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【選挙ウォッチャー】 東久留米市長選2017・分析レポート。

まさにサンタクロースが全国の子供たちにプレゼントを届けているクリスマスイブの夜に、東京都東久留米市長を決めるための選挙が行われました。野党共闘の形で立候補しているのは、社民党所属の桜木善生さん。もはや生きているのかどうかも分からないほどの瀕死状態にある「社民党」ですが、実は、八王子市の佐藤あずさ市議をはじめ、西東京エリアでは社民党の議員たちが奮闘しています。社民党が立ち上がる選挙は全国的にも非常に珍しいため、東久留米市長選を追いかけることにしました。

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■ 並木 克美 48 自民・公明推薦
■ 桜木 善生 67 社民・共産・自由推薦

僕は12月12日に行われた公開討論会の報道席に座らせていただき、候補者の写真を撮らせていただくことができました。参加した感想は、現職の並木克巳市長も、新人の桜木善生さんも、どちらも素晴らしいということです。並木克巳さんは自民・公明推薦になっていますが、だからと言って、めちゃくちゃなクソ野郎というわけではありませんでした。僕は「選挙ウォッチャー」として全国を巡り、数々の臭いジジィたちを見ていますが、少なくとも並木克巳さんからは腐敗臭を感じませんでした。引っかかる点はあるけれど。


■ 社民党が負ける原因は選挙戦略が古いから

今回の選挙は、絶滅危惧種になっている社民党の候補者が立候補している珍しい選挙と言えます。なので、選挙の結果よりも「社民党がどんな戦いをするのか」が選挙ウォッチのポイントとなります。今となっては古き良き昭和の遺産になりつつある社民党ですが、選挙戦略もまた古き良き昭和の遺産のような雰囲気でした。

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今回、社民党がどんな選挙戦略で戦うのかを興味深く見守りました。結論から申し上げると、社民党の皆さんは、何一つ選挙サイエンスが取り入れられていない「クソ選挙」を展開していたと言えます。厳しい言い方をしていますが、30年前から何も変わっていない昭和の選挙を展開しており、こんな戦い方をしているから社民党が弱小政党に成り下がってしまうのだと訴えたいと思います。誤解のないように言いますが、僕は掲げている政策は、現職の並木さんより桜木さんの方が素晴らしいと思いました。僕に選挙権があったら桜木さんに投票していると思いますし、頑張ってほしいと思っていましたが、選挙戦略は古すぎます。選挙戦略がしっかりしていれば逆転の目があったと分析しますが、まったく勝てないのは選挙戦略が間違えているからだと言っておきましょう。

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社民党の桜木善生さんの陣営がやっていたことは「批判」です。現職の並木さんに冒頭からダメ出しをして、ゴミ袋の値段や公立保育園の話をして「子供に冷たい」とか言っているわけです。主張したいことはよくわかります。ゴミ袋の値段が高いことは生活に直結する問題ですし、待機児童が全国的な問題になっている中で公立保育園を全廃するのは見直すべきかもしれません。しかし、これは選挙戦略という観点では「最悪」なのです。社民党が現職に対するダメ出しをしている中、自民・公明推薦の並木克巳さんの陣営が何をしているのかを見てみましょう。

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並木克巳さんが第一に訴えていることは、まさかの「LOVE東久留米」。語っているのは「政策」ではなく「愛」なのです。これこそ本来、社民党の方々がやらなければならないことではないでしょうか。約7割の市民が「選挙に行かない」という選択をする日本という国の地方自治体の首長選で、政治的なメッセージはあまり効果を発揮しません。日頃から「政治の話はタブー」という価値観の中で生活し、しっかりと政策を読み込む人なんて全体の1割にも満たないので、語るべきは「政策」ではなく「愛」なのです。この傾向は、昨今のネトウヨが「反日か反日じゃないか」を基準に物事を語っている様子を見ても分かると思います。まずは批判をする前に「愛」を示すことで、ようやく批判する権利が与えられる。こんな面倒臭いステップを踏まなければならないのは「日本式」と言えますが、そういう文化になってしまっているのだから仕方がありません。まずはポジティブなことを語って主張を聞いてもらう準備を整えてから語るべきなのです。
桜木善生さんの陣営は、頭ごなしに批判的な話をしているように見えるせいで、有権者の心に主張が届かなかったと言えます。どれだけ立派な政策を持ち、どれだけ人格的に素晴らしかったとしても、選挙に勝てなければ意味がありません。推している候補者がなかなか勝てないという皆さんは、さまざまな選挙を見るところから始めるべきでしょう。少し宣伝っぽくなってしまいますが、日本全国の選挙を片っ端から現場で見ている僕のレポートには、そのノウハウが詰まっています。たかだか数百円という金額で公開しているものになりますので、金額以上の情報は得られると思います。


■ 並木克巳候補の主張

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8年前の選挙では落選し、4年前の選挙で市長になった人物です。実際に会ってみた感想としては、ハゲているけど、めちゃくちゃクソ野郎ではありません。女性にいきなりキスをするアホ市長もいる中で、人間として信頼できる印象がありました。ほとんどの政治家が上から目線のクソ野郎なので、そもそも人間として終わっているパターンが多いのですが、実に紳士的で、公開討論会が終わった後も市民に囲まれていたので、愛されている市長だと感じました。
市の借金も着実に減らしており、スマートで謙虚な姿勢が印象的でした。借金を減らすだけが市長の仕事ではないので、これだけで評価はできないのですが、市長がちゃんと仕事をしているかどうかを見る基準は、「市の借金を減らしているかどうか」が大きな部分を占めると思うのです。その中身を見てみると、必要な行政サービスを削って借金を減らしているので、これはこれで問題ではありますが、多くの人はそこまで調べたりしないのです。
選対本部長を務めるのは自民党の木原誠二衆院議員で、木原さん自ら選挙カーに乗って並木克巳さんの応援をしていました。並木さんの応援には初日から多摩地域の11市長が応援に駆けつけ、加計学園問題の疑惑の中心にいる萩生田光一議員の姿までありました。自民党が選挙に強いのは、有名な国会議員が小さな街の選挙にも応援に駆けつけるほどの結束力があり、有権者に訴えるところでしょう。「あの有名な国会議員も並木さんのことを応援しているのなら投票しよう」という気持ちにさせる。これが自民党の選挙戦略であり、どれだけ政治を腐らせても自民党が強い理由です。

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最終日には、東久留米駅にご覧の聴衆が詰めかけていました。これだけ見ると、やはり現職の並木克巳さんを応援している人が多いような印象を受けますが、残念ながら一般市民が集まっているわけではありません。並木克巳さんは公明党からも推薦を受けているため、公明党支持者の皆さん、つまり創価学会の婦人部のオバサンたちが動員されているのです。これはツイキャスのアーカイブにも残っていますが、公明党の阿部利恵子さんが聴衆と触れ合う様子を見ても明らかです。約7割の人が選挙に行かない時代にもかかわらず、たかが市長選の最終演説にどこぞの大臣が来るからって、わざわざハート型の東久留米グッズを作って見に来る奴がいるはずないんです。半数以上の人は応援に来た大臣のフルネームさえ言えないでしょう。それに、そんなに熱烈に応援する人たちがガチでいるんだったら、今頃、僕は選挙ウォッチャーのレポートで億万長者になっているかもしれません。応援に来ている人ですら投票には行くけれど、熱烈に投票を呼びかけるわけではない。Twitterで熱心に選挙活動して並木さんを応援している一般人は、ここに動員された人数の100分の1にも満たないのです。

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僕は選挙最終日まで並木克巳さんのことを一定の評価をしてきましたが、最後の演説で引っかかる発言がありましたので、残しておこうと思います。まずゴミ袋の値段が高いという問題は「周辺の多摩地域とエコに対する意識で肩を並べるために値段を高くしている」という趣旨の発言がありました。ゴミ袋の価格が高いことは市民の生活に直結する問題であり、「エコの意識のために値段を高くする」というやり方をするのだとすれば、それは大間違いです。市で暮らす貧しい人からも高額なゴミ袋代を徴収することになりますので、消費税と同じような逆累進性があります。「エコ意識」のために人々の生活がより困窮するようなことは避けるのが政治です。
さらに、公立幼稚園を廃止することについては「公立の保育園は市が負担しなければならないが、民間の保育園であれば国と都が負担する割合が多くなり、市の財政は守られる」という趣旨の発言をしていました。この考え方は「国と都が負担すれば市のお金を使う必要がなくなる」という自己中心的なものですが、国や都が負担したとしても「税金」であることには変わりがないので、「国や都のお金であれば問題ない」という考え方は無駄遣いにつながります。
これらの引っかかる主張に加え、実は、最も重要な視点が抜けていることも指摘しておかなければなりません。それは支出を減らすことばかり一生懸命ですが、市の歳入を増やすことができれば必要以上に支出を減らす必要がなくなるのに、「税収を増やす」ための施策は何も語られていないことにあります。「苦しい」という言葉を連発し、まるで市にお金がないかのように振る舞っていますが、本当にお金がない村に比べれば、まだまだたくさんあります。抜本的に見直せる部分はたくさんあるだろうに、生活に直結する部分から削減しているので、比較的富裕層の多い東久留米市だから許されていますが、市民に優しい政策を実現できているかと言ったら、そんなことはありません。


■ 桜木善生候補の主張

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具体的に数字を出して語れる人が少ない中で、具体的な数字を出してビジョンを語れる珍しい人でした。頭の良さや経験を加味すると、桜木善生さんの方が魅力的に感じますが、ライバル候補の並木さんがクソ野郎だったら圧倒的に桜木善生さんを応援しているところなのですが、並木さんがそこまで悪くないので、桜木善生さんにとっては厳しい戦いになることは当初から予想されていました。
桜木善生さんが政策を語る中で印象的だったのは、いまだに「脱原発」を公約に掲げていること。しかも、ただ理想論として語るのではなく、東久留米市でできることという観点から太陽光パネルの設置を掲げていました。
実際に公開討論会に参加して意見を自分の耳で聞きましたが、桜木善生さんは並木克巳さんのことを真っ向から全面的に批判しているわけではありません。公立保育園問題などの細かい争点はあるものの、並木克巳さんのことを一定の評価をしていて、その上でもっと素晴らしい政策を掲げて立候補しているのです。産経新聞を読むと、まるで真っ向から全否定しているような感じでニュースが発信されていますが、けっしてそんなことはありません。ただ、応援に入った議員たちは並木市長を真っ向から批判していたので、このスタンスでは票につながらないということは突っ込んでおきたいと思います。ギリギリの戦いを演じることはできましたが、うまく選挙を戦うことができれば十分に逆転はあり得たと分析しています。


■ 前回(2013年)の選挙結果

並木克巳さんは2009年にも市長選に挑戦し、この時には民主・社民・国民新党に推薦された馬場一彦さんとの一騎打ちになり、僅差で敗れています。そして、リベンジマッチとなった2013年はダブルスコアで勝利を飾り、市長になりました。

[当]並木 克巳  44 新 1万6024票
[落]草刈 智のぶ 55 新   8789票
[落]前田 晃平  30 新   6958票

投票率は34.55%。並木さんは自民・公明から推薦され、草刈さんは共産推薦、前田さんは維新が推薦していました。相手が野党統一候補ではなく、共産党の単独推薦の候補だったため、かなり順当に並木さんが勝ったという雰囲気です。しかし、このデータは野党が共闘した場合には逆転できる可能性があることを示しています。


■ 今回(2017年)の選挙結果

前回は共産党と維新の会で票が割れたため、自民・公明の圧勝となりましたが、今回は野党統一候補が生まれたことにより、かなりの接戦になったと考えられます。票差がわずか2300票ほどであることを考えると、逆転の目は十分にあったはずですが、一歩届かなかったのは「選挙戦略」が古すぎたことに尽きると思います。

[当]並木 克巳 48 現 1万8847票
[落]桜木 善生 67 新 1万6507票

投票日の天候は「くもり」で、投票率は37.05%となりました。前回に比べると投票率は2.5%上がっていますが、並木克巳さんが前回より2800票ほど積んでいるので、並木さんを支持する人が増えたという結果になります。批判をせずに主張をするのは難しいのですが、「一定の評価をした上で批判する」ということができるようになると、桜木さんにも逆転の可能性が出てきたと思われます。けっして清潔感があるとは言えないオジサンやオバサンたちが駅前に集まり、ネトウヨの言うところの「プロ市民」のような空気を出して選挙をしていれば、それは票も伸び悩むという話なので、自分たちが無関心な有権者たちにどう映っているのかを考え直す必要があります。


■ 選挙ウォッチャーによる分析&考察

予想通りの結果と言えば予想通りの結果です。もしかすると、負け癖がついている社民党の方々は「接戦まで持って行けたことだけでも評価するべきだ」と満足するかもしれませんが、この選挙は「本来勝てたはずの選挙を全身からプロ市民感を出しまくったオジサンとオバサンがマイナスプロモーションをして、票を取り逃して負けた選挙」であると厳しく断じておきたいと思います。
これはかねてから共産党の方々にも言っていることですが、ポジティブな言葉が並ばない旗や横断幕は市民の心を掴まず、むしろマイナスプロモーションとして働きます。あの界隈のオジサンとオバサンが掲げている「安倍政治を許さない」は、その最たる例なのです。社民党の皆さんは、いつまで土井たかこが活躍していた昭和の時代と変わらない選挙を続けるのでしょうか。今は「平成」であり、その「平成」もまた終わろうとしている時代なのです。学んで進化させていかなければ勝てるものも勝てないのです。本気で勝ちにいかなければ世の中は変わりません。[了]

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