されるかもしれない人たちの命を助けることを選択します。政府の方針に従わず、独断によってビザを発給し、最後まで難民の命を救おうとして、少なくとも6000人以上にビザを発給しました。こうした杉原千畝の行為は、官僚としては許されざる行為かもしれませんが、世界に誇れる日本の偉人として名を残していることからしても、もっと多くの日本人がこうあるべきではないかと思わされます。
 さて、今の日本はどうなっているのかと言うと、このたびの入管法の改悪により、難民申請をしている最中でも強制送還できるようにするというルールにしようとしています。杉原千畝の精神など微塵もないばかりか、日本で不法滞在状態に陥った外国人を一律に「犯罪者」として扱い、たとえ母国に送り返されたら死ぬかもしれない状況でも、不法滞在しているのが悪いということで、問答無用で強制送還にしようというのです。こうした法律に賛成しているのが、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、そして僕が取材している「政治家女子48党」です。
 どうしてこんなことをしているのか。彼らは、自分たちで外国人労働者を受け入れているくせに、やむを得ぬ事情や、ちょっとしたミスや行き違いでビザを失った人たちは一律に「犯罪者」として扱い、家族を壊し、人権さえ奪うことが「日本人を守ること」だと考えているからです。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

入管法改悪に反対するデモや集会は、これから各所で本格化する動きがある

 ネトウヨの皆さんは、なぜか中国のウイグル人に対する人権侵害に対して強い憤りを持っていらっしゃいます。確かに、中国のウイグル人に対する酷い人権侵害はあってはならないことだと思いますし、ネトウヨの皆さんと気持ちは一緒です。
 しかし、中国共産党によるウイグル人に対する人権侵害と、日本政府による「外国から来た労働者」「外国人から来た難民」に対する人権侵害の問題というのは、まったく同じ性質の話です。むしろ、迫害しようと思ってやっている中国より、ナチュラルな差別意識の中で起こっている日本の方がヤバい可能性すらあります。
 日本に来て、日本を好きになり、日本で暮らし、日本で家族を作り、日本で働き、日本で経済を回し、日本の貴重な労働者人口の一部になってくれている外国人の「人権を踏みにじる」ということが「当たり前の日常」になろうとしている国を、果たして、世界の人たちは「ニッポン大好き! ニッポン最高!」って思ってくれるでしょうか。そう思えるのは、全国のアホのネトウヨやN国信者だけになってしまうかもしれません。

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