見出し画像

【選挙ウォッチャー】 沖縄県知事選2018・見どころ解説。

いよいよ9月30日投開票の沖縄県知事選がスタートしました。この選挙には翁長雄志さんの遺志を継ぐ「オール沖縄」の玉城デニーさん、自民・公明・維新が推薦する宜野湾市長の佐喜眞淳さんをはじめ、全部で4名の候補者が立候補しました。最大の争点は、翁長雄志さんが亡くなる直前に承認撤回を進めた「辺野古基地建設の是非」ですが、辺野古基地問題が争点になるのは都合が悪いため、佐喜眞淳さんの陣営は「辺野古のへの字も出さない」という姿勢で選挙に挑んでいます。今年6月の新潟県知事選でも自民・公明・維新は「柏崎刈羽原発の再稼働問題を争点化させない」という作戦を展開し、見事に当選を果たしています。沖縄県知事選でも辺野古基地問題を避け、当選することができるのでしょうか。

沖縄県知事選に先駆け、9月9日に行われた名護市議選では、辺野古基地建設に反対する議員が議席を減らしたため、基地推進派と基地反対派がまったくの同数になるという現象が起こりました。これにより、今年2月の名護市長で、自民・公明・維新が推薦していた基地推進派の渡具知武豊さんが市長になっていることもあり、辺野古基地の建設は今まで以上にブレーキがかかりにくい状態になっています。


■ 勝敗のポイントを握るのは無関心な若者たち

実は、沖縄の若者たちには戦争の体験がほとんど共有されていません。ひめゆりの塔や平和祈念公園、各地に残るガマ(防空壕)など、戦争の悲惨さを物語る「戦争遺産」がたくさん残り、自らも戦争を体験してきたおじいやおばあがたくさんいるのに、多くの沖縄の若者が小学生の頃に課外授業で一度行ったことがある程度で、戦争の悲惨さを学ぶ機会はほとんど与えられていません。そのため、若者に基地問題について聞くと「基地はあってもなくてもいい」という無関心な答えがほとんどで、ほぼ全員が「どうせ自分たちには何もできない」と考えていました。確かに、自分の1票で何が変わるのかと思うかもしれませんが、実は、この選挙によって沖縄の運命は大きく変わります。佐喜眞淳さんが当選すれば辺野古に新しい基地が建設され、玉城デニーさんが当選すれば辺野古に新しい基地が建設されるのは止まります。結局、国があらゆる手段を尽くすので止められないのではないかと思うかもしれませんが、少なくとも止めるために頑張ることはできるのです。これだけでも十分違いがありますが、若者に関心の高い経済政策においては、佐喜眞淳さんが当選すれば国からいただく交付金に依存しながら経済振興を図ることになり、玉城デニーさんが当選すれば観光などに力を入れて沖縄の自立した経済を目指すことになります。簡単に言うと、親からお小遣いをもらいながらバイトをするか、完全に自分で働いたお金で自立して生きていくのかを問われている選挙だと言えます。長期的に考えれば自分で働いて稼いだ方が経済は安定しますが、自分で働いて稼ぐのは大変なことなので、親からもらえるお小遣いでぬくぬく暮らしたいと考える人は意外とたくさんいるのです。


■ いつになく大量のデマが出回る選挙

今回の沖縄県知事選は、大量のデマが出回る選挙となっています。大きな選挙で「デマ」が流されること自体は珍しいことではなく、こうやって誹謗中傷を繰り返すことで、相手のイメージを削っていく戦略が取られるのはよくあることです。どこの誰だか知らない人がデマを流すのは止められないかもしれませんが、今回の沖縄県知事選の特徴は、その出所不明のデマを国会議員が率先して流していることにあります。

サイトの信頼性が著しく低く、誰がデマサイトを運営しているのかを探られ始めた瞬間、データがすべて消されるようなものを、公明党の遠山清彦さんが堂々と紹介しているのです。言ってしまえば、2ちゃんねるの掲示板を本気で紹介しているようなものですが、遠山清彦さんは公明党でありながら日本会議が主催する「憲法改正フォーラム」に出席して、公明党の立場から憲法改正を積極的に進めようとしているオジサンです。他の項目はともかく、まずは憲法9条を改正したいと願うオジサンが「辺野古基地建設」を目指している現実。これでは普天間基地の危険を取り除きたい以外の思想が見え隠れしてしまいます。

沖縄では出所不明のビラが配られ、玉城デニーさんが「中国のために政治をしようとしている」というデタラメが流布されています。「ここまでカルト臭がする怪しいビラを信じる人はいないのではないか」と思う人も多いようですが、思っている以上に信じる人がたくさんいるから、こうしたビラが効果を発揮するのです。


■ 沖縄を分断しているのは「基地反対派ではない」

原発問題にしろ、基地問題にしろ、反対している人がいるのに強引に押し進めるやり方をすれば、当然のように反発が生まれます。福島第一原発事故が起こる以前の日本であれば、柏崎刈羽原発を再稼働させると言っても猛反対する人は少なかったかもしれません。しかし、原子力発電という発電方法が極めて危険で愚かだということが証明されてしまった今、福島第一原発の反省も検証もせずに柏崎刈羽原発を再稼働させるというのは、あまりに頭が悪すぎます。基地問題についても同様で、もともと辺野古の山の中に基地を作る計画だったのに、それでは土建屋が儲からないということで、土建屋の要望を受ける形で海の上に基地を作る計画に変更された経緯があります。山を埋めて滑走路を作ると言っても反対する人はたくさんいたかもしれませんが、多様な生物が生息している大浦湾の美しい海を埋め立てる計画になったため、それまで以上に反発する人の声が大きくなったことは間違いありません。ただでも沖縄には戦争を経験した「おじい」「おばあ」がまだまだ生きているのです。背中を焼夷弾で焼かれたおばあが辺野古基地の前にやってきて反対しているわけです。しかし、それを「県外からやってきた反日左翼がほとんどだ」というデマを流しているのは、それこそ県外からやってきたネトウヨだったりして、僕自身もそんな言説を流す県外の創価学会信者に出会いました。佐喜眞淳さんは「分断するのではなく、対話で解決する」と言っていますが、その対話の相手は「政府」を示しています。しかし、本当に対話をしなければならないのは、立候補する時点で最初から話がついている「政府」ではなく、反対している「沖縄県民」のはずです。反対している沖縄県民との対話を避け、なるべく争点化しないように努力している人が「沖縄を分断するのはやめよう」と言っているのです。本当に沖縄を分断しているのは誰なのか。改めて、沖縄県民は分断している人を見極める必要があるのではないでしょうか。


■ あちこちに幟が乱立する公職選挙法違反について

実は、沖縄の選挙は非常に独特です。本当は街頭で幟を立てることは公職選挙法違反ですが、沖縄では選挙管理委員会が注意喚起をするものの、どの陣営もやっていることなので、なかなか取り締まることができず、事実上、放置された状態になっています。「そこはルールを守って自粛するべきだろう」というのは、どちらの陣営にも言えることなのですが、ルールを守ってしまうと、ルールを守らなかった陣営だけが得をしてしまうという現象が起こるため、結果として、ルールを守るのがバカバカしい状態に陥っているのです。他のエリアだったら一発でアウトになるようなことが、沖縄ではまかり通っています。こうした現象について「なぜ選挙ウォッチャーのくせに指摘しないのか!」と言われるのですが、どちらかの陣営が一方的にやっていることであれば批判のしようがありますが、どの陣営もやっているとなると、どちらかの陣営だけを批判するのはアンフェアです。この問題については「全員いい加減にしろ!」ということになりますが、沖縄のカルチャーだと思うしかありません。


■ 「ベーシックインカムおばあ」も面白い候補である

今年6月の新潟県知事選では、花角英世さんと池田千賀子さんの一騎打ちに待ったをかけるように、安中聡さんが立候補し、その選挙カーなどの資金的バックアップを自民党系の支援者が出していたという噂がありましたが、今回の沖縄県知事選に立候補している他の2名は、どうやら完全独立系候補のようで、どちらかの票を削るために何らかのバックアップを受けているわけではなさそうです。特に面白いのは「コンピューターおばあちゃん」ならぬ「ベーシックインカムおばあ」の渡口初美さん、御年83歳です。琉球料理研究家だそうですが、那覇市議をやったこともあるそうで、このたび「消費税30%にして、月30万円のベーシックインカムを実現しよう」という超絶アグレッシブな公約を掲げての立候補となっています。83歳おばあ、飽くなき挑戦。お元気で何よりです。


■ この選挙の結果が安倍政権に大きな影響を及ぼす

北海道胆振東部地震に対し、5億4000万円という非常にショボい金額の追加支援を決め、プーチン大統領の待つロシアに旅立った安倍晋三総理。自民党総裁選の真っ最中ということもあり、経済界のオジサンたちをロシアの要人とつなぎ、「北方領土返還に向けて道筋が立った」と宣言した直後、プーチン大統領に「年末までに無条件で日露平和条約を締結しろ」と言われ、返還の道筋どころか、北方領土が返ってこない道筋が立っていたことが露呈してしまったわけですが、戦後のどさくさに紛れて奪われてしまった北方領土を返してもらうために、長きにわたり、歴代の国会議員がロシアと粘り強く交渉してきた努力を、とうとう安倍晋三総理が終止符を打つかもしれません。こんな状態であっても、9月8日、9日の朝日新聞の世論調査では41%の人が安倍政権を支持しており、相変わらず選挙では連勝を続けています。昨年の衆院選では大博打を仕掛けてきた小池百合子都知事の戦略を交わし、圧倒的な議席を獲得。今年2月の名護市長選、6月の新潟県知事選でも勝利を収め、選挙では向かうところ敵なしです。もし今回も佐喜眞淳さんが勝てば、モリカケ問題で揺れても、公文書を改竄しても、ロシアに北方領土を奪われそうになっても、国民は安倍政権を支持してくれるものだということになり、今後もこのまま突き進むことになります。しかし、もしここで玉城デニーさんが勝つようなことがあると、これまでの連戦連勝が止まることになり、これが「終わりの始まり」なのではないかと心配になる自民党員が出るようになります。これまでやりたい放題に進めてきた安倍晋三総理に「本当にこのままで大丈夫なの?」という声が自民党内に上がるようになると、いろいろなことがとってもやりづらくなります。なので、安倍政権にとって今回の沖縄県知事選は、絶対に負けられない戦いなのです。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

今回の沖縄県知事選は、かなり拮抗した戦いになることは間違いありません。佐喜眞淳さんには自民党を支持する企業の組織票、公明党を支持する創価学会の信者とそのフレンド票、日本維新の会を支持する沖縄にカジノを誘致したい新自由主義経済を掲げる人たちの票など、かなりの票が前もって期待できます。一方、玉城デニーさんを支持する人たちは、連合系の組織票があるとはいえ、創価学会が目指す10万票に比べると3分の1ほどでしかなく、「オール沖縄」として加わる共産党支持者の票を加えても、佐喜眞淳さんの組織票には遠く及びません。それでも拮抗した戦いになると考えられるのは、主婦などの一般有権者たちから支持される割合が高いと考えられるからで、どのような結果になるのかは誰にも読めないほどの接戦です。選挙が始まる前に、佐喜眞淳さんは空手を披露し、玉城デニーさんはギターを弾きながらのロックンロールを披露しており、ともに特技や個性を生かして選挙を戦っています。両陣営に大手広告代理店が入ってのイメージ戦略選挙を展開しそうな形相を呈していますが、いずれにしても選挙を見守る「選挙ウォッチャー」たちにとっては、この上なく面白い選挙になりそうだということです。9月30日までの約2週間ちょっと、沖縄から目が離せません。[了]

いつもサポートをいただき、ありがとうございます。サポートいただいたお金は、衆院選の取材の赤字分の補填に使わせていただきます。