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【選挙ウォッチャー】 深谷市長選2018・分析レポート。

「深谷ねぎ」で知られる埼玉県深谷市で、2018年1月28日に市長選が行われました。当初は岐阜に行くことだし、追いかけようと思っていなかったのですが、めちゃくちゃデカい利権が動いていることを知り、追いかけずにはいられませんでした。昨年末に腐りまくっている埼玉県上尾市の選挙レポートをお届けしましたが、この街もなかなか腐っており、埼玉県にはまともな自治体がないのではないかと思えてきます。

■ 小島 進  57 現 自民党
■ 加藤 裕康 72 新 自民党
■ 加藤 利江 68 新 共産党

この選挙における最大の争点は「花園IC再開発アウトレットモール構想」です。かつてはアウトレットモールにたくさんの人が押し寄せ、本当は高いはずのブランドモノがお安く買えるということで大賑わいだったのですが、最近はだいたいのものがネットショップで安く買えるため、わざわざアウトレットモールに出かける人は少なく、苦戦を強いられるようになっています。実際に取材したことがありますが、茨城県の大洗市にあるアウトレットモールではテナントが撤退しまくり、廃墟と化しています。
そんな平成も終わろうかとしているこの時代に、今さら「アウトレットモールを建てれば人が来る」と言い出し、運営のノウハウを持つ民間業者が「アウトレットの時代は終わっている!」と言っている中で、初期費用だけで50億円という税金を使って、このご時世にアウトレットモールを建てようとしているのです。時代遅れの老害ジジィが噂レベルの浅い知識で「アウトレットモールを建てれば人が集まる」と言っているようなものです。深谷市の闇はなかなか深い。ということで、ずいぶん香ばしい選挙をお届けすることになりました。


■ 2018年10月に開業する「ふかや花園駅」は市が全額負担

なんだか埼玉県上尾市の腐った選挙を彷彿とさせます。アウトレットモールを核とした再開発計画を進めるため、秩父鉄道の新駅「ふかや花園駅」を2018年に開業することになったのですが、昨年6月から駅の工事は着工しており、あとは開業を待つだけという状態になっています。開業初年度の利用客は5万6000人と見込んでいますが、アウトレットモール開業後は年間65万人が利用するという皮算用で、秩父鉄道の中でも熊谷、羽生に次ぐ3番目の規模の利用客を想定しているといいます。
そして、一番大切なのは、この駅の建設する費用4億円を誰が負担しているのかという話ですが、なんと、市が秩父鉄道にお願いをして作ってもらうなので、全額を市が負担することになっています。ちなみに、秩父鉄道では昨年4月にも熊谷市と行田市の請願駅「ソシオ流通センター駅」を開業しており、それぞれの市が建設費を負担することになっています。埼玉県全体でズブズブです。

現職の市長は新しい駅を「年間65万人が利用する駅になる」と言っているわけですが、本当にそんなにたくさんの人が利用するでしょうか。今回、僕はアウトレットモールの建設予定地を訪れるため、熊谷駅から秩父鉄道に乗ってみることにしました。秩父鉄道は、羽生から行田市、熊谷、寄居、長瀞、秩父、三峰口を結ぶローカル鉄道で、電車の本数は1時間に1~2本程度。SuicaやPasmoには対応しておらず、熊谷駅では駅員さんが切符に鋏を入れてくれる昭和スタイル。切符の販売機も1000円札しか使えず、高額紙幣は駅員さんに両替してもらわなければなりません。少しでも観光客を集めるためにSLが走っているのですが、まさに懐かしの「昭和」を存分に満喫できる鉄道会社と言えます。そして、熊谷駅から「ふかや花園駅」までは約30分。開業すれば料金は500円前後になる見込みです。これは家族4人で遊びに行った場合、うち2人が小学生だったとしても往復で3000円かかる計算です。アウトレットで買い物したら荷物が多いわ、料金は高いわ、運行本数は少ないわで、電車で行くメリットが微塵も感じられません。車や免許を持っていない人は電車で行くしかありませんが、こんなことなら熊谷駅から安いバスを走らせてくれた方がよっぽどマシです。

興味のある方は実際に乗っていただいたら分かるのですが、もしアウトレットモールがオープンしても、こんな所にわざわざ電車で行く人なんていません。なにしろ、タイミングが合わないと1時間近くも乗り換え待ちをさせられてしまうので、不便ったらありゃしないのです。まさかアウトレットモールのために運行本数を増やすことはないでしょうから、電車で行くのは非現実的。そもそもアウトレットモールがオープンするかどうかも分からないし、どれだけ客が来るのかも分からないのに、最寄り駅から巡回バスを走らせて新駅を作る必要があるかどうかを見極めるわけでもなく、既に駅を作っちゃっているのですから、どれだけ頭が悪いんだという話です。

新駅を訪れると4億円の駅舎を建設中でしたが、年間65万人という数字がどれだけ甘い見積もりなのかは、実際に利用してみればわかります。アウトレットモールがない状態で見込める初年度の利用客が年間で5万6000人なのですから、約60万人がアウトレットモールの利用客となります。これはざっくりと平日で1000人、土日で3000人ぐらいの利用客を見込んでいる計算になります。いくらアウトレットができるからって、そんなにたくさんの人が電車で訪れるとは想像できません。


※【追記】農地転用のためには駅を作るのが先になる

駅を先に作ったのは「農地法」という法律による手続き上、必要な措置だったことがわかりました。あの場所をアウトレットモールにするためには、周辺の畑にコンクリートをぶち撒き、建物を建てる必要があるのですが、農地を農地以外に使うことは「農地法」で禁止されています。これを回避し、アウトレットモールを建てるためには「農地転用」という手続きをしなければならず、「畑をやめて別のものにします」と申請して許可を得なければなりませんでした。そして、これには審査が必要となり、駅から300m以内の農地であれば、ほぼ認められるそうなのです。つまり、先に駅を作った方が農地転用がラクチンで、アウトレットモールを作るためには先に駅を作る必要があったというわけです。なので、市長が無能だったわけではなく、法律上必要不可欠だったということで、僕の不勉強でした。アウトレットモール構想自体は無能だと思うけど、先に駅を作ったことは無能じゃありませんでした。ごめんなさい、市長!

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