見出し画像

【選挙ウォッチャー】 ジャーナリスト安田純平さんとネトウヨの自己責任論。

日頃からネトウヨをウォッチングしている人たちにとっては、またしても興味深い出来事がありました。シリアで過激派組織に拘束されていたジャーナリストの安田純平さんが解放され、無事に日本に帰ってきたのですが、そんな安田純平さんに対して、日本のネトウヨの皆さんが「死ね」だの「帰ってくるな」だの、非常に汚い言葉で罵っていたのです。

たいして事情を知らない者たちが3年半に及ぶ死と隣り合わせの拘束に耐え、悲願の帰国を果たしたというのに、そんな人に向かって日本人が「死ね」だの「帰ってくるな」だの言っているので、新たな地獄が日本にあったという話です。なぜネトウヨは安田純平さんに対し、自己責任論を振りかざし、ここまで攻撃的になれるのでしょうか。改めて、ネトウヨの思考回路を考察していくことにしましょう。


■ 【事実誤認①】安田純平さんは5回も人質になっている

安田純平さんは2004年にイラク日本人人質事件の消息を掴むためにファルージャに向かう途中に、もう一人の日本人ジャーナリストの渡辺修孝さんと人質になったことがありますが、3日後に解放されました。この時に外務省がイラクからヨルダンまでの航空運賃など約500ドル(約5万6000円)の拠出がありましたが、返納されています。2003年頃からイラク軍やイラク警察にたびたび拘束されることはあったようですが、人質になったのは過去に1回だけです。つまり、何度も迷惑をかけたようなイメージで語っているだけに過ぎません。


■ 【事実誤認」②】「行くな」と言われている所に行くのは自己責任

現在、シリアは外務省の渡航安全情報で「レベル4」になっていて、「行かないでください」となっています。まさかこの状態でシリアを旅行する人はいないと思いますが、ジャーナリストは別です。イラク戦争が起こっている時にもジャーナリストたちは現地から生々しくレポートをしていました。今では日本のジャーナリズムはすっかり衰退してしまい、有本香さん、青山繁晴さん、立花孝志さんあたりが「ジャーナリスト」ということになっていますが、彼らを「ジャーナリスト」と呼ぶのは相応しくありません。たいして取材していないからです。本当のジャーナリストは現場をよく取材し、報道の裏側をしっかり伝える人たちです。報道は時に命懸けになることがあり、ヤクザの世界を取材する人もいれば、犯罪組織を取材する人もいます。そんな中で、最近、サウジアラビア政府に殺されたとみられているジャマル・カショギさんも、自国の闇を取材していたら殺されてしまいました。今回、安田純平さんの命は偶然にも助かりましたが、時に死んでいてもおかしくない職業であり、それでも世界に現実を伝えるのがジャーナリストの仕事なのです。人が知らない真実を伝える。実は、それほどお金が儲かる職業ではありませんが、それでも伝えることで世界は少しずつ変わる意義のある職業であることは間違いありません。


■ 【事実誤認③】安田純平さんは韓国人である

ネトウヨの間では安田純平さんが韓国人であるという話で持ちきりです。確かに、安田純平さんは人質だった時に「私は韓国人です。名前はウマルです」という動画が公開されました。しかし、これは過激派集団から本名や国籍などを話してはいけないと言われていたため、嘘をつかなければならなかったとのこと。ネトウヨの皆さんからすれば「ほんまかいな!」という話かもしれませんが、これは本人でなければわからないことで、本人がそう言っているのですから、そういうことなのでしょう。仮に安田純平さんが嘘つきだと仮定しても、なぜ韓国人という部分だけは本当だと信じられるのでしょうか。このように都合の良い部分だけを信じてしまうからネトウヨになってしまうのです。


■ 【事実誤認④】ヌスラ戦線は外国人ジャーナリストを殺さない

安田純平さんが拘束されていたヌスラ戦線は、これまで外国人ジャーナリストを殺害したという報告は確認できません。知らないところで殺されているかもしれませんが、あまり情報がないので確かなことは言えません。ただ、イスラム国のように誰でも残忍に殺してしまうというわけではないようです。とはいえ、日本の公安調査庁のホームページによると、これまでヌスラ戦線が起こしてきたテロの数々は、たくさんの命を奪っています。そもそもたくさんの人を殺してきたヌスラ戦線が、今回も人質を殺さないとは限りません。これほど長期に拘束された例も珍しいのですから、何があるかは分かりません。ネトウヨの言う「殺されないから大丈夫だ」の奥には「殺されても大丈夫だ」があるのです。「テロリストにお金を払うくらいなら殺されてしまえ!」という日本人があまりに多いことに、僕たちは改めて驚かされています。


■ 【事実誤認⑤】安田純平さんは「反日」である

近年、有本香さんや上念司さんのような人を「ジャーナリスト」と表現するようになり、本物の「ジャーナリスト」が肩身の狭い思いをする時代になりましたが、政府の言うことをただ絶賛する役割の人は「政府広報」「プロパガンダに参加するバカ」です。ジャーナリストが最もやってはならないことの一つが大本営発表であり、時の政権に対しては常に「その裏側にある真実」を追い求める姿勢が求められます。なので、政権に少しくらい批判的な発言をするのは自然なことであり、何でもかんでも絶賛している奴は「安倍晋三ファンクラブ」であり、ジャーナリストの仕事をしているとは言えません。政権を批判するのは日本に対して愛があるからで、日本がどうなっても良い人こそが本当の「反日」です。間違っているものには間違っていると言っていかなければ、戦時中の日本のような失敗をすることになる。そうならないために取材をして真実を伝えるのがジャーナリストの役割なのです。そのジャーナリストに向かって、よりによって「反日」と言ってしまうのは、ジャーナリズムの意味を知らないアホです。ネトウヨは常に「反日」という幻と戦っているのです。


■ 自己責任論と政府による人命救助の原則は違う

国というのは国民を守る責任があります。台風の中でサーフィンしちゃった人も、天候を見誤って遭難しちゃった人も、真実を知りたくて取材中に拘束されてしまったジャーナリストも、国民を守ってこその国なのです。もちろん、波に飲まれて死んでしまうかもしれないし、山で見つけてもらえずに死んでしまうかもしれないし、過激派テロリストに首をはねられて殺されてしまうかもしれませんが、そうなってしまうのが自己責任だとしても、国には国民の命を救うために働く義務があります。もちろん、なるべく国に迷惑をかけないことが望ましいですが、もし国が見殺しにしてしまうのであれば、そもそも「国」なんて必要ありませんし、パスポートだって必要ありません。国としてどこまで国民の命を守れるのかが国のレベルであり、堂々と見殺しにしようとしていた上、ネトウヨが「死ねばよかった」と大合唱している日本は、国のレベルが著しく低く、外国人はドン引きです。

たとえ本人に過失があったとしても、人の命はかけがえがないものと考えるのが一般的な国家ですが、日本は「税金を無駄にする人間は死んでこい」なのです。「日本は幸せな国だ」と思っている人たちも多いのですが、それは海外の国々をよく知らないからで、こんなに人権意識の低い国はそうあるものではありません。本当はもっと危機感を持った方がいい案件なのです。


■ 麻生太郎「不摂生で病気になった人に医療費を払うのはバカらしい」

ネトウヨが絶対的に信頼しているカリスマ国会議員の麻生太郎副大臣は、10月23日の記者会見で「飲み倒して運動もしない(で病気になった)人の医療費を、健康に努力している俺が払うのはあほらしくてやってられんと言っていた先輩がいた。良いことを言うなと思った」と述べました。普通の人は「大臣がそんなことを言っていいの?」と思うかもしれませんが、ネトウヨの皆さんは「よくぞ言った!」というテンションなのです。ネトウヨのメンタルは常に強者側にあるため、不摂生で病気になった人には医療費を払うべきではないと考えています。ただ、これはかつて長谷川豊さんが発言して全仕事を干された「不摂生の透析患者は殺せ」というアレと根本的な思考回路は同じです。長谷川豊さんはこの発言と引き替えにすべての仕事を失うことになり、再就職先を求めて日本維新の会から衆議院議員を目指して落選しましたが、既に衆議院議員で副大臣になったような人間がほぼ同じ本質の話をしても干されることはなく、むしろネトウヨから大絶賛されている現実。わずか1.8%のネトウヨが、こうした発言に対する批判をブロックしているというわけです。今回の安田純平さんの一件と、どこかつながっているとは思わないでしょうか。


■ 不摂生で病気になった国民は、本当に自己責任なのか

まさか病気になりたくて不摂生をする人はいないことでしょう。不摂生になってしまうのは、人間としてのだらしなさだけが要因ではありません。例えば、ブラック企業で働いていて朝から晩まで仕事しかしていない人間が、たまの休みに何をするのかと言ったら、お酒を飲んでストレス発散することだったりするのです。ストレスでタバコの量が増える人もいるかもしれないし、徹夜をしないと仕事が終わらないこともあるでしょう。こうした環境を放置しているのは国家であり、政治家が仕事をしていない結果です。こんなことを書くと「不摂生を政治家のせいにするな!」というネトウヨが湧いてしまうかもしれませんが、政治家というのは国民が不摂生な生活をしないように運営していくことが仕事です。果たして、今、それができているのかと言ったら、できているどころか、人々がより不摂生な生活をせざるを得ない政治をしているのです。貧富の差を拡大し、人々をどんどん貧困に落としていき、貧困になったのは努力が足りないからだと言い、貧困ゆえに健康的な生活を過ごせない人たちを「自己責任」だと言って切り捨てる。こうして貧富の差が拡大しまくった結果、儲かる企業が儲からなくなり、儲からなくなった企業が何をするかと言ったらデータの改竄でコスト削減です。改竄がバレた企業は信用を失って競争から脱落します。長期的に見れば、今、儲かっている企業も苦しい立場に立たされる世界が広がっているわけですが、短期的に儲かるビジョンしか考えられず、成長するイメージを描けないのです。これに気付いている人たちは、自分がお金持ちであっても「もっと自分たちから税金を取っていいから庶民の生活を楽にするべきだ」と言っていますが、将来のビジョンが描けない人たちは「ここで儲けなければ死ぬ」と思っているので、さまざまな利権にしがみつき、日本の借金をより増やしているという悪循環です。このままでは日本経済が死んでしまうのに、アイディアの枯渇したオジサンたちが「弱者は死ね」と言っているのです。もっと大きなものが死んでしまうかもしれないのに、下ばかりを見て「自分はまだ大丈夫だ」と言っている情けない状態です。一人でも多くの人がこの現状に気付くべきなのです。


■ 人命の救出が税金の無駄遣いだという感覚

どうやらネトウヨの皆さんが考えているのは、人質を救出するために身代金を払ったら悪者が得をしてしまうのだから、身代金を払うべきではない。よって、人質は殺すべきだと考えているようです。しかし、そんな考えをしてしまう人間は日本のネトウヨくらいなものです。確かに、一時的とはいえ、身代金が悪者に渡ってしまうのは困った話かもしれません。しかし、大切なのはその後の対処です。身代金を払うことで人質が開放されるのであれば人質を開放してもらい、その後、人質のいない状態で悪者と対峙し、退治する方が戦いやすいことは間違いありません。これが一般的なセオリーではないでしょうか。どんな誘拐事件にしろ、ハイジャック事件にしろ、人質の安全が最優先されるのは当然のことで、人質を安全に保護した上で犯人を確保するというのは常識です。犯人逮捕を優先するあまり、人質が殺されてしまうのでは本末転倒なので、一時的に身代金を渡すことになっても、本当の解決は犯人を撲滅することで成立します。一時的な身代金の話ばかりをして、人質を殺した方がいいと考えるなんて、この国の人権意識はどうなっているのでしょうか。そんなことを言っていたら、フランスやイギリスを旅行した際にテロに巻き込まれても、過去にテロが起こったことがあるのに遊びに行ったのだから自己責任だと言われ、助けてもらえないことになるでしょう。日本政府は安田純平さんに対し、あまりに冷酷すぎました。政府が動いてしまうと「早く助けろ!」と言われてしまうので、無駄な批判を浴びたくないという理由で、死んだとしても自己責任だと言ってのけ、さまざまな情報に一切の耳を傾けず、無視を続け、今日の今日までノータッチを続けたのです。まさかカタールが解決してくれちゃうなんて。本当は国民一人の命のために自分たちの議席が奪われるようなことがあってはならないということで、できればそのまま死んでほしかったと思っているのではないでしょうか。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

今回、安田純平さんにこれだけのネトウヨが湧いたことは、国民の人権意識が著しく低いことを意味しています。国民の人権意識が低いので、支持されている政治家たちの人権意識も低いです。そして、「国に迷惑をかけるぐらいなら死んだ方がいい」という感覚は、まさに第二次世界大戦を彷彿とさせます。日本は戦後70年以上経っても、第二次世界大戦の頃のカルト的な価値観がネトウヨを中心に蔓延しているということです。こういったことに少しずつ危機感を持っていかなければ、気付けばカルトで染められているということが起こりかねません。この国から少しずつ「人権」が失われようとしています。日本国民が人間らしく生きられない環境が少しずつ整い始めているのです。[了]

いつもサポートをいただき、ありがとうございます。サポートいただいたお金は、衆院選の取材の赤字分の補填に使わせていただきます。